第46話
「種属とか性別ってダンジョンを作るときには関係ないわよね?」
「いえ、ありますとも。鍵とか罠とかもそうなんですけど、職業に関わることだけでなく、種属とか性別に関わる謎解きがあったっていいと思うのです」
「ん? 謎解きって?」
「ものすごく分かりやすいものだと、鍵の隠し場所を種属特有の言葉で書くとかですね。あとは手形で判別する仕掛けですとか、女性でなければ知らない内容の設問を設けるですとか、できると思うのです」
「難しすぎない? 私、攻略できる気がしないのだけれど」
「最初からそこまではしませんよ。でも深い階層で簡単な謎解きしかないのはそれはそれでつまらないですしね。魔物が強くなるだけではない、ダンジョンならではの難易度というものも取り入れたいのです」
「そういえば、罠が罠がというけれど、どういうものを考えているの? 私が知っている種類なんてたかがしれているのだけれど」
罠と一言に言っても千差万別。組み合わせ次第で致命傷になるようなものだって山ほどある。そしてこの世界ではそこまで罠が重要視されていないということも分かった。
でもやっぱり罠を使いたいじゃないね。罠があってこそのダンジョンよ。ワープゾーン食らって石の中にいる! とかね。まあ本当に石の中に飛ばしちゃったらまずいからやらないけれど。
「飛んでくる矢、飛び出す槍、降りてくる天井、狭まってくる壁、吹き出す熱湯、落とし穴、回転床、ダークゾーン、ワープゾーン、一方通行の扉、滑る床、低く腹ばいにならないと進めない通路、入り口が高い位置にある通路、毒や麻痺、睡眠といったガス、召喚される魔物。罠と言っても多様ですよね。一つだけで完結するのではなく、滑る床の先に落とし穴とか、落とし穴の向こう側に飛び出す槍とか、降りてくる天井で強引に腹ばいにならないと入れない通路に追い込んでそこで魔物と出くわすようにするとか、考えられることはたくさんありますよ」
「‥‥、待って待って」
おや、おでこに指を当ててしかめっ面を。
「‥‥ねえ、難しすぎると思うのだけれど」
「そうですか? 正直、冒険者を倒すだけなら簡単なのです。それをあえて、攻略可能な状況を作ってあげるのですよ。割と親切な方だと思うのですが」
「しかもそこに謎解きも入れようっていうのでしょ、無理だって、私なら早々にそのダンジョンは諦めるわよ」
まじですか。諦めてもらっては困るのですが。
「そんなに難しいですか。もちろん最初から全力でなんてやりませんよ。最初は受けても小さなダメージで済むような、それこそ矢が1本飛んでくるだけみたいなのから始めるのです。正面から1本だけ飛んできて、こんなのと思ったら次は右から飛んでくるとか、正面と右の2本になるとか、少しずつ難易度を上げていくのです。そうして罠があるよ、解除するか回避するか何かしましょうよと示すのです」
「うーん、分かる、分かりはするのだけど、やっぱり難しいわね。私は一度も罠対策の専門家と組んだことがないとは言っておくわよ」
あらー、専門家じゃなくてもいいので詳しい人とか察知系のスキル持ちの人とかもいませんでしたか。
「もちろん危機察知スキルは持っていたけれど、でもそれは魔物がいるかどうかを判断するためのものだと思っていたから、こう言ってはなんだけど、罠のことは気にしたことがなかったから分からないのよ」
がーん、危機察知でも魔物しか、か。これはいけないですね。罠がないとつまらないとわたしは思ってしまうのだけれど、どうしましょう。
「このダンジョンの浅い階で経験を積ませることってできるのでしょうか」
魔物は弱め、少なめな場所を作って、そこは罠を重視する。そういうエリアを作ればどうだろう。
「そこはもう私では判断できないわね。それこそギルドの職員も交えて相談したいくらいだわ。ああ、でも避けられる環境を用意しておいて、それでもそこに立ち入りたくなる理由も用意して、それで小出しにすれば可能は可能なのかしら」
そうですそうです。それで行きましょうよ。さすがにギルドには相談できないし、罠があるのはこのダンジョンの特徴ということで押し切りたい。
