第45話

「叔母様のパーティーの編成をお聞きしても?」

「いいわよ。基本4人にプラスして誰か入るっていう感じだったわね。基本の4人のうち2人はベルナルド兄様と私ね。重戦士と軽戦士。ここに弓手1、魔法使い1。この2人は兄様の知り合いよ。弓手は冒険者になってからの知り合い、魔法使いは学園からの知り合いになるわね。皆付き合いの長い人たちで今でもやりとりがあるのよ」

「良い編成に見えますね。前2の後2ですか。叔父様が盾を兼ねるのでしょうか」

「そうよ。それに弓手の人もショートソードを持って軽戦士みたいに動ける人だったから、相手によって立ち回りを変える感じね」

「魔法使いの方は攻撃を?」

「うーん、かなり多才な人だったけれど、上位の魔法は使えないというタイプだったから。攻撃と回復と補助と、全部一人でやっていたわね」

「回復も補助も?すごいですね。上位が使えないというのはどういうことでしょう」

「えーっとね、確か元々は教会の職員だったか何かで、辞めることになってから僧侶から普通の魔法使いに変更した、だったかしら」

これはあれね、マルチクラスね。最初クレリック、途中からウィザード。上位が使えないということはそこまでレベルが上がる前に変わっているのよね。

「魔法に時間とか空間とか、火だと炎とか、そういう感じの属性ってあります?」

「あるわよ。炎とか氷とかは属性の上位って言われているものだったかな。時間とか空間とかは確かある、はず。良く知らないのよね。そういう系統はあったはずだからどこかにはいると思うわ」

想像できるものはだいたいあると思っていいのかな。

「それでこの魔法使いの彼はね、いま学園で教師をしているから、行けば会えるわよ」

それは多数の属性を使いこなす元冒険者に話を聞ける良い機会になりそうですね。

「その4人で固定で、あとは依頼とかそういうものに応じて人が入る?」

「そうね、依頼人と一緒に行動ということもあったし、2人組と合同でということもあったし、色々ね。まあ私たちの編成が良いでしょ?あまりにもダメな人でなければ、誰と組んでもおおよそ何とかはなるのよ」

やっぱり冒険者界隈でもパーティーのバランスは考えているのね。

それはそうか、僧侶がいないとなると回復はお金頼みだものね。

「そういえば死体が残って回収することができるということは、蘇生、生き返らせることができるのでしょうか」

「‥‥難しいところでね、可能は可能なのよ。蘇生の魔法を使えるような魔法使いとなると教会でもそう簡単にはいなくて、この国だと王都と、あとはどこだったかな、そこの教会に1人ずついるだけね。だから派遣してもらうことはできなくて、何とかして王都まで遺体を運んでいくしかないわ。そして蘇生してもらうにはものすごくお金がかかるらしいわよ」

「ということは回収しても蘇生までは」

「いかないわね。それでもお願いしますという人はいるけれど、実情を説明すれば諦めるしかないわよ。回収の最大の目的は亡くなった人をきちんと弔えるということね」

気持ちの問題か。それはそうね、王都まで運ぶこと自体はできそうだけど、お金がね、叔母様がものすごくというくらいだし、かかるわよね。


「もう一つお聞きしたいのは、冒険者の人種ですとか、性別の問題なのですが」

「あー、すっごく面倒くさいわよ、それ」

「やっぱりですか。そうなるかなとは思っていましたが」

この国は言ったところで人が主体の国だ。別に差別がとか奴隷問題がとかは声高には言われないけれど、ないわけではないのだ。実際我が家の地下に元牢屋があるわけだし、家の資料にもこのときの奴隷がどうこうとかの記述が出てきたりもするわけで。

「先に言っておくと男女の比率とか一緒にパーティーを組むときの問題とかは、その人によるとしか言えないわよ。私たちは全員知り合いの状態だし、私たちが貴族だということをほかの2人も知っていたしね、問題を起こすような人たちではなかったから。ただねえ、冒険者ってやっぱり他の仕事に就けなかったり耐えられなかったりといった人もなることが多いし、殴る蹴るしか知らないような人も多いしね、そうなると男女合同のパーティーなんて絶対に組みたくないわよ」

それはそう。いい人だってわかっている人となら多少のことは我慢できても、見るからにやばそうな人の前でおしっこ!とか言えないわよ。無理無理。

「女性だけのパーティーというのも有りですか」

「そうね。見ず知らずで組むのなら最低限そこは譲れないでしょうね。幸いスキルのおかげで重戦士の女性とかも結構いてね、頑張れば組めるのよ。それに軽戦士だけのパーティーが活動できないかっていったら、結局はスキルだとか魔道具を使えるかだとかでも変わってくるしね」

