第44話
3号ダンジョンが完成し、地面を、そして木立を元通りにしたら準備は完成。ここからは設計を詰めて、それをダンジョンに反映させていく作業が始まる。
わたしはものを知らないので、ここからは現在見つかっているダンジョンの情報と照らし合わせて、問題視されないような範囲で作っていかなければならない。そこそこはやるようにね、クソゲ判定を食らわないように、バランス調整、大事よ。
「セラータ地下という名称で3号ちゃんが誕生しましたが、問題はここからです。叔母様がご存じの範囲で構いませんから、いろいろと教えてください」
「もちろん。そのために私がいるのだしね。とはいっても私が行ったことがあるダンジョンなんて2つだけだし、知っているダンジョンも国内のいくつか程度。集めた資料も重要な情報が書かれているかは怪しいものなのだけれど」
「それでも十分ですよ。わたしなんて自分の想像上のダンジョンしか知りませんからね」
まずわたしが知っているダンジョンというのはゲームやマンガ、アニメなんかに登場するもので、そして最も親しみを覚えるのが3DダンジョンRPG、ダンジョンクロールといわれるタイプ。ダンジョンに潜って戦闘を繰り返し、探索を行い、武器や防具などの装備品を整えるという行動を延々と繰り返すタイプ。
3号ちゃんはデザイン的にはまさにそれだと思うのだけれど、問題になるのはそのダンジョンに何があるのかということ。どこまでやっていいのか。やりたいことが大体何でもできてしまうダンジョンで、どうやって安定した収益を上げ、国に貢献し、セルバ家を良くしていけるのか。バランスよ、バランスなのよ。
「以前にもお聞きしたとは思うのですが、まずは確認から。一般的にダンジョンというと何階まであるものなのでしょう」
「そうね、私たちが入ったことがあるのは初級と中級の2カ所。初級というのはまあ10階前後で、深くても20階くらいまでね。入ったことがあるところは地下10階が最下層だったわ。それから中級といわれているのが50階まで。入ったことがあるダンジョンの最下層が30階で、私たちの最高到達点が20階。国内最大が100階、世界最大が300階と言われているわね」
わたしは3号ちゃんを、某超有名3DダンジョンRPGの1作目にならって地下10階までと思っていたのだけれど、それだとちょっと浅いのかしら。
さすがに最初から何10階も作るのは大変だし、ひとまず10階までとして、下の階はあるけで今は封鎖されているよ、開放するのにはイベントが必要だよみたいにしておけば良いかしら。
「罠はあり? 宝箱は?」
「罠はあまり見ない、宝箱はもっと見ない、ね。結局ダンジョンの最大のポイントは魔物から得られる魔石と素材と言われているから」
そう言っていましたね。でもわたしが考えるダンジョンだと両方たーくさん用意することになるのよね。うーむ、浅い階層だと少なく、潜るほど増えるにするしかないのか。
それで浅い階でもより多く稼ごうと思うのなら、そういうものと向き合う必要があるよとアピールする。下りるだけなら必要ないけれど、稼ごうと思ったら鍵付きの扉がありますよ、罠もありますよを見せていく。うん、その方針だわね。
「魔物はどうでしょう。強さや種類は?」
「うーん、私が経験したところは両方似たようなものだったわね。浅い階だとスライム、ラット、ウルフ、ゴブリンとか基本中の基本みたいなやつよ。それで潜るほど種類が増えたり上位種が出てきたり、ね」
「知名度が低かったり珍しかったり変わっていたりといった魔物は出ない?」
「出る。ことは出るとしか、ね。人型、動物型、虫型が基本であとはバリエーションと思っておけばそれほど間違ってはいないし、見たことがない知られていないものが出たからっておかしくはないわね」
それは良かった。たぶんわたしが考える魔物って種類が相当あれな感じ、見た目からしてやばけなのが出てきてしまうと思うから。ん、でも不死系はないのかな?
