第41話

森を抜けるとはっきりと風景が岩山に変わる。これほど境界線が明確だとは思っていなかったので少し驚き。

先の方では伏せた姿勢でいたルプスさんがこちらを見る。どうやらあの先にゴブリンがいるようだ。

ルプスさんがいる場所までを2号ちゃんの範囲に指定。

「お待たせしました。その先にゴブリンが?」

『うむ。こちらの方が高いからな、やつらは上を気にしない、見つからないとは思うがあまり頭を上げるなよ』

わたしも姿勢を低くして先の方へ。確かに高い場所のようだ。左下へ向かって傾斜が続き、その先が窪地のようになっていて何か小さい人のようなものが群れているのがわかる。

あれがゴブリンの群れか。

今居る高い場所から右手、前方へ向かって傾斜は上がっていて、窪地を包み込むようにしてさらに左方向へ上がっていく。窪地の左端の辺りがかなりの崖になっていて、そこで切り落としのような地形が窪地からもっと北西の方へと続く道のような場所へと落ち込んでいる。

手前側は左手に下がっていく傾斜。それでもずうっと左方向へ進んで、こちらも窪地を包むように小さな崖状の地形が先ほどの道の場所に向かって回っている。

この広い窪地がゴブリンの群れの住処になっているのか、複数の集団のようなものにまとまっていて、所々で煙りが上がっているのでたき火もしているのか。

『ここが奴らの住処のようだ。臭い』

おっと、臭いのか。わたしにはよくわからないけれど、ウルフたちにはわかってしまうようだ。

「群れとしてはやはり40から50くらいでしょうか。どうでしょう、倒せますか?」

『そうだな。ほとんどが普通のゴブリンで、何体かはもう少し上位、ウォリアー、ワーカーとアーチャーも少しいるな。この程度ならば苦労もない』

そうなのか。前回地図上で見られたのは上位種が10数体だったけれど、それでも瞬殺だったぽいものね。

『アーチャーの弓では我々の毛並みを抜けんからな。メイジでもいれば魔法がやっかいなのだが居ないようだ。大型の上位種もいない。この匂いでは我々の接近に気がつくこともないだろうからな、奇襲をかけて、あとは適当でも問題なかろう』

「わかりました。戦力的には問題ないようですし、すみません、少し実験にもお付き合いください。ルプスさん、少しだけ2号ちゃんの外へ出てもらえますか」

『む、わかった』

ほんの少し身を起こすと位置をずらす。2号ちゃんからはずれたね。

「わたしが何を言っているのかわかりますか?」

ん?という感じでこちらを見ている。やっぱり通じないね。地図上でもダンジョン内では青点だったルプスさんが、外へ出たところでグレーアウトした。でも場所は地図に反映されているのね。では2号ちゃんこのグレーの点に強制接続。

「今度はどうです?」

ルプスさんが頭を抱えて身もだえしている。あ、食いしばっているぽい。あー、これは良くないわね、解除。

2号ちゃんの範囲を少し拡張してルプスさんを範囲の中へ。青点確認。

「ごめんなさい、やっぱり範囲内でなければ通じないし、範囲外への強制接続はできるけれど良くないですね」

『ううむ、先ほどは頭の中がぐるぐるする感じで気持ち悪くなったぞ。あれがそうなのか?』

「はい。今回は範囲外での戦闘なので、せっかく高い位置にこちらがいるのですし、ゴブリンの位置情報をそちらに送れたらと思ったのですが、ダメですね」

『そうだな。慣れれば多少は無理も効くかもしれんが、子供たちにはあれは酷だ』

この作戦は中止。でもあとでもう一回だけは試させてもらいたいのでそれをルプスさんにお願いして、次に進もう。

「では作戦の確認です。ルプスさんがあの奥にある一番高いところに、ルパさんはここから左に進んで奥の方ですね、ここからは見えませんか。それでキニスくんが正面の高くなっているところ、ニクスちゃんがわたしの左前方、窪地の入り口っぽくなっているところに待機ですね」

