第47話
それではいよいよダンジョンの設計に入ります。
まずはすべての基準になる地下1階。切り出した石ブロックを丁寧に積み上げたような作り。ところどころにコケ。魔物は基本的にランダム配置。直径15センチか20センチくらいのスライムと、ほかには体長が60センチくらいあるラットのみ出現。
地上から下りる場所は部屋にしておこうかな。合流につかったり休憩に使ったりね。その部屋から出られるのは鍵のかかっていない扉。ここでこのダンジョンには部屋と扉があるとわかってもらえるでしょう。
そして扉を開けたら見通しの良い直線の通路。少し進むと通路の隅にうごめくスライムが出始める。スライムは基本的にお掃除役として配置する。そして当たり判定もダメージ判定もあり。剣でつつかれたり、杖や棒でポカリとやられたら破裂して消える。中身はただの水で、ドロップ品は魔石を含めてなし。倒されたらフロア内のどこか、誰もいない場所を選んでランダムに即時リスポーン。これでこのダンジョンのスライムは無害な上に魔石も落とさないとわかってもらえるでしょう。
続けてラットが登場し始める。タイミングとしては最初の曲がり角の向こう側からとかが良いかなと思っている。向こうからは攻撃をしてこないけれど、こちらのことをチラチラと見て、避けるそぶりをする。そのまま通り過ぎようとすると側面か背面からの攻撃を行う。
大きさ強さ、行動方針にはばらつきあり。最小で40センチくらい、最大のものは1メートルくらいあってもいいかも。少ないながらも積極的に攻撃してくるタイプがいたり、前方の敵に集中していると投げ降ろしていた荷物を漁ろうとしたり、まれに攻撃に毒判定が乗るタイプがいたりもするといいかも。1階は敵といえる魔物はこのラットのみ。まずはお試しだからね。強くはないよ。
スライムとラットだけというのも寂しいかな、どうだろう。レアポップの魔物も考えておくと良いかもしれない。要検討ってことにしておこう。
1階のフロア構成は基本通路と小部屋の組み合わせ。たまに分岐があったり行き止まりがあったりしながら奥を目指す。扉付きの部屋は3カ所もあればいいかな。
1つは鍵なし空き部屋。1つは鍵なし階段部屋、水場あり、休憩しましょう。1つは鍵あり、小窓が付いていてそこから部屋の中に宝箱があるのが見える。中身はポーション類か魔石か、安い武器防具か、価格を決めてリストを作ってそこからランダムにしよう。階段部屋以外の2部屋のどちらかが鍵ありの扉になって宝箱があるかはこちらもランダムで。宝箱が開けられるたびに変更。リスポーン間隔はどうしようか。人の入り次第になるのかな。
もう一つ、隠し扉を用意。きちんとマップを書いていけばわかるようにフロアの中央付近に空きができるようにして、そこに隠し部屋だね。そこにも宝箱を設置、普通よりも強い魔物がいて、それで箱の中身はさっきのものより価値が上になるように。
罠も場所はランダムでフロア内にいくつか設置。
1つは踏むとちょっとだけ沈んで段差ができるタイル。油断しているとつまずくよ。
1つは踏んだタイルがスイッチになっていて、前方斜め下から矢じりのない矢が1本飛んでくる。角度的には踏んだ人のおなかを目掛けてでいいかな。鎧を着けていれば大丈夫。着けていなかったら頑張れ。
1つはタイルを踏むと頭上の石ブロックのところからラットが1体落ちてくる。まあたいしたダメージにはならないけれど驚くでしょう。先々の魔物召喚系の紹介だね。
こんな感じで地下1階でひととおりの基本要素を体験してもらおうかなという考え。いかがでしょうか。
『よろしいのではないでしょうか。この先がどうなっていくのかを想像させる悪くない構成だと思いますが。あとは実際に歩いてみて、魔物の配置数などを調整することにしましょう』
そうね。とにかく一度見てみないことには始まらないし。それで数の調整をして、あとはそれを基準に難易度を上げるか下げるか、サービスの提供をどこまでするか決めていくことにしましょう。
「ということでお試しダンジョン散歩会をやってみようと思うのですが」
今日はお父様もいらっしゃるということだったので、実家に帰って全員で夕食です。このまま泊まって、明日のお昼頃に戻る予定になっている。
ダンジョンに入っての確認作業は叔母様はやるよと言っていたし、お兄様もやりたいでしょう。どうにも好奇心旺盛なお母様も入りたがるかも。というところでお父様はどうしますか。
「まだ地下1階部分だけですが準備ができましたから。明日戻ったら打ち合わせをして、それであさってにはそこだけでも見てもらおうかと」
「待ってくれ、話には聞いていたけれど、ダンジョンだろう? そんなに簡単に作れるものなのかい。にわかには信じられないのだが」
「信じられない気持ちもわかるけれど、驚くほど簡単だったわよ。気がついたら場所が用意されていて、気がついたら地下に空洞ができていて、はいダンジョンが誕生しましたよ、とそんな感じよ。お兄様もあの意味の分からなさを実際に体験しておくべきよ」
褒められていますかね?
微妙?
『気持ちも分からなくはありませんが、できるものはできるのですから、仕方がありません』
ね、仕方がないわよね。今後のことを考えると、わたしが用意するわけにはいかない部分こそが大変だと分かっているから、ここに時間はあまりかけたくないのよね。サクサク行きましょう。
「それでですね、魔物は配置しましたがどれも攻撃はしてこない設定にしますし、罠もダメージを受けないような調整に下げてありますから、危険はありません。わたしの想像上のダンジョンですからね、実際の中の様子を見てほしいのですよ」
「私は一応入る予定でいるから、あとは皆の確認ね。どうする?」
「僕は行きたいな。本当ならダンジョンなんてギルドに登録して何年も活動して実績を積まないと許可が出ないような場所でしょう。こんなチャンスはなさそうだし」
「私も見てみたいわねえ。ダンジョンてお話では聞くけれど、本物は見たことがないのだもの。安全だと言うなら、それは興味があるわ」
「2人は行きたいそうよ。それで、ブルーノ兄様はどうします? あ、念のためベルナルド兄様には早馬をお願いしておいたから、来るかもしれないわよ」
「え、来るのかい? それはまあ聞いたら仕事を放り出してでも来そうではあるけれど」
おっと叔父様も来そうなのね。でも仕事は大丈夫なのかしら。これからも2階以降を作って、ポイントポイントで見に行くつもりなんだけど。
「うーむ、あさってだね? 午後にしてもらえるかい? それならば参加しよう。私も興味がないと言えばうそになるしね。それに、こう言っては何だが、ステラがダンジョンを作れるといっていてもこれまでは分かりやすいものではなかったろう。今回は本物の、いわゆるダンジョンになるのだろう? うむ。ステラのその能力の確認という意味でも私は見ておかなければならないだろうね」
「あら、あなたはいまだにそんな疑問を持っていたのね。私はもうこれはこれで良し、というつもりだったのだけれど」
そっか、お父様はそこに完全に納得していたわけではないのね。まあ理解はできるわ。ダンジョンマスターだ、ダンジョンだって言っても今までに見せたのは1号ちゃんと2号ちゃんで、2号ちゃんに至っては森だものね。普通の感覚だと何言ってんだってことになるかもしれないわよね。
3号ちゃんはちゃんとした、この言い方も変だけど、まあ一応一般的な意味でのダンジョン、ダンジョンと言って想像される形にはなっていると思うから、そこは安心してほしい。ダンジョンを作れる、管理できるっていうことがどういうことなのか、これで分かってもらえるでしょう。
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