第24話
翌日、敷地の見回りをするという叔母様と一緒に朝の散歩を実施。
獣避けがしっかり効果を発揮したみたいで、敷地内を一周しても何かが侵入したような形跡は見当たらなかった。
これでわたしの認識下においての敷地の範囲が確定。ついでに道まで出てみて森の入り口の方まで見渡してこの道の範囲も確定。2号ちゃんにお願いしてダンジョンの範囲を敷地と道まで広げてもらった。道ももちろん整備してもらう。とはいっても土を硬くして真っ平らにしてもらっただけだけれどね。石畳にするのは少し様子見。今まで放置状態だった別荘の入り口がいきなり綺麗な石畳になるのはどうかと思うので。
一仕事終えた2号ちゃんは現在リビングの窓辺で絶賛日光浴中。キアラさんに水ももらってご機嫌。ダンジョンコアのご機嫌って何だ。
いや聞いてみたら太陽も水も無くても平気だけど、あった方が気持ちは良いっていうことだったから窓辺に置いてみたんだけれど。
朝食が終わったところで、お兄様は体を動かしたいということで木剣を持って叔母様と外へ。
わたしはお母様に掴まって、ここにいて1号ちゃんと連絡を取ることはできないのか、欲しい資料を送ってもらう方法はないのかとせっつかれている。思いのほか良い場所だったからここで仕事をすることを考えているみたい。
しかもわたしのスライムさんも奪われてしまった。別荘のリビングにこの大きさのスライムさんを2つは狭くなってしまって無理なのよね。仕方がないからわたしは普通に椅子に座ってお茶をフーフーしているところ。
1号ちゃんとの連絡とか資料の送受信とか方法はいくらか思いつくけれどどうしたものかな。ちょっと悩むよね。
『すでにやり過ぎている状態です。この国の文明レベルからあまりにもかけ離れた環境を構築するべきではないとは思いますが』
まーね。とはいうもののこの世界には魔法とかスキルとかがあるので、それである程度の言い訳はできるとも思う。
ダンジョン化ということを除けば、スライムさんは一応テイムスキルというもので理由を付けることはできるし、わたしが色々知っているのは実は単純に調べただけだと言えなくはないし、ホワイトボードはまあ見なかったことにするとして、1号ちゃんのメモは電子メモみたいなものだけど、電子かあ。
『念話スキルのようなものと言い張れなくもないといったところでしょうか』
念話スキルかあ。あー、結局電子メモ風なタブレットでやりとりするのが一番わかりやすいしごまかしも効くかあ。資料の送受信はどうしたものかなあ。どう考えてもファックスになるんだよなあ。この国の紙事情ってどうだったっけ。
『それなりに量産はされているようですが、依然価格は高いままですね』
植物紙?
印刷はないよね?
『植物紙ですね。そして大規模な手漉き工場で量産しているといった状況です。印刷はまだ活字がありませんから、木版や銅板、石版による印刷ですね』
活字は無いのか。印刷自体は家に結構な数の本があったから思いのほか進んでいる感じはするよね。
うーん。もうその方向で行ってしまおうか。どうせ1号ちゃんと2号ちゃんの間でしかできないことだし。もう念話と印刷を組み合わせた新技術だーってことで。
『ファックスですね。それではこういった形でどうでしょうか』
お、いいですね。よしその方向で行こう。
まずは双方向通信式筆記板と、それから。
「あら、何か思いついた?」
さすがお母様、わかってしまいますか。
「そうですね、ひとまずこれで何とかなるかなというものは」
椅子から降りて本棚に向かう。この棚には教科書とか資料とかが納めてあるのだけれど、先ほどまではそこになかった見開き折りたたみの板を取り出す。二つ折りのタブレットだね。
「これを使います。二つ折りになっていますからまずは開いて。それでですね、この左側が1号ちゃんが使う方、右側がお母様が書き込む方です。上にくっつけてあるこのペンを使って、この右側に。『1号ちゃーん』と。そうするとですね、書き込んだ内容が1号ちゃんに届いて、返事が左側に、」
『はい』
「こんな感じに。書き込んだ内容はこの右下の丸い押せるものを押すと、ほら消えました。こんな感じで使います」
お母様の隣りに座り込んで書き込みながら説明すると、お母様は両手で顔を覆ってうつむいてしまう。あーん、やり過ぎたかな?
