第49話
準備はよろしいですか? それではダンジョン体験会に出発します。
まずは地上1階部分。こちらは下り階段があるだけの一部屋しかありません。現在はここにダンジョンコアも設置されていますが、これは破壊不可能、移動不可能なオブジェクトとしてありますので、ご安心ください。
現状何もない殺風景な部屋ですので、ここに案内板ですとか注意書き、あとはそうですね、例えばセルバ家の旗ですとか飾るのも良いかなと思っています。
さあそれでは階段を降りて地下1階へ。いよいよ本格的にダンジョンが始まりますよ。
「旗を飾るのなら国旗と州旗、それと家の旗を並べると見栄えも良いかもしれないね。ギルドからも申請した段階で聞かされるだろうけれど、注意書きを改めて出しておくのも良い考えだね」
地下1階に到着しました。
ここはスタート地点として安全な部屋にしてあります。魔物の出現や罠の設置はありません。ここで集合したり、打ち合わせをしたり、荷物の確認をしたりといったことができるようにということですね。
この部屋には本当なら常に明かりを用意しておきたいところなのですが。今現在はダンジョン全体を明るくしてあるので良いのですが、スタート地点が暗いのはどうかな、待ち合わせ場所、打ち合わせ場所が暗いのはどうかなと思っているので。でも上が明るくてここも明るいと、この先もと思われてしまうかな。うーん、ギルドに丸投げ案件でしょうか。
さてスタート地点の部屋としてはどうでしょう。混乱しないように混雑しないように競合しないようにと、ギルドの方で入る人数は制限してくれるということだったので、これくらいで良いだろうと判断したのですが。
「十分だろう。装備を調えて、武器を構えて、ふむ、取り回すにもちょうどいいな。扉があれで、構えていても問題なさそうだな」
それでは扉を開けて通路へ出ます。ここからは想定するパーティーの動きも見たいので、隊列を組んでいきましょう。
通路の幅と高さはどうでしょう。一応最大3人が横に並ぶことが可能な幅を見てはいますが、3人だと武器を横に振るのは難しそうですね。高さは、剣を振り上げるには問題ありませんか。良さそうですね。
今回は体験ということもあって明るさは十分に確保してありますが、ランタン1つだと恐らくそこまで先は見えないのではないかと思っていて、慣れるためにも一定間隔で明かりをともすことも検討しています。
「明るいと家の地下室と変わらないわね。この石組みも整っていていいわ。あら、これはコケかしら。あらー、雰囲気いいわねえ」
「イレーネ姉様、勝手に前に出ようとしないで。一応危険な場所という前提で動いてください。急に横に出られると焦るんです」
さあ、進みますよ。しばらくは一本道ですからね。迷うことはありません。
そしてご覧ください。魔物が出現し始めました。といっても最初はスライムなのですが。
このスライムはお掃除が専門で、ダンジョンを開放した後も攻撃性は一切持たせません。ただその辺りにいて、ゴミとかほこりとか雑草とかを食べて過ごしているだけの安全なスライムです。
せっかくですから叔父様、そのスライムを剣で突いてみてくださいな。
はい、大丈夫です。はい、突かれたことで一撃で破裂して消滅しました。あとに残るのは体液の水がこぼれた跡だけです。
これがこのダンジョンでのスライムの特徴でもありますね。破裂して消滅するのですが素材どころか魔石も何も残しません。無害な上に何の得にもならないのです。こうしてスライムは放置しておいて問題ない、放置した方が手間も取られなくて良いと考えてほしいと思っています。
「うちのスライムさんとは長い付き合いになっているから、倒されるところを見るといい気持ちはしないわね。ね、ほかの種類のスライムが登場するということはないの?」
「考えてはいますが、それをやってしまうと冒険者が常にスライムにおびえるような状態になって、お掃除スライムたちが仕事をしづらくなってしまいそうなのですよね。ですからやるとしても、もっとずっと深い階にするか、そもそもの形を変えるかになるでしょう」
「考えてはいるのね‥‥」
