第33話

外向きの反省会が終わったところでわたしは後頭部をひんやりスライムさんに埋もれてさせて、脳内反省会というか検証会を開始。

まずは体力の話。

やばいっすね、わたしの仕様。


『空気を、水を、食事を必要としない、排泄を含むあらゆる体外への排出を止められる。疲労など感じないようにできることは当然の結果でした』


いやー、まさか疲れたかな?というタイミングで試してみたら疲労が無かったことになったものね。

実際には疲れているけれど感じていないだけ、とかではなく。本当に疲労そのものが消えて無くなった。

こまめな水分補給も実際にはいらなかったし、重大な問題としたトイレもいらないんだよなあ。


『内側への干渉はやりたい放題が確定したと言ってもよいでしょう。しかしやはり外側への干渉は不可能だということも確かです』


うん。ダンジョンの外での鑑定がダメ、遠見がダメ、魔法の使用もダメ。あれもダメこれもダメ。わかってはいたけれど、がっかりよ。


『しかし機能を持たせた道具の外への持ち出しが可能で、それは想定通りに動作したということは良い成果でした』


うんうん。鑑定と遠見を仕込んだ手持ちレンズがちゃんと動いたのは良かったわね。

おかげでダンジョンを外側から鑑定してもダンジョンとは識別できないって確認できたもの。

これ、地味に不安要素ではあったのよね。

自宅が何も言われないから大丈夫かなとは思っていたけれど、森に向かって鑑定しても普通にマツとかモミとかスギとか植物の名前しか出なかった。

解説文を読める設定にすると、マツもセラータクロマツ、ヴェントヴェール国リッカテッラ州北部のセラータ地方で主に自生するマツって出る。中高木で木材、燃料材として有用、樹脂は香料、燃料などとして有用だそうな。

わたしが勝手に作った鑑定レンズはこういう結果だったけれど、この世界で主に使われているような鑑定はどこまで出るんだろうね。

ちなみにダンジョン内で鑑定してみても同じ結果だった。これは植生やなんなら土や石なんかもみんな設置物として個別に設定がされているかららしい。

ということで、2号ちゃんをダンジョンとして認識する方法は現状では無いのでは?という結論に至った。一応の安心は得られたってことだね。


次はキャンプ道具とか、装備とかのお話。

キャンプ道具は好評だったね。


『ロランド様もアーシア様も外での活動を経験していますからね。やはり現代日本の知識を反映させたキャンプ道具は高い評価を得られます。今回お二人から評価が得られましたので、今後セルバ家で権利を持って販売する方向も検討できるでしょう』


そうだよね。何も自分たちで作って売る必要なんてない。権利だけ握ってあとはギルドに丸投げしてしまえばいい。不労所得よ不労所得。

発想としてはそうおかしなものでもないしね。ごまかせるでしょう。


『腕のよい製造業者は必要ですが、それは私たちの考えることではありませんから』


ハンモック、蚊帳、焚き火台、調理器具類は問題なさそう。

あとはどこかでテントと空気で膨らませるタイプのマットを試したいね。


『庭キャンプでバーベキューでも提案してみましょうか』


そうね。アウトドア用品だとテーブルとチェア、ランタン、スキレット、シェラカップってところかな。ケトルは今回問題なく使えたものね。


『あとは水をどうするかですね。今回は上流部の水を汲めたので簡単な浄水の仕組みで済ませることもできましたが、次回からは要検討です。正直なところ橋付近の水は使いたくはありませんでした』


あー。橋付近てあれよね、排泄物が流れていそうよね。


『危険を感じます』


ひとまず森の中でなら水を見つけられそうだし、ちゃんとした浄水器を常備することでよしとしておこう。

それから重要な問題として提起したトイレ。今回は女二人旅で穴掘って埋める形にしたけれど、あれをダンジョンではできないからね。簡易トイレで中に排泄物処理用スライムちゃんにいてもらう方向で用意しよう。


よし、次は戦闘だ。

わたしから装備見直しを提案。皮装備きつい。蒸れるし重いし良いことない。


『普通はあれでも軽装なのでしょうけれど、そうですね、マスターはそもそも鎧を身につけるということへの抵抗もあるでしょうし』


そうなのよねえ。元現代日本人がああいう装備をするのって、その手の仕事か趣味を持っていないと絶対ないもの。

やっぱり布装備よ。基本は布で、首とか胸とか腕とか脛とか、補強してありますよ感を出せばいいんじゃないかな。

どうせわたしは前衛も後衛も目指さないのだし、外で活動するのもポーターでいいと思うのよ。キャリーカート引っ張ってさ、そこにマジックバッグ的な物入れ置いておけばいいでしょう。


