第48話

前衛は叔父様と叔母様。さすがに心配だということだったので、2人はそれなりの装備をしている。フル装備というほどではないけれど、革鎧と剣と盾ね、たとえ戦闘があったとしても、1階なら余裕で対処できるでしょう。

お兄様も剣だけは持ってきていたのは、どうやら装備して入りたいみたい。ポジションは前衛にするわけにはいかないので後衛で。

中衛はお父様とお母様。2人の位置は安全第一。罠にかかることを避けたい、バックアタックを受けることも避けたい、ということだね。

空いたわたしも後衛、お兄様の隣り。でも子供2人が後衛ってどうなのということで、キニスくんが護衛役として参加する。まあ今回はお散歩会なので危険はないし、わたしとキニスくんには3号ちゃんの案内付きだから心配することは何もないのだけれど。

前2人と後1人だけが装備あり、あとの3人は装備無し。一応保存食と水筒という定番の行動食は持ってきた。これはダンジョンでの一般的な休憩、食事体験もしておこうということだね。

基本形に近い6人+1匹のパーティーでの探索だからね、これで通路の幅や高さ、部屋の広さなんかも調整できるよ。通路が狭ければ戦闘もできないし、部屋が狭ければ休憩もできなくなるからね。


それから今回の体験会、街道から直接乗り込むのはいくら何でも目立つので無しにして、別荘から森の中を突っ切って3号ちゃんのところまで歩くよ。

お母様もいるので道は歩きやすいように作った。別荘から森に入って、歩いて行けるコース。何だったらこの道はそのまま残してもいいと思う。

今日は朝からお母様、お兄様も別荘へ来ていて、遅くなるお父様と叔父様を待っているところ。

お兄様は叔母様に剣の振りを見てもらっている。

そしてお母様は庭に出されたスライムさんに、ルパさん、ニクスちゃんと一緒に寄りかかってぼんやりしているところ。

ルプスさんだけは元気に池まで魚を獲りに行った。どうも魚食に目覚めたらしいよ。

わたしはテラスでお茶。足下にはキニスくんが丸くなってすぴすぴ鼻を鳴らしている。その耳がピコリと立って入り口の方を向く。


『ブルーノ様、ベルナルド様がお着きになりました』


キニスくん優秀ね、良い番犬だわ。

「お父様たちが来られたようですよ」

あらそうお?という返事が返ってくるということはお母様も眠っているわけではないのですね。ルパさん、ニクスちゃんは特に動かないし、この子たちは大丈夫なのだろうか。

お兄様が練習をやめて汗を拭き始めたところで、表の方でガタガタという馬車が近づいてくる音が聞こえてくる。

お馬さんたちも最近ではウルフたちがいても気にしないことにしたようで、馬車は滑らかに別荘前へと横付けされた。

「やあ、お待たせ。ようやく来れたよ」

「お疲れ様です。叔父様もようこそ」

「ああ、ダンジョンに入れるなんて久しぶりだからな。正直なところ楽しみにしていたんだ」

お父様も叔父様も視線がちらちらと庭の中程に行く。初めてだったっけ、初めてだったかも。

「お二人は初めてでしたか。あちら、この森の警備をお任せしているウルフたち家族です。スライムさんのところにいるのがお母さんのルパさんとお子さんのニクスちゃんですね。そしてこちらにいるのが、こちらもお子さんのキニスくん。お父さんのルプスさんは今は池の方へ行っていますね」