「スケルトンですとかゾンビ、あとは精霊ぽいものとか?」
「ああ、アンデッド系ね。それは出るダンジョンが限られるらしいわよ。どこだったかな、ダンジョンではなくて廃虚の探索の時だったかな、戦ったことがあるわね」
いることはいると。まあ出るダンジョンが限られるというのは分からない話ではないわね。やっぱり雰囲気って大事だもの。
「あ、もっと基本的なことを忘れていました。ダンジョンに入るときの決まりですね」
「ダンジョンは管理が冒険者ギルドになるからね。まあ無作為に人が入ると死人があふれるし、それこそ殺したい相手をダンジョンの中で人知れず殺して、ダンジョンに消化してもらうという考え方があったくらいだからね」
おっとおっかない話が出ましたよ。
「ダンジョンで死ぬと、何時間だったかな、死体とか持ち物とかはその場に残るのだけれど、最終的にはダンジョンに消化されて消えてしまうとされているわ。それを利用した悪事ね、これを防ぎたいのと、あとは魔石や素材を正しい流通に乗せたいという事情でギルドの管理になっているわね」
なるほど。死体を残すのはサービスかな。それで回収がないようならポイントに還元。
「入る手続きがいるのですね?」
「そうね。ギルドに登録して、ダンジョンの探索申請を出すか、探索依頼を受けるかして、潜るということになるわ。何人で何日でどこまで潜る予定かっていう計画書を出すのよ。何かあったときに回収してもらえるかどうかの大事な手続きよね」
登山ですね。あれも遭難したときに早く見つけてもらうためには計画書を事前に出さないといけない。
「却下されることもあるのですか?」
「当然よ。まあ初心者がむちゃな計画で潜ろうとするのは良くある話なのよ。食料も明かりも持たずに10階も20階も潜る計画なんて受理できるわけがないわ」
「食料も明かりも、ですか。普通に潜る準備ならそれに寝具とか着替えとか武器の手入れとか、考えることは多そうですよね」
「ものすごく大変よ。だからギルドで基本計画持ち物一覧みたいなものを用意していてね、面倒がる人用にセット品の販売もしているわよ」
おお、親切。それはいいわね。
「あとはいわゆるパーティー。ダンジョンに潜るときの基本的な編成ですね。戦士とか魔法使いとか、その辺りでしょうか」
「編成ねえ、難しいわね。戦力バランス的には最小編成で3人。前衛2の後衛1ね。正直怖いから普通は4人以上で、ダンジョンの構造上の問題で同時に行動できる人数には限界があるから、最大でも6人かしら。それ以上だと複数パーティーが連動して動く方法になって、それはもう冒険者ではないわよね」
そこは基本通りね。一般的なRPGの発想で良さそう。
「職種の多い少ないはやっぱりあるのでしょうか。戦士は多いとか魔法使いは少ないとか」
「前衛が2人から3人、盾職は少ないわ。これは単純に騎士のようなタイプは軍に取られてしまうという問題ね。それで盾職も兼ねられるように重装備の戦士が1人以上、遊撃を兼ねた機動力重視、攻撃力重視の戦士が2人程度かな。後衛は1人から3人。遠隔攻撃とか補助とかを兼ねるタイプね。弓手とか魔法使いがここ。前衛の編成次第なところもあるけれどね」
ん? 職種少ないな? 盾職がいるけどいないのは分かったとして、あとは前と後ろの物理アタッカーと魔法アタッカーだけ?
回復職とか殴り職とか鍵開け罠解除職とか、何だったらバフデバフ職とかアイテム職とかテイマー職とか、なんかそういうのないの?
「僧侶系はいないのでしょうか」
「僧侶かあ、回復役よね。そういうスキル持ちは分かった時点で教会に取られて終わりよね。相当なコネがあってお金を積めば来てくれるらしいわよ。騎士タイプは軍が合わないだとか退役しただとかで少ないながらもいるのだけれど、僧侶だけはね」
なるほど教会かあ。
「そうなると回復は薬ですか?」
「そうね、基本的には。一応回復魔法を使える魔法使いというのは僧侶以外にもいるのよ? でもこれはこれで少ないから。それで結局は薬ね。だから薬草採取の仕事どころか薬草栽培の仕事もあるし、薬草調合の依頼は常にギルドに出ているわね」
「味方を強化するとか、相手を弱体化させるとか、そういう職はあります?」
「ん、サポート系の魔法使いね。それはいるわよ。ただしこちらも少ないわね。初心者には扱いが難しいけれど上級者は欲するスキルとか魔法というのはね、なかなか出回らないわ。基本的には他にできることを持っている人が多いのではないかしら」
あー、なるほど。殴り僧侶みたいなものだね。
でもボス部屋前では強化魔法を使って、あとはひたすら殴りに徹するとかしている人はいそうね。よしよし、可能性はあり。
「盗賊、というと語弊があるかもしれませんが、鍵開けですとか罠の解除ですとか、そういう技術はどうするのでしょう」
「まず、そういうものが必要になる場面というのが少なくて。そして戦士や魔法使いを削ってまでいれるのか、というと、ね。弓手と兼ねるとか戦士と兼ねるとか、そういうのならありよ。実際私も鍵開けの道具は持っていたし、やったこともあるわよ」
専門職はなしか。でもそういう環境がまったくないわけでもないわけね。
よくあるじゃないね、シーフを軽視するあまり罠で死ぬ冒険者が多すぎてどうこう。浅い階から鍵のかかった扉とか、罠のある宝箱とか出してみようかな。無理のない範囲で出していって、パーティー編成だとか技術の有無を考えるように仕向けようかしら。
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