『マジックバッグ、この世界にあると良いですね。今のところ資料の存在を1号も2号も見つけられていません』


異世界転生が普通にある世界なんだから、それこそ誰かが作っているでしょ。空間魔法があるんだからマジックバッグとワープは絶対よ。


『ワープはダンジョン間では可能でしたからね。何でしたらポータルを設定した鞄で擬似的に再現することは可能でしょう』


ゴーレムさんに希望するアイテムをポータルに投げ込んでもらう?


『それで再現は可能でしょう』


確かに可能だけどちょっと格好悪いわね。もう少しスマートにやりたいところ。

まあそれはおいておいて、あとは武器なんだけどさ、クラブの大きさは別に良いのよ。普通のクラブでいいの。何かこう、一発の威力を高めたいなって。


『そうですね。まったく威力がありませんでしたからね』


まったくよ。

叔母様は村の子供でも余裕とか言っていたけれど、わたしだと泥仕合になるんですけど。

すごい金属で作ったら威力が上がるとかできないのかな。コアちゃんはクラブ+100とか言っていたけれど、それって現実味あるのかな。


『用意はできますよ。できますが、鑑定されたときの結果が怖いですし説明ができませんね。基礎ダメージに+100するとか、x100するとか表示されてしまいそうです』


イメージ湧かないな。ゴブリンの体力ってどれくらいだった?


『マスターとほぼ同程度です。マスターの現在のヒットポイントが66、ゴブリンは8前後なのでしょうか、5、8、10、10で、マスターが倒したゴブリンは10です。そしてマスターの使用したクラブの攻撃力は1-4です』


攻撃力1-4の棒で殴っていたのか。いや事前に調べておくべきだったわね。叔母様に用意してもらった装備を特に疑問に思わずに装備したのだけれど、あれってごく基本的な装備よね。

あのサイズのクラブの攻撃力がその程度か。わたしが使っても倍率とか加算とか無いだろうし、相手の防御力で減衰することがあったとしてダメージいくつかしら。


『全部で5回殴っていて、1回辺りの攻撃力は1-4と幅がある。実際に与えたダメージは4、1、2、1、3でした。最初の1はダメージが通っていない可能性が高いです」


5回かあ。ほんと泥仕合になりそうだったのね。というか、そんなに細かく数値とか出せるものなの?


『重要な要素だったためゴブリンのヒットポイントの推移を記録しました』


なるほど。

やっぱり+100とか持っておくべきかな?


『それも良いのですが、もう一つの案としてはスタンガン方式です。相手に接触した瞬間に雷撃が入る。これならばほとんどの生物は抵抗できないでしょう。欠点としては雷に耐性があれば効果が無いという点でしょうか』


スタンガンか、それもいいね。効かないとしたら何だろう、ゴムとか?


『ゴムは雷ほどの高電圧になると耐えられません。絶縁体といえば他にも空気、紙、ガラスなどがありますが、結局のところ超高電圧を直撃させればその衝撃や発生した熱は伝わります。魔法ではない本物の雷ですから、無効化するような完全耐性は難しいでしょう』


手元でそんなもの発生させてわたしは大丈夫なの?


『与えた衝撃に対する反発はあるでしょう。ですがそれもそのクラブの説明文に一言、反発は発生しないとでも書いておけば良いのです。ただそんな衝撃が発生するような攻撃をいつも振り回すのは無駄ですし、周囲への影響もあり得ます。手元で威力の調整をできるようにして、通常はスタンガンの弱中強程度で良いのではないでしょうか』


よっし、+100とスタンガン式と両方用意しておいて試してみよう。

これで武器も大丈夫だね。


『これだけ色々と考えたところで、ダンジョンコアを始点に、マスターの現在地および視界全域を到達点としてダンジョン化する方法を採用すれば、常にダンジョン内に敵を置ける形にできますからね。ダンジョンからの敵性体の排除で何もかも解決してしまいます』


結論。やっぱわたしの仕様って無茶苦茶よね。

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