第35話
「叔母様、ダンジョン内でゴブリンの群れを確認したのですが、こういう場合の対処などはあるのでしょうか」
「規模は?」
「先にアーチャーとスカウト、続けてウォリアー5、アーチャー2、ワーカー3です」
実際にはウルフたちに倒されてもういないんだけどさ。
「待って待って、ちょっと待って」
はい、待ちますよ。というかお兄様は今日もこちらに来ていますがお暇なのでしょうか。学校、大丈夫ですか。
「普通のゴブリンじゃないの?」
違うんですよー。たぶん分類的にはゴブリンの上位。そしてそれが群れて森までやってきた。状況的には結構厳しいような気がするのよね。
こういうとき、役所とかギルドとかの対応ってどうなんだろう。
「それは2号の判定?役持ちのゴブリンということよね?」
「そうですね。範囲に入ったので識別をしてみたところ、そういう名称だったということです」
「ふう。ゴブリンの上位種ね。しかも単独ではなく、群れということは、まずいわね。どこかで繁殖しているわよ」
「こういう場合というのは対応としてはどうするのでしょう」
「まずはギルドに報告。冒険者ギルドで人を集めて調査ね。群れの侵入が確定したら討伐隊を編成するわ。今回はセルバ家で発見しているから州軍を動かせるケースでもあるわね。判断はギルドとセルバ家の協議で決定。ギルドが単独で扱いたいということであればセルバ家から資金を出してもいいわ」
なるほど。仕事としてギルドでやりたいということであればギルドで、セルバ家で扱って欲しいということであれば州軍を出すと。そして折衷案も当然ありなのね。ふむ。
「森のどの辺り?現在地はわかる?ギルドへ報告に行くわよ」
「侵入はここですね。ただですね、このゴブリンの群れは新たに現れたウルフの群れによってすでに倒されています」
「待って待って待って。結局どういう話?」
「ウルフが出たのかい?大きくて強いとは聞くけれど、里では見られないんだ」
おー、お兄様も興味津々ですね。そうか、ウルフって人気があるのかな?格好良いっていうことかしら。
「ゴブリンが侵入したのは確かです。北西側ですね。それで対処を考えていたらウルフが4頭、恐らく家族だろうという群れがこちらは北東側から入ってきて、ゴブリンの群れをあっさり倒してしまいました。現在このウルフたちは森の北部一帯に出たり入ったりしている状態ですね」
「そこまでわかるのね。私たちがゴブリンと会ったところよりもこちら側かしら」
「そうですね。えっと、地図地図、わたしたちがあったのはこの辺り、今回のゴブリンはこの辺りです」
「山で繁殖している可能性はあるわね。それで、ウルフが見られるのは北部一帯、と。ゴブリンとウルフの縄張りがぶつかった可能性はあるわね」
「やっぱりそう見ますよね。ゴブリンの扱いはまあわかるのですが、ウルフはどうなのでしょう。危険性というか人から見ての立ち位置ですね」
問題はそこなのよねえ。
古来オオカミは山の神として狩猟の先達として敬われもし、同時に家畜を襲う害獣として駆逐されもした。この国ではどうだろうか。
「僕は畑を荒らすシカやイノシシを狩る、そして人に害を及ぼすゴブリンなどの魔物も狩るものというように教わっているよ。森や山にいるから人とは重ならないということもあるのかな。木の爪痕とかでいるかどうかはわかるらしくて、ウルフがいると判断されると立ち入りが禁止されたりはあるみたいだね」
「そうね、出会ってしまったら獲物に手を出さないようにして後退すれば襲われることもない相手と見られているわね。単独とかペアとかのウルフなら初心者でも対応できるけれど、群れで動くことが基本だからそうなると低ランクのパーティーでも普通に負けることがあるのよ。ただ大規模な群れが里に下りてきてしまうこともあって、そういう場合は討伐依頼が出ることはあるわね」
うーん。どっちでもない感じ。
今はまだどちらでもない状態なのかな。まあうちの州は狩猟がメインではないから、そうなると作物を荒らす動物だとかの方が害獣扱いされるのか。
