第20話
翌日、お父様は道具関係で調べなければならないことを追加されて役所へと出勤していった。お疲れさまです。
お母様は1号ちゃんを抱きかかえて執務室へ。仕事の流れを見せたいらしい。そして分からないことがあったら1号ちゃんに聞きたいと。
これはお母様、もうわたしのダンジョンがなければ生きていけない体になりましたね。きっとね。
わたしは今のところできることもないので待機中。叔母様が来るまではこんな感じかな――、んー、窓から見える門の辺りに馬車が付いたっぽいわね。お客さんかな。敷地に入れば誰か分かるわよね。
『これはアーシア様ですね。随分と早い。荷物も多いようですしもう準備を整えてきたのでしょうか』
おっとうわさのアーシア叔母様だったか。やったねこれで準備がはかどるよ。
ぶっちゃけた話、ダンジョンの話をしたもののなかなか前に進んでいなくて暇していたのよね。
わたしもあいさつしに行こうっと。
「随分早かったじゃないの。仕事の方は平気なの?」
「もちろん。急いだわよー。念願のステラのことだもの。これでようやくベルナルド兄様に自慢できるわ」
「まったく、ロランドのことをベルナルド様から聞かされるとは言っていたけれど、そんなになの?」
「そんなになの! ねえ、イレーネ姉様、私の部屋はいつものところで良いのかしら。荷物を運んでしまうわ」
「ああ、荷物は運んでもらうからよいわよ。部屋はいつものところ。それよりも、ステラ! こちらへ!」
はーい。今行きます。
あれね、兄様がベルナルド叔父様に剣術だとかいろいろと教わっていると言っていたのを気にしていたのね。それでわたしと絡みたかったと。
それにしても叔母様、お母様のことは姉様呼びなのね。何だかいい感じ。
「ようこそアーシア叔母様。急いでいただいたみたいで申し訳ありません。よろしくお願いします」
階段をててっと下りて叔母様の元へ。
今日から勉強とか運動とか冒険のこととか教えてもらうものね。
「私の方は仕事も一段落したし、ステラも暇していたようだし、お茶にでもしましょうか」
おっとお母様には見抜かれていましたよ。とりあえずえへへとごまかしておきましょう。
今日は良い天気なのでお茶はテラスでってことになった。
並べられた茶器、軽くつまめるお菓子、良い香りのたぶんハーブティー。薄い赤い色をしていてお母様の最近のお気に入りらしい。
「本当に随分と早かったけれど、本当に大丈夫なのね?」
「さっきもそう言ったけれどもちろんよ。仕事っていっても秘書みたいなものだったから、引き継ぐことはそれほどないのよ。役所の職員なら普通にやっていけるわ。それよりもダンジョン関係の資料の方が難題だったわね。急にそんな話を持って行ったからギルドの方が興味を持っちゃってね」
あー、そういうことには気がつかなかったわね。
そうか領主一族が急にダンジョンがダンジョンがって言い始めたら気になるか。
「ロランドが興味を持ったから資料集めってことにしておいたわ」
おおー、兄様ごめん。
いや興味はあるみたいなのは本当ぽいからいいか。いいかじゃないわ、ごめん。
「そう、そうね。ミルトの方でもたぶんギルドが気にするわよね」
「たぶんね。で、ミルトでもキノットでもうわさになってしまうから、ロランドにはダンジョン全般の知識が欲しくて頼んだってことにでもしてもらって」
「分かったわ。まあロランドも興味はあったようだし、その方向で関わってもらいましょうか」
うむ。将来は領内の大事な資産になるのだし、今の段階から兄様に関わってもらうのは大事よね。
「ステラも。そんな腕を組んでうんうんみたいにしていないの。あなたからもきちんと話すのよ」
ぎゃ。なんということでしょう。無意識に体が動いてしまうのよー。
「ステラってすっごく顔にも体にも出るわよね。言われてすぐにぎゃっていう顔になるのだもの」
やっべ。叔母様にもバレバレだわよ。どうしようこれ。コアちゃんどうにかなんないの。
『諦めましょう』
そんな! コアちゃん諦めちゃだめよ、何か方法があるはずよ!
『諦めましょう』
「そしてこれは何か楽しいことを考えているのね」
ほらー!
結局お茶会はわたしがいじられて終わってしまった。
なんということでしょう。コアちゃんが諦めてしまった結果、わたしはもてあそばれてしまったのです。
そんなこんなでお父様も今日は早めに戻られたので、みんなそろっての夕食。
「情報が漏れることを禁じる道具だがね、用意できたよ。内容はステラの能力について漏らすことの禁止で良かったかな」
「大丈夫です。能力、として良かったのでしょうか。スキルとかギフトとか具体的でなくても?」
「そこは大丈夫だよ。どの辺りまで含めればよいのか分からなかったからね、能力としておいたほうが幅が広くて良いだろうと思ってね」
「ありがとうございます」
「それで、ベルナルドのところへ速達で送っておいたよ。署名と血判を押してもらって速達でここへ届く予定だ」
「あさってには届きそうね。では届いたらこの家のものも全員署名するということでよいのかしら」
「そうだね。使用人たちも全員書いてもらった方が良いだろう」
使用人の人たちにも家族があり生活がある。
どこから漏れるか分からないのだから安心安全のためには関係者全員を縛る方が良いのだろう。
「能力について内緒にって言い方だと何だか大ごとのようよね。その辺、変に勘ぐられたりしないかしら」
「ああ、その辺はね、教会での司祭様の反応から私が不安を感じて心配のあまり、ということにでもするよ」
ありがとうございます、お父様。
でもわたしが無能なのを言いふらさないでねっていう契約だと思ってもらえれば納得しやすいかな。
「それと国内のダンジョン関係の資料を取り寄せることにしたのだが、その理由はロランドの勉強のためということにさせてもらったよ。さすがにステラに関連付けられてはいけないからね」
「あ、私もそうさせてもらったわよ。ごめんねロランド。たぶん町とか学校とかで言われることになると思うけれど、うまくごまかしてよ」
「大丈夫ですよ。ダンジョンに興味があるのは本当ですから。話をしていたら、それならって広く資料を集めてもらえることになったとでもしておきます」
お兄様もありがとう。面倒おかけします。安全ダンジョンができたら体験してもらうからそれまで待ってね。
「今話しておかなければならないことはそれくらいかな?」
「そうですね。その契約が済むまでは突っ込んだ話をすることは避けましょう。今日だって人払いはしましたけれど、危ないといえば危ないのですよね?」
「そうだねえ。本当なら音を消す道具を使ったりするところだろうけれど、そこまでしてしまうと今の段階では言い訳が難しいからね」
「分かりました。ではわたしも、叔母様に来ていただけましたし、それまでは普通の勉強とか運動とかを教わっています」
「学園か。大丈夫なのかい? その、家を出て学園に行くとなると、ステラの安全がね?」
「そのための実験もこれからしたいのですよね。この家ができたのなら学園でもと思ってはいますが。規模の問題がありますから」
「ああ、そうか。この家はそうなのだったか。普通に何も変わっていないように感じるのだがね」
「私もそう思っていたのだけれど、だいぶあれよ? すごいわよ?」
「そうなのかい? 今聞けることかな?」
「いえ、やめておきましょう。あなたも楽しみにしておいて。かなりすごいわよ」
「へえ、おまえがそこまで言うというのも恐ろしいね。まあ楽しみにしていようか」
あおりますな、お母様。
まあね、結構すごいと思うので楽しみにしていてください。
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