第37話

「叔母様、お兄様も、もう大丈夫ですよ。装備もはずしてしまって構いません」

「そうなの?本当に?」

おーいとキアラさんにも手を振ってみたけれど、窓を開けて恐る恐るこちらを見るくらいで出てきたりはしなさそう。

これはもう少し仲良くなったよアピールが必要ですね。

もう2号ちゃんには登録されたかな?


『はい、特に抵抗もなく受け入れられました。これで彼らは2号ダンジョン所属の魔物となります』


おー、これでスライムさんに続く独自の魔物をゲットだぜ。

名前はあったりする?


『いえ、群れの中での識別名のようなものは無いようです。種属名ノッテフォレストウルフ、大人の雄雌、子供の雄雌の順番に識別番号として1から振ってありますので現状はそれで。個体名を付けられるようでしたら後ほど変更しましょう』


おっけーよ。ではでは。

「皆さんがこのダンジョンの所属となったことを確認しました。現在はダンジョンを開放していませんので、ここにいる人間は全員わたしと契約を結んだ協力者ということになります。お互いダンジョン経営の同僚ですね、よろしくお願いします」

『ふむ。ここにいる人間は皆仲間なのだな?わかった。覚えたぞ』

「はい。それから皆さんはこのダンジョンでは2番目の魔物となりますので、先輩にもご挨拶をお願いしますね」

『む?ほかにもいるのか?魔物の気配など無いが‥‥』

それはね、誰にも何とも思われないように設定で気配無しにしているからなのよ。

ということでわたしも立ち上がって、スライムさんにかけていた布をバサッと取り払う。

「こちら、スライムさんです。大きさ硬さ温度その他自由自在で触ると大変に気持ちよく、そしてダメージ判定無し、攻撃力無し、そんな無敵な先輩さんです」

ウルフたちはあがみたいな形で口を開けてこちらを見ている。

この子たちびっくりするとこういう顔になるのね。特にお父さんウルフはすっごい顔に出る。

「怖くないですよー。スライムさんは何もしません、ここにいるだけです。触ってみますか?」

『む、今頭の中にもそのようにいう声が聞こえたのだが‥‥これがニゴウチャンというものだったな』

「そうですそうです。基本的には皆さんの直接の上司ということになりますね。さ、スライムさん、気持ちいいですよ」

お父さんウルフは慎重なのか、むむ、みたいな顔をしてこちらを見ている。

お母さんと子供たちは結構興味ありそうよ。さ、どうぞどうぞ、と場所も開けてあげる。あとは2号ちゃんにまかせて、今のうちに叔母様とお兄様には装備を片付けてもらいましょう。


大丈夫大丈夫で押し切って二人に片付けさせて、キアラさんにも確かいいお肉あったよねでシカのモモ肉を切り分けてもらって、庭に戻ってみたらウルフたちはひどいことになっていた。

いつの間にかスライムさんが小さいスライムさんを分裂で増やしていて、子ウルフたちはそれをかじったり蹴り回したりして遊んでいるし、お母さんはスライムさんに埋もれるように頭を乗せて寝そべっているし、お父さんはどうしたものかみたいな顔でお座りして見ているし、うーん自由ね。

「皆さんお肉食べますか」

わたしもお肉2枚乗せたプレートを抱えているけれど、腰の引けたキアラさんはもっと大きなお肉を乗せたプレートを抱えているよ。わたしの方は子供たち用。キアラさんの方は大人用。プレート2枚持っているしね。

『この匂いはシカか?シカだな?』

「シカのモモですね。まだありますから遠慮無くどうぞ」

キアラさんが大きなお肉を2枚のプレートに乗せ直しているところへお父さんが鼻先を突っ込んでいくものだから、当のキアラさんが完全に腰砕け。

子供たちはわたしのプレートの方へわっふわっふと寄ってきたけれど、すぐにかじりついたりはせずにお母さんの方をチラ見。

そのお母さんは尻尾はぶんぶんしているし頭もこちらの方へ傾いているけれどまだ起き上がりはせず。みんなお母さんのよし待ちだと思うんだけど。

ようやく起き上がったもののスライムさんを咥えてどうにかこっちに持ってこようとしている様子。仕方がないのでスライムさんにもこっちこっちと指示を出して移動補助。ずりずりと移動して何とかお肉のところまで来たらスライムさんに体を預けるようにしてくっつけたままお肉をふんふん。お行儀悪いですね。