「例えばですけれど、通路の真ん中、縦に金属の棒を立てて抜けられないようにして、その向こうに宝箱を置いて。強引に棒を切ったり曲げたりしようとすると罠が作動して矢が飛んでくる。それで棒の上と下は外せるような金具にしておくのです。そうしたら外して通りますよね。どうでしょう、こういうのなら罠の体験になりますか」
「いいんじゃない。そういう、簡単そうなのをいくつか用意しましょうよ。あなたがさっき言ったようなのは無理よ無理無理。簡単なのにしてよ」
そうね、まずは見てすぐに分かるような簡単なのからね。難しくするのは罠の存在が広まってからね。
よし、1階は体験コーナーにしよう。少しの魔物、少しの扉、少しの鍵、少しの宝箱、そして少しの罠。
「1階を作ったら体験会やりましょうか。攻撃してこない魔物も配置してうろうろしてもらって、扉とか宝箱とかも置いて雰囲気を見てもらって、罠も危なくないようなものを体験してもらって」
「ああ、いいんじゃない。ダンジョンを作ったって知ったら絶対にベルナルド兄様は来たがるだろうし、ロランドなんてずっと興味津々だものね」
「それで、わたしはダンジョンを10階まで作っておけばいいかなと思っていたのですが、それだと少ないですよね。最低でも20階は作っておいた方が良いでしょうか」
「うーん、ギルドが調査に入るのだけれど、その時にはランクの高い、慣れたパーティーが来るわよ。間違いなく中級、Cランク以上。ただ調査報告を毎日する都合上、最初は日帰りが確定だし、泊まりがけの調査はやって1回、それも1泊2日が限度だろうからね。それで潜れる最大深度がどこになるかよね。10階なら序盤を駆け抜ける勢いでやればできるか、そうすると15、いえ20階まで作っておいた方が安心かもしれないわね」
おお、泊まりがけの調査もやるのね。そうね、そうすると慣れているパーティーなら序盤は駆け抜けるのもありなのか。
「あとは気をつけることとしては、稼げなければいけないということよ」
おっと、大事な問題が。罠がどうとか言っている場合ではないわね。
「装備や道具を準備する費用、それ以外の潜るために必要な費用、潜った後にかかる費用。そういったものを踏まえた上で十分な利益が得られなければ冒険者は来ないわ。浅い階はまあいいとして、5階くらいかしらね、その先はどの階でもある程度稼げるといいわね」
「捨てる階があっても?」
「それはいいんじゃないかしら。抜けるのは大変だけど抜けた後の階が稼げるのなら頑張れるから」
そうすると5階以降は罠中心で抜けるだけの階と、魔物素材が稼げたり、鉱石だとかが採れるポイントがあったり、宝箱があったり、そういう階とを組み合わせたバランスもみないといけないわね。
「稼げない魔物っていうのもいるのですよね」
「それはそうね、倒すのが大変な割には素材が安いとか、実は魔石が小さいとか、あるわね」
ふむふむ。稼げる魔物と稼げない魔物の組み合わせも要検討ね。
あとはあれだ。
「ボス部屋というものは?」
「ぼす?」
「その階にいるにしてはおかしいようなでもギリギリ倒せるような強い敵がいる、という場面です。一応5階ごとにどうかなと思っていたのですが」
「ああー、あるわね、そういうの。もちろんそんな魔物は出ないダンジョンもあるわよ。でも私たちが20階層で帰ることにしたのは、そこの、明らかに強い魔物がいる部屋を突破できないと判断したからなのよ」
「やっぱりそういうこともあるのですね。そこは20階で初めて?」
「そうよ。5階とか10階とか、そういうところではなかったのよ。人型の、わたしたちよりもはるかに背の高い、それでこう、頭が牛のような、大きな角があってね。それで体格もいいわ大きな斧を持っているわで、無理だなって判断したのよ。20階まで潜って疲れていたし回復薬だとかも少なくなっていたからね、戦って判断するよりここで折り返すべきと判断したの」
ミノタウロスだー! いやーいるものですね、定番の魔物。ボスっぽくていいわね。でも5階に配置はむちゃかな? むちゃだろうね。でも適度な魔物を考えられたら緊張感を高められていいのかな? 要検討ね。
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