第40話

お母様に確認したところ、セラータ地区の開発を念頭に置いた測量計画はすでに立ち上がっていて、現在人集めと進め方の詳細を詰める作業が行われているという。

そうするとその測量が実際に始まるまでにはおおよその森の範囲を確定しておいた方が良さそうで、ウルフたちにはまだ手を付けていない東側一帯を、外から誰かに見られたりしない程度の深さで移動してもらうことになった。

やはりウルフたちの機動力は人のそれとは違っていて、効率が段違い。

2号ちゃんの範囲から出て、さっと周囲を見て回ったら2号ちゃんのところへ戻ると、ウルフたちが見たものが2号ちゃんに反映されて、それで地図が拡張される。その繰り返し。

それに一度ダンジョン化してしまえば、その範囲内であればダンジョン所属の魔物との意思の疎通が簡単なので、情報の集積速度も圧倒的になっていた。

森のダンジョン化は様々な面でメリットも大きかった。まずは侵入者判定。今まで通り当然植物や菌類は不可、虫も不可。でも動物や鳥類は可。鳥類可なの!?と驚いたものよ。だって数が多いのだもの。動物もハツカネズミやリスのような小さなものも可判定だったから、ポイント稼ぎは驚くほど順調に進んでいる。

森の中に小さな川がいくつか見つかって、それに併せて沼とか池とかも見つかった。これも良かった。両生類、は虫類、魚類と次々に発見されていく。そして大多数が侵入者判定で可となっていくという素晴らしい結果。

いやー、生態系の豊かな森って素晴らしいですね。

これ、よく今まで人の手が入らなかったわね。生態系調査とかいうので立ち入ってはいるのだから、豊かな森だっていうことはわかっていそうなものなのだけれど。

大型の動物のシカ多め、イノシシそこそこ、魔物は定住しているものは少ないという環境。狩りに入ってもおかしくなさそうなのにね。

森の調査はルプスさんとキニスくんがガンガン進めてくれた。どこかで元のオオカミの群れとあったらよろしく伝えてねと言っておいたところ、やはり東の端の方では出会ったそうで、こちらで世話になっているとは伝えたそうだ。

いつか山の調査にも手を出すだろうから、そのころに会いに行くこともあるかもね。


それで森と山裾の現状、魔物はあまりいないという結論。

ラット系はそれなりの数。といってもこいつは割りとどこにでもいるので。雑魚ですね。

スネーク系がほんのわずか、これは毒持ちなので食べないそうだ。沼にフロッグ系も見つかったけれど、こいつも毒持ち。

あとはバット系がちらほらで、これはたぶん山の方から流れてきているのだろうと推測。

こんな感じで小型のどこにでもいそうな魔物がいたくらい。

あと珍しいところでは池の近くにマンドラゴラが数株見つかったって。これはせっかくなので一株を納屋の脇に植えてみた。キアラさんに貴重な植物らしいからたまに気がついたら水をあげてねと伝えてある。育つといいね。

で、問題のゴブリンですが、これはがっつりいるみたいよ。場所としてはやっぱり北から北西側にかけて。山の中のどこかで発生して、群れを拡大しつつ勢力圏を森へ広げようとしているみたい。

今のところ山までダンジョン化するつもりはないから、森まで降りてきたところを2号ちゃんに処理してもらうということでも良いのだけれど。


『やはりここで一度、ダンジョンの外でダンジョンの管理下の魔物の戦闘行動がどう反映されるのか、その結果を知っておきたいところです』


そうなのよね。ダンジョン内では特に何の問題もなくウルフたちは動けているし、出入りにも特に影響は無いし、情報の伝達もできているのだけれど。


『マスターにも近くまで赴いていただいて、2号の範囲をそこまでとする。ゴブリンとの集団戦がどのように構築されるのか、先に出しておいた指示を守りながら行動できるのか、さらには強制的に繋ぎ情報のやりとりを行うことはできるのか。今までは何となくで済ませていましたが、きちんとした形で実証実験を行いたいですね』


わたしが近くまで行けばウルフたちの安全も一応は確保できるかな。

まずはウルフたちにゴブリンが群れていそうな場所を偵察してもらって、問題無いという判断であればそこの殲滅を目的とする。

叔母様にも戦況解説で同行してもらわないとだね。

「と、いうことなのですが、いかがでしょうか」

「ん?何がよ?」

発音が怪しいから音読しろといわれていた子供向けの建国史を読み終えたところで叔母様に相談を持ちかけてみたのだけれど、うまく伝わらなかったようす。

「いえ、ウルフたちがゴブリンの群れらしきものを発見していまして、このままなら森にかなりの規模で侵入してくる危険性があるかもということなのです。それでウルフたちにその討伐を依頼するのですが、叔母様も見学しますか?」

