第3話 異世界へ転移?
物凄い煌めきと共に、何か音にならない様な圧力を感じて眩暈を覚え菅野翠は叫んでいた。
叫んだけれども自分の声は聞こえない。さっき迄、学校に居た筈なのだが不思議な灰色の空間を漂っている感じがした後に、直ぐに意識を手放した。
どれくらい気を失っていたのだろうか?
翠が気がつくと側には東麗羅が倒れていた。
「麗羅! 麗羅っ‼︎ 大丈夫⁈」何処か怪我をしてる風は無い様だ。
気を失っているだけの様だ。身体を揺すっているうちに彼女も直ぐに目覚めた。
「う〜ん。なに〜、ねぇ、な〜に、なにがあったの〜」と相変わらず緊張感の無い喋り方の麗羅。
「分からないけど、なんか凄い光ったよねぇ」と翠も吊られてのんびりと答える。
「そっだねぇ〜 あっ、みんなのところへ行こうよぉ〜」との具体的な指針を普段の、のんびり感とは違う事を麗羅が言う、彼女はやる時にはやる子なのだ。
取り敢えず、みんなが居るであろう武道場に行く事にした。
剣道部の道場と弓道部の射場は隣り合わせだ。そこまで行けば複数人の先輩、後輩と同級生達が居るだろう。二人は並んで歩き出した。
道場に着くと、みんなも原因が分からず混乱している様だった。
なんだったんだなぁどとザワついている。ふと校庭の外を見ていた生徒が叫んだ。
「どうしたんだ!周りの家はどうした?」
「本当だ何も無い!」口々に叫ぶ生徒達。
学校と住宅地とのフェンス越しの風景が一変していた。
皆が外が良く見える場所に駆け寄る。其処には市営の住宅地とかが有った筈の場所には、ただ草原が広がっているだけだった。
そして隣りのテニスコートから女の子の悲鳴が上がってきた。
テニスコートのフェンス越しに異様な生物達が覗き込んでいる。
緑色の肌を醜悪な小鬼の様な生物が『グギャ、グギャ』と喚きながらフェンスにへばり付いている。
その小鬼はテニスウェア姿の女子を見て異様に興奮している様だった。
薄汚い一枚の腰布をもっこりと持ち上げて悍ましいモノを勃起させている。
直接的な欲望に塗れた視線に犯され彼女達は恐怖していた。
彼女達は普段からJK好きの男性からは露骨な性的視線は向けられている。
だが、それとはレベルが違う直接的な性欲の込められた視線だった。
貞操の危険とかのレベルとは違う人種族としての恐怖だった。
ただ柔らかな肉を喰らい異種の雌を犯し孕ませる様な視線。
薄い本などに描かれる存在そのモノ、そう異種の男は喰らい異種の雌は犯孕ませる悪魔的存在だった。
異世界物の本などではゴブリンと呼ばれる生物だ。そんな存在に彼女達は怯えていた。男子部員達は状況が呑み込めずオタオタしているのみだ。
その時に真っ先に声を掛けて動いたのは意外な事に普段は、おっとりとしていると称される東麗羅だった。
「翠っ! 弓の用意!援護射撃をして、出るよっ‼︎」と叫びながら木刀を握る。
「りょっ!続いて出るよ!後輩君達は防具を着けて来てっ!」
「後、矢を有りったけ持って来て!」
直ぐに菅野翠は反応する。弓と矢を手に取り麗羅の後を追う。
「おうっ‼︎」と男子部員の声が続く。
異例の事象にフリーズしていた彼等も麗羅の声に反応して動き出した。
麗羅や翠とか他の女子部員達は所謂、緑の小鬼、異世界用語でゴブリンと言われる異世界の魔物生物を女性の敵と認定した瞬間だった。
テニスコートに翠達が乱入するとテキパキと指示を出す麗羅と翠。
「剣道部は接近戦っ! 弓道部は味方打ちに気を付けて!」と麗羅。
「後輩君達は女子テニス部員を守ってっ!」とは翠。
「イヤァーッ!」裂帛の気合い込めてフェンスを攀じ登ろうとしていた個体に鋭い突きを放つのは東麗羅だった。
「おどれらー! ワシんとこのシマにカチコミ掛けるたぁ、えぇ度胸じゃ‼︎」
「コレからぁ〜っ!タマの取り合いじゃぁ!覚悟せいっ‼︎」
なんか約1名、不穏な発言をしているのは菅野翠である。
彼女の祖父は大の『仁義無き闘い』の大ファンであり、このシリーズを昔はビデオテープ、現在はブルーレイで全作揃える程のガチファンである。
お爺ちゃん子だった翠は、そういったメンタリティーでも祖父の血を色濃く継いでいるのである。
ただ彼女の祖父、曰く
『昔はあんなモンじゃないけんのォ、映画じゃけん、ゆる〜く、描いとんのじゃ』
某地方、マジで怖いんですけど。
ヒュンと風切り音をさせて矢はゴブリンの心臓と思き部分に突き刺さる。
ギャッ!と鳴き声を上げてフェンスから弾ける様に落ちる。
んっ?と翠は思った。確かに練習用の安い竹矢じゃ無くてカーボンシャフトの大会用の矢で巻き藁用鏃(鉄製)を持って来たのだが、怪物に簡単に矢が突き刺さる。
それどころか突き抜けている。
そして、翠や麗羅達の様に異世界の魔物を仕留めた者達は一様にピロンという電子音の様な音が頭の中に響くのを感じた。
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