第34話

ノッテの森のダンジョンを西側に拡張はできたので、次は北と北西側を埋めて、地図の左側を完成させることにした。

現状、ダンジョンから外へ送り出した動物や魔物はダンジョンの管理をはずれてしまうことが確認できているので、結局自分で行って境界線を確定させていくしかない。

本当はドローンか何かで地形を把握したいところなんだけど、無事に2号ちゃんのところまで戻ってきてくれる保証がない。電池切れが発生するかもしれないし、上手に操作できるかとか、ドローンを敵認識する存在がいないかとか、不安要素があるからね。

知能を引き上げた魔物なら2号ちゃんのところへ戻ってきてくれるかもとも思ったのだけれど、これもねえ、ダンジョンを出たら敵対しましたでは困るので今のところ試せていない。


今回は森の入り口から別荘までの道を、そのまま北上して山判定できる場所まで進んで、そこに杭を立ててくる予定。

そこを起点に左側はおおよそダンジョン内にできるだろうっていう判断だね。

北へ進んで戻るだけの行程なので、今回の装備は前回と同じ。難しいことを考える必要はないよ。たぶん生態系とか変わらないしね。

ということでサクサクと日程を決めて、叔母様の先導で森に入り、まっすぐに北上。この辺りで山になるのかなという傾斜を見つけたところでそこに杭を打ち込み、ダンジョン化させることで目的は達成できた。

思っていたよりも北の端までの距離がなかったので、行程的には日帰り。予想していたよりも簡単でした。


この後は東側に取りかかる前に西側での動物や魔物を動きを観察することになる。

できればある程度知能が高くて強力な大型の動物か魔物をダンジョンに取り込みたいなという思惑なのよ。要するにドローン代わりにならないかということね。

ダンジョン外での協力を得られるくらいに知能が高くて、まあゴブリン程度なら圧倒できるような強さを持っているっていう優秀なのをね、探しているのよね。

ダメならフクロウとか猛禽類を考えるしかないのだけれど、今のところ見つかっていないのよね。それに鳥類は強さ的に難しくないかなあって。弓持ちとか魔法持ちのゴブリンに狙われそうという不安。

そんなこんなで今は様子見なのだけれど、どうもゴブリンが気になるのよね。北西部辺りで出入りを繰り返しているのよ。複数個体が確認されているから、たぶん山に入ったところに群れが居るのだと思う。

ゴブリンくらいいてくれても構わないのだけれど、かなりの勢いで増えるんだっけ。

ダンジョン内であんまり増えると今度は街道に出てくるようになるんでしょ。駆除の話になってしまいそうよね。


決め手に欠けるまま数日。国語や算数、理科、社会と勉強したり、地図上でウサギの行動を観察したりといった日を送っていると、ようやくというか、変化が起きた。


『ゴブリンの上位種を確認しました』


上位種。今までは名称がゴブリン固定だったのだけれど、ここにきてゴブリンアーチャーとゴブリンスカウトが確認された。

職種が固定されているゴブリン。弓と偵察。まだ接敵までは考えていないけれどいざとなったら戦闘もできる体制で侵入してきたということ。

これは本格的に入植を考えているのかな。このまま入植させてもいいし、ここで排除してもいいし、前哨部隊を待ってもいい。どうするべきか迷うね。


『ゴブリンは増えるようですからね。入植させると西側はゴブリンが支配する地域になるでしょう』


排除するべきかなあ。小規模なら入植もありかなと思ったけれど、増えるっていうもんね。迷うわ。


『排除は簡単です。前哨部隊も見ておきましょうか』


おっけーよ。もう少し様子見しようか。


翌日、展開は早かった。


『マスター、おはようございます。さっそくですが昨日確認されたゴブリンについてご報告します』


どうしたん。起き抜けに報告とか珍しい。


『ゴブリンに関しましては明け方に前哨部隊が侵入するところまでは進んだのですが、その後状況が一変しました』


思わせぶりね。明け方で、その後っていうことはついさっきね?