「そんな規模なの!?それはギルドに討伐依頼を出す案件よ?」

「いえ、そこまではしたくないのです。それに見かけたときの様子だと数は40くらいで、4頭でかかれば問題はないだろうとのことでした」

「あら?そうなの?ゴブリンが40って普通は大問題なのだけれど、ウルフたちってもしかしてそんなに強いのかしら」

「どうなんでしょう。でも自信はあるようでしたし、とにかく一度偵察には行ってもらうのですが」

「危険ではないの?」

「2号ちゃんの範囲のかなり近くまで来ているようなのです。それであれば2号ちゃんに出入りすることで安全は確保できるだろうと」

「森ダンジョンはそこまで広げないの?」

「そうですね。2号ちゃんは森だけです。山まで広げることはできません」

腕を組んで難しそうな顔をしていますが、まずは先にウルフたちに依頼を出しましょう。今までは探索だけで、狩ったのは途中で見つけたシカを数頭だけだからね。

わたしたちが用意したシカ肉は別の地区で捕れたものなので味が違うらしい。森のシカは引き締まっていて歯ごたえが良いと。用意した肉はアブラが良いそうな。わたしはそこまで肉の違いがわからないのだけれど、彼らには違いが楽しいみたいで。用意された肉も捕ってきた肉もどちらもそれぞれ美味しいとご機嫌でした。

で、今回はゴブリン退治の依頼。彼らにとってはそれほど難しい話ではないし、同じ肉狙いの敵でもあるので数が増えるようなら倒しておきたいそうな。

「よし、それじゃあ私は装備を用意するから、ステラは荷運びね。ポーターの練習もしてしまいましょう」

おっと、わたしは重い物担当ですか。まあ今回は食事と水くらいかなとは思っていますが了解です。

「それでは明日の朝、ウルフたちに先行してもらって場所を確定、ゴブリンの偵察もしてもらいます。わたしたちはそれを追い掛ける形で行きましょう」


翌日、朝早い時間からウルフたちが出発。

わたしたちはしっかりと朝食を取ってから装備を調え、それを追うようにして出かけた。キアラさんはさすがに心配そうだったけれど、まあ大丈夫ですよ。ウルフたちもいるし、わたしは2号ちゃんから出ないからね。安心安全、無敵な観覧者です。

「用意はいい?では行きましょう」

わたしたちはウルフたちが進んだあとに2号ちゃんに付けてもらった獣道を伝うように森の奥へ。ここは以前に一度通った場所ではあるのだけれど、今回は無理をする気はまったく無いので、素直に2号ちゃんの機能を活用。

2号ちゃんはウルフたちと繋がっていて、逐一その情報を地図上に表示。通った後をラインで示して、そこを獣道に変更することでわたしたちの進行を補助している。

「この道無かったわよねえ。ちょっと便利すぎるわよ」

全面的に同意します。でもダンジョンの景観を変えるのって基本的な機能だと思うのよ。木の位置をちょっと変えたり、下草をちょっと増やしたり減らしたりするだけでも雰囲気変わるからね。

わたしは視界の端の方に地図を表示してウルフたちの行動を見ながらの移動。彼らはすでにダンジョンの端まで到達していて、出入りを繰り返している。


『やはりこれまでと同様、ダンジョンから出た瞬間にすべての接続が切れています。戻った瞬間に接続は復活するのですが、その間に得た情報が即座に反映されるわけではないようです』


報告待ちなのか。森の中を見て回ってもらった時と今も一緒だね。経験を積んだところでそこは変えられないのかな。

わたしが着いたらそこに拠点を設定して、ウルフたちが出たところに強制的に接続できるか試してみようか。


『そうですね。可能なのか不可能なのか、彼らの負荷はどうなのか見なければならないでしょう』


さあ森から山に入ってきましたよ。もう少しで端に到達。

今回はダンジョンとの接続実験と、そしてもう一つは大規模戦闘の見学という目的があるからね。できれば俯瞰した位置から見学して、その情報をウルフたちと共有してみたいと思っているのだけれど、どうなるかな。

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