軽く紹介してみる。どうですか、立派な番犬たちですよ。

「ああ、いや、話には聞いていたがな。なあ、子供はまあでかい犬だが、あれは大きすぎないか?ウルフはあんなに大きな魔物だったか?」

「ノッテフォレストウルフという固有種ですね。ほかのウルフがどうかはわかりませんが、彼らは強いですよ。脚を軽く振ってゴブリンが吹き飛んでいくくらいですね」

「ううむ。ウルフは俺も狩ったことはあるが、もっと小さい印象だ。それにそこまで強いという印象もない。まあ初心者の獲物の一つくらいの考え方だったぞ」

「そうなんですね。おかげさまで、彼らが森の中を見回ってくれていますからね。とても良い番犬ですよ」

叔父様は興味があるようなのだけれど、お父様はちょっと腰が引けた感じ。お母様はまったく気にせずにルパさんと一緒にお昼寝余裕なのにね、不思議だね。


全員揃ったところでいよいよダンジョンに向かって出発します。

あくまでも体験会なので、持って行く道具は最低限。ダンジョンは明るくするからランタンすら無しなのよ。途中で雰囲気を見たくなったら暗くして、ランタンは3号ちゃんに用意してもらうつもり。

叔父様と叔母様の装備が整ったところで、お留守番をキアラさんに任せて森に入る。ルパさんとニクスちゃんは起きもしなかったけれど、キニスくんはちゃんと先導役を買って出てくれた。できた子だ。

「ね、この道もあなたが作ったのよね」

「そうですね。街道から入るのは目立っていけませんし、普通に森の中を歩こうと思ったらきちんとした恰好をしないといけないし、面倒なので。ここまで整えてあれば普段着そのままで歩けるでしょう?」

「いいわよね。こう、緑が豊かで、あちこちから鳥の声が聞こえて、風で葉が揺れる音が聞こえて。気持ちが良いわ」

「はい、良いと思うのです。以前西の方で滝を見つけたときにも思ったのですが、こう、森の葉ずれ、鳥のさえずり、川のせせらぎ、どれも心や身体を癒やす効果があるのではないかと思うのです。危険な魔物ですとかいなければ、環境を整備すれば観光にもつながるのではないかと思うのですよね」

「ああ、そんなことを言っていたわね。管理する人を置いて、歩く道を作って、キャンプ場?を作って泊まれるようにして?確かにアイデアとしては面白いけれど、さすがに危ないわよ」

「そこなんですよね。この森はわたしが管理しているので安全ですけれど、それを喧伝することはできませんし」

キニスくんが先頭からわたしの隣りまで下がってくる。はっはという吐息、ぶんぶんと振られる尻尾、完全に大きな犬。でも普通の人から見ればウルフたちは危険な魔物で、彼らがいるから安全だとはとても言えないのが残念なところ。

木立の間から見える道の先に、人の背丈よりも高く不自然な形で盛り上がった地形が見えてくる。さあ、到着しました。

「ここがそうなのかい?」

「はい。いかにも森の一部が盛り上がりましたよという形でしょう。ダンジョンができて盛り上がった結果、丘のようになって、そしてその課程で倒木が発生して地面を削って、そうしてダンジョンが姿を見せた、とそんな感じですね。違和感はないと思いますが」

「なるほど、ここから街道は、見えないね。ちょうど良いくらいの距離なのかな」

「歩くにも苦のない距離にしたつもりです。まだ場所の調整は効きますから、そこも確認ということでお願いします」

丘の正面側、街道方向に面する側に回ると、石組みのダンジョン入り口が姿を現す。

「いかがでしょう、叔母様には良さそうという評価はいただきましたけれど、こんな形で入り口にしました」

「いいんじゃないか、よくあるダンジョンだ。大体の冒険者がダンジョンと聞いて思い浮かべる形がこれだろう」

「この向きがそのまま街道へ向かっていますので、街道沿いに施設を作って、そこからここまで道を通す、というイメージです。安全ですとか管理のためにも、その道とこの丘とを囲む形で柵を作った方が良いだろうとは考えていますが、実際のところはギルドと相談しながらになるでしょうし、その辺りのこともお任せします」

「そうだな、一般的にはダンジョン周辺は封鎖、そこまでの道も囲って、で、道の入り口もゲートで封鎖だろう。出入りはギルドが管理して、誰が入って誰が出てこないのか、見ている必要があるからな」

概ね想像通りよね。それではいよいよダンジョンに乗り込みましょう。

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