気になるのはあれね、オオカミは?ということね。
『すべてウルフと言われていますね。資料にはオオカミもあったのですが』
ね。特に駆逐されたとかいうことは、
『資料にはありません。駆除すべきという記述も見つかっていません』
「ウルフは魔物ですよね?」
「そうね、魔物よ。狩れば魔石と毛皮が取れるわね。土地によってはこの毛皮が良く取り引きされるらしいわよ」
「オオカミはいないのでしょうか?」
ん?という顔をされてしまった。
これは動物のオオカミはいないか見つかっていないかしているわね。
「オオカミというと動物のだよね?イヌとウルフの中間くらいの大きさだっていうけれど、この辺りにはいないっていう話を聞いたことがあるよ」
あれー、いないのか。そうするとオオカミの群れからウルフ家族が出て分かれてきたっていう想定はちょっと違ったのかな。そして認識としてはイヌ、オオカミ、ウルフの順で大きくなる同種っていうことかな。
これ、ウルフウルフって言っているけれど、英語圏ではどうなるんだろうね。
「それで結局、ウルフがどうしたの?この森に住み着くと危ないかもという話?冒険者ギルドに討伐依頼を出すこともできるわよ」
おっと、油断すると討伐されてしまう。
ね、打診はできているのよね。
『はい。一度は驚いて北へ逃げてしまいましたが、結局また森に出入りしていますからね。森への興味関心が勝っている状態です』
「えっとですね。どうもゴブリンが北西の山中に群れているのではないか、森への進出を狙っているのではないかという予想をしていまして。それに今後森の中の警戒態勢というかわたしたちにどうしても足りない人手の部分を補えるのではないかとか、色々と考えていまして。ウルフにダンジョンと契約してもらって、スライムさんのように仕事をまかせてみたいな、と」
叔母様は額に指を当ててちょっと待ってというように右手を差し出した姿勢で固まっている。お兄様はおーという表情で喜んでいるのは、やっぱりウルフが好きなのかしら。
どうでしょう?という感じで叔母様を見る。
「よく考えたらスライムって魔物なのよね‥‥」
今更ではありますが、そうなんですよ。
ウルフくらい居ても良いのではないでしょうか。
「ここはダンジョンですよという話を、念話?のような形で送ってみたところ反応がありました。どうやらウルフの知能は相当高いようです。森の中で知能の高い強力な魔物と不意に出会うくらいなら、味方にしてしまった方が良いと思うのですよね」
「あー、と。僕はいいと思うな。これは学校で教わったことなのだけど、ウルフは魔物としてはおとなしい方で、人との関わりも結構あるのだそうだよ。ゴブリンの群れを倒せるということだし、森の警備に最適じゃないかな」
お兄様は賛成。そんな感じでしたね。
まあ森の警備に最適というところはわたしも同じ考え。
「安全なの?ウルフって結構危険な魔物でもあるのよ?」
「そうですね。ダンジョン内であれば絶対に安全ですし、ダンジョンに所属する形にすれば管理できますからね。実質大きなイエイヌです。ダンジョンに所属させることに問題がなければここに呼んで面接をしたいと思うのですが」
「呼べるの?呼んだら来るくらいに知能が高いのならいい、のか?しら?」
「試してみませんか。ステラが大丈夫だという以上は大丈夫なのでしょうが、一応僕と叔母上とは装備を整えて待機しましょう」
「そうね、そうしましょう。ステラ、呼んでみてもらえる?」
「はい、ではウルフに打診します」
よっし。決まり。それじゃコアちゃん、こっちは準備するから、ウルフたちに聞いてみてくれる。
『了解しました。――、こちらの提示するメリットに興味があるようです。かなり知能が高いですね、状況を理解しています』
いいわね。それじゃ庭で面接といきましょう。
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