『はい。ダンジョン内に別の魔物種の侵入を確認。この魔物がゴブリンの先遣隊および前哨部隊を襲撃し、殲滅しました』


ほん。別の魔物が、ゴブリンを倒したと。

先遣隊てのはあれよね、昨日のアーチャーとスカウト。それで前哨部隊の数はどれくらいだったの?


『ウォリアー5、アーチャー2、ワーカー3ですね。総数で12体、それなりの規模になります』


結構多いじゃん。それを殲滅?


『はい、かなりの速度で倒しています。非常に優秀な魔物のようです』


ちなみになんという魔物なの。


『ノッテフォレストウルフと出ました。大人の雄雌、子供の雄雌。おそらくは家族でしょう』


ウルフが来たか。クマかオオカミはいるだろうと思っていたけれど、ここはオオカミだったわけね。

そして魔物で、ウルフと。


『自宅の資料によると動物の場合はシンリンオオカミに分類されるようです。ノッテシンリンオオカミですね。そしてシンリンオオカミが魔力を貯めて体内に魔石を持つことで魔物となり、フォレストウルフに分類されることになる。そういう区別で良いようです』


なるほどねえ。この森にはシンリンオオカミもフォレストウルフもいるっていう認識で良いのかな。

オオカミの縄張りって広いんじゃないの?大丈夫?


『シンリンオオカミの群れの中からフォレストウルフの家族が誕生したのでしょうか。資料にはその辺りの記述がまったく無いため判断ができません。ただ、オオカミの群れがいるのだとしたら森の東側か、より山の中か、ということにはなるでしょう』


そのフォレストウルフの家族が西側に入ってきて、ゴブリンの部隊を排除した、と。

だとしたらその家族は西側に居着くのかな。ゴブリンと敵対した状態で居着いてくれるのは悪くないね。


『はい。かなり歓迎できる状況になったのではないかと。ゴブリンの侵入でも死亡でもポイントは稼げますし、ウルフの滞在でも当然稼げます。問題があるとすれば西側の生態系ですね。ネズミやウサギで量が足りるのかどうか。山に食料が豊富であれば何の問題も無いのですが』


その辺りの調整は必要かもね。見てわかるくらいにネズミやウサギを増やすのは良くないだろうけれど、減ったら足してを2号ちゃんに見てもらおう。

ところでオオカミの知能ってどうなの。イヌくらいかな?イヌくらいあれば間違いなく番犬以上の能力になりそうよね。


『オオカミは群れを作りますからね。社会性はイヌ以上でしょうか。また野生生物である以上は探索能力もイヌよりも上と考えて良いでしょう。問題は魔物化したことによる影響ですが、これは確認してみるよりほかに方法がありません』


手札としては猛禽類に上空から見てもらうか、クマかオオカミに地上から見てもらうのがいいかなって思っていたから、わりと渡りに船よね。

居着くようなら打診してみるのはどうだろう。何だったら住処と食料を提供したっていいのだけれど。


『ダンジョン内であれば意思の疎通もできるでしょうし、提案してみましょう。物語的にもオオカミ系を仲間に加えるという展開はありがちで良いと思います』


よっし、そうしよう。

意思の疎通が可能かどうかを確認して、住処と食事と何なら健康状態も見られるっていうメリットと、わたしたちに管理されてしまうというデメリットを提示して、必要ならここまで来てもらって面談してもいいからね。やろうか。

ゴブリンと交渉するっていう案もないわけではないのだけれど、どの資料でも人にとっては敵性が高いみたいだったからね。そのゴブリンと敵対するウルフを仲間に引き入れられるチャンスというのは逃せないわよ。

そしてよくある、もふもふをゲットするチャンスでもある。

納屋、どうせ薪置き場兼外物置としてしか使っていないのだから、あそこに寝床作ったらいいんじゃないの。狩猟犬、探索犬、番犬、もふもふ犬と四役をこなしてくれそうな仲間をゲットしようそうしよう。

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