「これはすごいものなのではないかしら‥‥」
「そうですか?一応念話スキルのような感じでこの板を使ってやりとりするというイメージなのですが」
「そう?そうなの?かしら?まあどう考えても便利だから仕方がないわね」
「そうですそうです、仕方がないのです。それでですね、今思いついたのですが、右側の上部に長方形の押すところが2つありますよね。これの左側が1号ちゃん、右側が2号ちゃんです。2号ちゃんに何か伝えたいときにはこれで切り替えてください。押すとすこーし押し込まれた感じで固定されるので、これを見ればどちら宛てかわかります。まあ2号ちゃんに1号ちゃん用の要件を伝えても、2号ちゃんから1号ちゃんに届けてくれたりもできますが」
うん。ボタンは今追加しました。そんな変な顔をしないで。
や、2号ちゃんと話す必要があるときには花に話しかけるよりもこの方がいいかなって。2号ちゃんも花が身振り手振りとかタブレット持ってとかはどうかと思うからね、いいんじゃないかなって。
お母様と二人でタブレットを覗き込んでいじっていると、運動を終えたお兄様と叔母様が戻ってくる。
お兄様は少し疲れたのかな、うっすら汗もかいている。叔母様は全然平気っぽいね。さすが元冒険者。
二人は木剣だとかを片付けにいく途中で気になったらしくわたしたちの手元を覗いてくる。まあ気になるよね。
「叔母様もこれは使い方を知っておく方が良いかもです。右に伝えたいことを書くと家にいる1号ちゃんに連絡できるのです。上のボタンを押すと2号ちゃんとも会話ができるのです」
「え、すごいじゃないか。僕はこんなの見たこともないよ」
「私も無いわね。あー、文字が表示される石版とかはあるって聞いたことはあるけれど、あれは登録された文字を表示するだけだったかしらね」
「対話となるとやはりありませんか。念話スキルってこんな感じにできたりしません?」
「かなり無茶言っていると思うわよ。あれって確か頭の中に響く感じのものだからね。こんな都度文字が表示されてとか、無理な気がするわよ」
はー、おーばーてくのろじー。
いやいや、きっと気がついていないだけで念話スキルにもこんな使い方ができる方法はありますって。
「あとは資料の送受信ですけれど、あの、物を別の場所に転送?する技術とかってありますか?」
「物を別の場所に?転送ポータルのことかな」
おっとこれはありましたか。やったね宅配ボックスが行けるよ。
「小さな物限定だと聞いたことがあるんだけど」
「転送に山ほど魔力を使うからよ。小包一つで大きな魔石一つ必要とかそんな感じ。生きているものはダメだっていうこともあるけれど、費用対効果の問題で役所やギルドに小包程度なら使えるポータルが設置はされているわ。早馬で用が足りるときは早馬の方が安く済むから緊急時以外にはあまり使われないわね」
おっと生きた物は駄目なんだ。
わたしが家とここを移動するのにポータルどうよとか思ったのはなかったことになるかしらね。
『可能なのでは?』
可能なの?変じゃない?
『ダンジョン間であれば問題はないでしょう』
そっか。それはとんでもなく便利ね。学園との行き来を簡単にほいほいやってしまう未来が見えるわ。
まあそれはそれとして。
「そうしましたら、あちら、本棚の横を」
お母様の隣りから立ち上がってそこまで行く。手を差しのばした場所には宅配ボックスの上に複合機を載せたような格好のもの。
「さっきまでは無かったわよね‥‥。まあいいわ、それがどうしたの?」
「これがですね、上の部分、ここが紙を送受信するためのものです。天板をこう持ち上げると紙を置けるところがあってですね、ここに置いて天板を降ろして、それでここを押すともう一方、あ、家の執務室に同じものがありますから、そこに届くのですけれど、この、細い口のような部分、ここから同じ内容の紙が出てきます。この口の下の部分が手前に伸ばせるので受け手が必要なようでしたら伸ばしておけば良いでしょう。それから、下の扉の部分。ここがですね、開けて、中に物を入れて閉じて。それからここのボタンを押すと、なんと家に届きます。1号ちゃんに送ってほしいものを伝えるとこちらに届けてもらえます。何かが届くとここのランプが光りますからわかります。要するに中にその転送ポータルがあるのだと思っていただければ良いかなと」
お母様も叔母様も両手で顔を覆って天を仰ぐ。
お兄様は興味津々で近寄ってきて下の扉を開けたり閉めたり。中を外を見渡しても何か書いていないんですけどね。
転送ポータルっていうのはどういうものなんだろ。やっぱり魔法陣ぽいものなのかな。
「すごいねえ‥‥、これがあれば僕もここで勉強するのに困らないかな。学校よりも快適な気もするし」
「いえ、学校には学校でしか学べないものがあると思いますよ」
「それはそうなんだけど。これ、お父様も叔父上も欲しいでしょうね」
「欲しがるでしょうね。これとその筆記板とがあればどこにいても仕事に困らないわ」
「そうですね。もっと小さなものでよろしければ馬車に持ち込んでお仕事できますね」
「それは結構よ。そんなことしたらどこへ行っても仕事仕事になるじゃない」
ビシッと否定されてしまいました。
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