『そうだな。ルパだけはここからは見えないところか。まあ一番奥のところからなら正面でよく見える。同時に仕掛けるので問題はない』

「はい。それでですね、皆さんが配置についたところで、もう一度だけルプスさんと、ルパさんとも接続を試します。距離と、見えているかどうかの確認だけですので、すぐに切ります。ルパさんには繋がらないかもしれません。それから、わたしの位置、ここからですね、ゴーレムを一体、窪地に向かって前進させます。これも実験になりますのでお付き合いください。このゴーレムはダンジョン産の固有名なども持たない魔物になります。前進するしか能力もありません。それでゴブリンがおそらくそれに気を取られますから、適当なところで皆さん攻撃を開始してください。あとはこちらはここから見守るだけになります。あ、危ないと思ったら即座に2号ちゃんのところまで戻ってくださいね。ダンジョン外でのケガは外では直らないと思いますから」

『むむ、わかった。一度確認、それからだな。ゴーレムが来る、その後攻撃だな、わかった』

「よろしくお願いします」

確認が終わったところでウルフたちは散開。姿勢を低くして、足音も立てずにあっという間に見えなくなる。速いね、さすが。

「大丈夫なの?」

「はい。強い魔物もいないそうですし、前戦ったときから数だけは数倍いるらしいですけれど、特に問題はないだろうということでした」

「そうなの?よくわからないところもあったのだけれど」

「少しダンジョンの仕様というか、仕組みというかも知りたかったので、それ込みなのです。あ、今ゴーレムも用意します」

ウルフたちが準備完了する前に急げ急げ。

途中で思いついたから用意していなかったのよね。んっと、土のゴーレムでいいか、人の子供サイズもあれば充分よね。


『人、子供サイズの土ゴーレム1体ですね。機能は前進のみ。ダンジョン内では指示ができるでしょうが、出た瞬間から一切関与できなくなると思われます』


うん。それでいいよ。よし、準備完了。

ウルフたちはどうかな。んー、ん、一番奥の崖の上にちらりとルプスさんの頭が見える。正面キニスくん、伏せ体制で準備完了、左手ニクスちゃんも良さそうね。で、ルパさんは見えない。地図地図ちずー、っとルパさんの点が無いぞ。見えないからか?この地図は2号ちゃんが把握している範囲とわたしが見えているものだけ?


『そのようですね、これは発見です。やはりドローンの開発が必要かもしれません』


そうね。ドローンか、それこそ衛星みたいな感じでね。上から見下ろす視点がないとどうしようもなさそう。

さてルプスさんに接続、あ、頭抱えた。ごめんよ、解除。

ルパさんは、ダメね。地図上に見えていないし、2号ちゃんに用意してもらった所属魔物一覧でも名前がグレーアウトしていて選択できない。やっぱり見えていないとダメみたいね。

その一覧からゴーレムを選択。うん、可能だね。機能確認、前進のみ。

「では叔母様、これからゴーレムを前進させます。ゴーレムがゴブリンと接触したところから戦闘開始です」

「わかったわ。私は特に心構えは必要ないのよね?」

「そうですね、装備までしてきてもらって何なのですが、漏れたゴブリンがこちらに向かってこない限りは何もしません」

「了解よ。念のため前で構えるだけはしておくわ」

それではゴーレム、ゴー!

子供サイズのゴーレムが前進を開始する。歩くことだけに機能を振っているので歩行姿勢は良いし、それなりの速度も出ているようだ。

ダンジョンから外へ出る。地図上に表示されていた青点が消える。消えた。グレーアウトすらしない。これは名持ちの固有魔物でなければ、たとえ見えていたとしても外へ出てからの追跡すらできないということで良いわね。

名前一覧からもゴーレムの消失を確認。ウルフたちはうちの固有魔物になっているから大事にしないとダメということね。今回もケガとかしなければ良いけれど。

前進するゴーレムが傾斜を降りきって窪地へと向かう。すでに気がついているゴブリンもいるようなのだけれど、反応は悪い。よくわかっていないのか。

ゴーレムがゴブリンへと近づく。ようやく騒ぎ始めるゴブリンたち。その騒ぎが窪地の奥へと伝播していく。さあ、戦闘の始まりよ。

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