スキル万歳ですね。そして魔道具が使える程度の魔力があるのならある程度のフォローもできると。そうか、軽戦士だけのパーティーでもスキル構成次第で何とかなるのね。その辺りはRPGよりも融通が利くかしらね。

「ちなみに簡易トイレって売れると思いますか?」

「どうかしらね、正直、私なら即買うわ。折りたたみ式の便座と掃除スライムがすべての問題を解決してくれるのなら安いものよ。あとは目隠しは折り畳みのパーティーションが携帯用にうまく作れたらそれも欲しいけれど、なければそれこそ布でもなんでもいいからね。もうね、通路の隅にいって垂れ流してそのままというのはね、最初の頃は本当につらかったから」

「お掃除スライムっていう概念がどうかなという気はしていますが」

「そこはもう周知していくしかないでしょう。スライムの消化能力なんて今でも知る人ぞ知るなのだし、それこそダンジョンの浅い階に放しておけばいいんじゃないかしら」

お、良い案ですね。そうかダンジョンのお掃除スライムを知ってもらえば、そういうものだと広まるわよね。うん、採用検討上位にしておきましょう。


「あとの問題は人種ですか」

「こればかりはね。一切気にしない人と、大問題にする人とに別れるでしょうね」

「この国では人種による差別ですとか奴隷ですとか、禁止ですよね」

「一応、と付くわね。どちらの制度もまとめて廃止になったけれど、それが私たちの親の親、祖父母の世代よ。あなたから見て曾祖母ね。そんなの残っているに決まっているじゃないの」

この国は建国以来何百年もずっと人が中心の国で、建国当時は人に協力的だった亜人や獣人も、人の意識が変わっていったことから、今となっては建国に携わったはずの亜人の記録すらも歴史書からは消えてしまっている。

亜人の行ったこととして古い本なら載っている事柄が、新しい本を読むと人に置き換わっているのよね。意図的に排除していっているということで、もうそういう国策だったということよね。

建国当時から見れば最初は協力関係にあった、そこから人が中心、人が上位の国に変わっていった。それがここに来て余所からの亜人や獣人の流入、国内でも有力な人材の輩出なんかで無視できなくなってきて、結果人種による差別はやめましょうねという体裁を取らざるを得なくなったという状態。まあ根深い人には根深いわよ。

奴隷制度はもっと単純だけど闇が深い問題。昔は戦争とか犯罪とかによる奴隷落ちしかなかったのが、いつの間にかそれに加えて亜人だから獣人だからという理由ができてしまっていた。ここ、ここが問題。結局人種差別と一緒に奴隷制度も無しになって、戦争とか犯罪とかで捕まった人には強制労働を提供する形に落ち着いた。

ただし、亜人や獣人を捕らえて奴隷として売っていた買っていた層はまだ残っているわけで、闇から闇へよね。見えなくなっているだけだと思うのよ。


セルバ家としてはリッカテッラ州が農業主体で、労働力不足は常について回る問題で、亜人はここ、獣人はそこ、というように集落をわけることで問題回避を計っている。人は厳しいつらい職場を避けたがる傾向が強くてねえ、山仕事をドワーフさんとか森仕事を苦にしないエルフさんとか実は助かるのよ。もちろん同じ理由で獣人さんたちも歓迎なのだけれど、どういうわけかうちの州には獣人さん少ないのよね。

「冒険者の間でもやはり差別意識のあり方は一緒ですか」

「一緒、変わるわけがないわね。一緒に組むのなんて絶対に嫌という人は多いわよ。エルフ、ドワーフ、ハーフリング、あと何だったかしら、とにかく種属ごとに強みがあるから実はパーティーを組みやすいのよ。獣人も同様ね、こちらは前衛か中衛であれば亜人よりもさらに強みが強調されるからね、いいと思うのよね」

「叔母様はその辺り気にされませんよね」

「まあね、私は学園でパーティーを組んだ時は人3、亜人1、獣人2が基本編成だったわよ。気があった仲間で組んだだけなのだけれど。かなりうまく回ったのよね」

「最初から意識としてはどちらでもという感じでした?」

「うちはねえ、母が、あなたの祖母ね、彼女が差別意識が強い人で。セルバ家ってわりとその辺りは適当というか有能なら何でもいいみたいなところがあったのに、彼女だけが厳しくてね。当時働いていた犬系の獣人の人を追い出したり、私から見てもどうなのと思うところがあって。その人、当時の制度の奴隷とかでもなく、普通に出仕している普通の人だったのよ。学園の友人にも厳しかったし、私からすれば何なの!ってなるわよ。まあ、今考えてみれば、彼女の古い家系がそうさせたのだろうとはわかるのだけれどね」

わたしの意識は完全に人種差別反対、奴隷制度反対なのだけれど、その辺りはどう仕組みに落とし込めば良いのかしらね。ギルドが公平であれば言うことは特に無いのだけれど、人によるわよねえ。

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