「さあ食べてください。もっと欲しいようでしたら2号ちゃんに言ってもらえば追加できますからね」

言うとようやくお母さんが食べ始め、それを見て安心したのかお父さんや子供たちもお肉にかじりつく。2号ちゃんがいるから食べ終わってもすぐに復活させられるからね、安心して食べてね。

「わたしたちもお肉焼いて食べます?」

「あら、いいわね。バーベキューの用意ならそこにあるし、やりましょうか」

座り込んだままのキアラさんの肩を揉みながら言うと叔母様が即返事。まあね、用意が簡単だからね、やりましょうか。

ささっとグリルを用意して、木炭を転がして火を付ける。今日は網焼きバーベキュー。ウルフたち用に切っていたシカのモモ肉と、ほかにロースとバラも。付け合わせの野菜はすぐに用意できたピーマンだけ。ウルフたちは野菜とか採らないかしら。


『オオカミは倒した草食動物の内臓を食べますからね。骨もかじります。そうして必要な栄養を得ているのです。もし餌だけで食事をまかなうのであれば肉以外も必要でしょう』


なるほど。まあ普段は森でシカとかウサギとか狩ってもらえばいいのかな。必要ぽかったら肉は骨付きを出したり一緒に野菜も出したりだね。まあダンジョンにいれば食が偏ったところで健康状態に影響は無いのだろうけれど。


『あまりに自然と隔絶すると本当にイヌになってしまいますし、環境を変えすぎないように気をつけないといけませんね。これはこの先ダンジョンに魔物を配置したときにも考えなければならない要素でしょう』


そういうことね。ダンジョン内の生態系か。森はあまり気にしなくても維持できそうだけど、洞窟型だとこちらで用意しないといけないものね。

おっとお肉が焼けるいい匂いがし始めましたよ。この炭に油の落ちるジューの音がたまらんですね。

トングをカチカチさせながら焼き加減を見ていたら、叔母様やお兄様はどうもわたしの背後を見ている様子。ん?と思ったらなぜかわたしのお尻を持ち上げるような感触。何だよと思ってみたら、お母さんウルフがわたしの背後まで寄ってきていて鼻でわたしのお尻をぐって押す。

もしかして焼いたお肉に興味が?オオカミって焼いたお肉大丈夫だっけ。


『人が肉を焼く最大の理由は雑菌を殺すためですからね。特に問題はないでしょう。ただし塩やコショウ、焼き肉のタレ等は絶対に与えてはいけません』


塩分とか香辛料とかは良くないんだっけね。了解よ。まだ焼いただけのお肉だから大丈夫ね。

トングから直接はダメよね。お皿お皿。

「これはさっきのと同じモモね、それでこれは肩のところ、それとお腹の辺りね。食べ比べてみて」

お母さん用に3種盛り合わせを用意。生肉食べ慣れたウルフたちに焼き肉ってどうなのだろうね。

お母さんはすっごく興味ありそうにふんふんとお肉の匂いを確認中。すっごく興味はあるけれどさすがにここは慎重ね。確認が終わったら1枚ずつ慎重に食べていく。子供たちも興味を持ったのか寄ってきて、お皿の方に鼻先を突っ込んでいる。お父さんは寄っていく場所を子供たちに取られたからか、数歩後ろから覗き込むような姿勢。

うむ、とうなずくと、お母さんはお皿の右側のところをポンポン。どうもバラ肉が良かったようね。脂身が食べたかったかな?焼けたものを網の上から移してあげる。

今度は子供たちも欲しそうだから多めに焼かないとかな。

これではわたしの食べる時間が無くなっていくぞ。仕方がないのでモモ、ロース、バラと3種類別のお皿に盛り付けたものを用意して並べたら、あとは2号ちゃんに丸投げ。

わたしもお肉を食べるぞ、おー。

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