さあ最初の曲がり角が見えてきました。進行速度に併せて、この辺りを通過するタイミングで、角を曲がったところにいるセラータ・ラットという魔物が行動を開始します。
最初の攻撃性を持った魔物ですね。要するに魔物化したイエネズミで見た目も大きくなっただけですが、牙と爪が危険で、まれに毒を持っています。
あ、今回は攻撃性をなくしていますから戦闘にはなりません。彼らも普通に避けてくれますからね。もし戦闘を試してみたい場合には、後ほど行動をアクティブに変更したものを用意しますので、そちらでお願いします。
それでは角を曲がってみましょう。ほらいました。1体ですね、大きなイエネズミでしょう? 魔物化したことで大きくなって、牙と爪が戦闘向けに形が変わっています。
地下1階で普通に戦闘ができるのは基本的にはこのラットたちだけなので、毛色、毛並み、顔つき、体つきとさまざまなバリエーションを用意して、飽きさせないようにしてみました。出現場所も、最初のこの1体以外はランダム配置なので変化がでますよ。
「普通に大きなネズミだね‥‥顔も別段怖くはない。これが魔物なのだね」
「僕は剥製にしたものを学校で見たよ。でもそれはこんなにきれいじゃなかったな」
「何というか、こうしてみると顔が間抜け、いや、何というか普通にネズミだな。せめて会った瞬間には牙を剥くとか起き上がって爪を見せてくるとかしてほしいと思ってしまうが」
「まれに毒持ちっていうのが嫌らしいわね。毒消しって意外と高いから持っていない初心者も案外いるのよ」
攻撃性のないラットはただの大きいネズミですからね。大きすぎるけれどただのネズミ。大人数にキニスくんまでいるから、ほらちょっと腰が引けている。
ラットも怖がっているようですし、ここは見逃して先に進みましょう。はい、さようなら。帰り際にもまた会ってしまうかもしれませんが。
地下1階は通路とスタート地点を含めていくつかの部屋と通路で構成されています。要するにほとんどが通路ですね。ただぐるぐると歩き回るだけではつまらないので、一定間隔で分かれ道があって、どちらに進むかを選んでもらう形になっています。別の場所に進む、ぐるっと回って戻るだけ、行き止まりと通路だけでも楽しめるようにしてみました。
そして通路の途中や行き着いた先には部屋があって、どこかには宝箱もあるので探索をさらに楽しめますよとなります。
そういえば地図はどうするのでしょう。今回はわたしが案内なので不要なのですが、叔父様も叔母様も用意されるようなそぶりもありませんでしたが。
「ああ、私は紙とペンを常備はしているわよ。今回は案内があるからいらないだろうと思って出していないけれど、えーとね、ほらこれ。初めての場所はさすがに迷ったりして危ないからね、ほかの誰もやらないなら私ができるようにね」
「俺は地図は書かない。剣と盾を手にしているから書きようがないということもあるんだが、前衛ってのはそんなもんだ。記録を付けるのは中衛か後衛の手が空いている者ってのが基本だろう」
「こんなこと言っているけれど、私が持っているっていうことは私たちのパーティーだと私が書くことが多かったってことでもあるのよね。私前衛なのに、おかしいわね」
「‥‥そんなもんなんだよ。地図の重要性は分かってはいるんだが、そこまで気が回らないやつが多いんだよ」
1階はともかく、このダンジョンは2階以降だと通路の分岐が多いので地図は大事だと思うんですけど。その1階だって宝箱を全部開けようと思うのなら、地図で部屋の場所を確定させておかないと。分岐でいちいち迷っていたら時間ばかりかかりませんか。
「宝箱があるのか。部屋にだけか? 違う? そうなのか、そうすると‥‥うわ、今度は丁字路かよ。これを全部覚えておいてってわけにはいかないか、面倒くせえな。って行き止まりかよ、戻るぞ場所交代だ。くっそ、面倒くせえね」
うーん、とっても罠が効きそう。そろそろ始めますか、始めましょう。
前衛と後衛の位置を入れ替えている間に、3号ちゃんに指示して罠の設置位置をちょこっと変更。さっきの分かれ道の残りの通路へ入るからね。そろそろ食らっていただきましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます