第14話
われに返った両親に手を引かれてざわめきの収まらない教会からは早々に引き上げることになった。
それはそうね。
そのままだったら司祭様からあれこれ言われそうだったし、どうなるかわかったものではなかったものね。
両親はわたしを間に挟むようにしてさっと貴賓室に移動し、待機していたロイスさんに荷物をまとめさせると大急ぎで馬車へ。終わってから渡す予定だったっぽいお礼の品を忘れずに部屋に置いておいたのはさすがだったけれど、それ以外はあいさつもなしにささっと。馬車で待機していたダニロさんも急がせる両親に驚いてはいたけれどそれ以上は訳も聞かず走らせてくれた。
馬車の中での沈黙はつらかったけれど、仕方がないね。
屋敷に戻ってからわたしはひとまず部屋へ。疲れているだろうから部屋で休んでいるようにと言われているので、着替えて、一息ついて。今日は確か叔父様と叔母様も来ることになっていたはずだから、みんなそろったところで家族会議だね。
椅子だけ用意しておけば大丈夫かな。自分用にはいつもの人を駄目にするクッションを用意して。あとは流れでだね。
窓の外でガチャガチャとした物音。馬のいななき。
到着したのかな。ちょっと緊張するね。
階下で扉を開け閉めする音、話し声。声、大きいなあ。しばらくするとバタバタとした足音が近づいてくる。
バタンっと大きな音を立てて開け放たれる扉。真っ先に飛び込んできたのはアーシア叔母様、そのすぐ後ろにベルナルド叔父様。それから両親と、お兄様も。うん。そんな心配そうな顔しないで、大丈夫、これから説明するよ。
「下で聞いたが、いったいどういうことなんだ」
全員が椅子に腰を下ろしたところで叔父様が口火を切る。
「わからんよ。宣誓式で司祭様がな、言ったのだ。何もないと」
「そんな話聞いたこともないわよ」
「司祭が見間違えるとかオーブが壊れたとかそういう話でもないのか」
「あの雰囲気ではな、そういうことではないのだろうとしか」
「誰でも何かしらは持っているものだろう。それはもちろんそれぞれにとっての善し悪しはあるだろうが、それでも何かしらはあるはずだろう」
お父様はどうしてもため息交じりになってしまうし、叔父様叔母様はどうしても少し興奮したようになってしまう。
それはそうだろう。本当ならこれは良かったね、こうだねああだねっていう話をするつもりで来ただろうし、将来はとか自分たちもこういうことなら教えられるよとかわたしと話したいと思っていただろうから。
お母様はわたしを見ている。少しつらそうな表情。
「ステラ。もしかしたら、あなたはこうなることが分かっていたの?」
はい。この結果はもうだいぶ前から分かっていました。
「どうしたんだイレーネ。なぜそんなことを?」
「いえ、教会で名前を呼ばれる前のこの子のことを思い返すと、もしかして、と」
目を閉じて握りこぶしを作り、軽く胸をぽんっとたたく。
よし。始めよう。
「そうですね。そうなるのかなと思い当たることがあります」
「どんなことだい? 私たちにも思い当たるようなことかな?」
「多分前提になる話だと思いますから一つ確認させてください。こちらには他の世界からやってきた、あるいは生まれ変わりだというような人はいますか?」
ぽかんとされてしまった。
まあそうよね。何言ってんだこいつと思われそうな話から始まったものね。でもこれがわかんないと説明が難しくなるのよ。
「そう、だね。この国にも何人もいるよ。実際私も会ったことがある。歴史上も含めれば相当な人数になるのではないかな」
「軍にいるな。王宮にもか。俺が会ったことがあるのは軍の一人だけだな」
おお、やっぱりいるのね。それはそうだ。わたしの時だけでも後から何人も来たくらいだものね。
「それがどうかしたのかい。何か重要なことなのかな」
「‥‥、あの、わたしは多分その、生まれ変わり、というものになると思うのです」
皆、一様にピタリと動きが止まった。
そうよねえ、まじこいつ何言ってんのって話だわよね。でも仕方がないの、事実なんだもの。
「わたしがこの考えに至ったのは、神様に会ったことがあるという記憶によるものです。神様に会って、君は死んだけれどこちらで生まれ直してもう一度生きてねと言われたという記憶なのです」
「いや、例えそうだとしても、私が会ったことのある人物は普通にスキルも使って‥」
「そうですよね。そうだと思います。実際わたしも神様からスキルがという話は聞きました。それがですね、話の途中で神様のところから落っこちてしまったのです。穴のようなところに落ちて、落ちて、落ちて、気がついたらこちらで生まれていたのです」
「え、待って待って。神様にあったの? そこでした会話を覚えているのね?」
「はい。今日までは神様だったのかなという程度の認識だったのですが、教会へ行って確信しました。わたしが会ったのは教会の神像とよく似ている人でしたから」
叔母様がはーっといった表情で椅子の背もたれに寄りかかる。
お父様も似た感じね。さっきからずっとそんな感じとも言うけれど。
叔父様は両手で顔を覆うようにして前屈みでこちらを見つめている。お父様よりも体の幅や厚さが1.5倍くらいあるし目つきは鋭いしで少し威圧感がある。
「それで、スキルのことも?」
お母様が一番落ち着いているのかな。
「はい。その記憶があったので、スキルが使えるかどうかは気になりましたから。それで実際にいろいろと試してみたのです」
「結果、使えなかったから今日もそう言われると予想できたということね?」
「スキルとかギフトとかそういうものはないと言われるだろうと思っていました」
ここでお母様もはーって感じで頭に手をやって椅子の背もたれに寄りかかる。
うん、でも話は実はここからなのよ。
「ただですね。スキルがまったく使えないのかというと、それはまた話が違ってくるのです」
「使えるのか? 何もないと言われたのに使えるものがある?」
「条件があるのです。あの、ステータス画面というのでしょうか、スキルなどが書かれた画面を見たことはありますか?」
「ああ、教会で調べてもらうことができるな。あのオーブがそうだよ。司祭様がそこに現れるものを読み取ることができるんだ」
「それとギルドでもできるな。冒険者ギルドと、商工業ギルドの方にもあったか。教会のものとは表示が違うとは聞いたが、こっちは誰でも見られるな」
なるほどゲーム的。でもステータスオープンみたいな技は使えないのね。わたしは使えるけれどさ。
「まず、わたしは自分のステータス画面を見られます。それによるとキャリアはセルバ家長女。その他のクラスやスキル、ギフトの欄は空白です。司祭様は恐らくこれを見たのでしょう。ギルドで調べても結果は同じになるだろうと思います」
「待ってくれ、すてーたす? がめん? が見られるというのは?」
何言ってんだって感じよね。ちょっと待ってね、いま設定するからね。
「いま他の人からも見ることができるようにしました。これですね」
はいどうぞ。名前! キャリア! あとはなし! 司祭様が思わず叫んだ結果がこれよ。
目を閉じてクッションに身を沈めるように預ける。
驚いている周囲の空気が感じられる。でもまだこれで終わりじゃないのよ。
「これが司祭様がご覧になったのとほぼ同じだろうものですね。何もなしです。続いて、条件を満たしたときのわたしのステータス画面です」
設定を変更。
この部屋をわたしの支配するダンジョン領域内と規定する。
わたしの持つわたしの世界の決まりごとに従って、こちらの世界に存在するはずのダンジョンが、わたしの世界によって支配される。
キャリア、ワールドドミネイター。
クラス、ダンジョンマスター。
スキル、コアマスタリー。
ギフト、システムコア。
これがわたしの、本来の姿。
それにしてもワールドドミネイターとか、なんでこんな厳つい名前になったかな。
もう少し柔らかい、かわいい感じのものが思いついたら変更しようそうしよう。
『システムコアももう少しかわいい感じのものに変更を希望します』
お? 気に入らない? じゃ、いつものコアちゃんにする?
『‥‥、もう少しかわいい感じのものに変更を希望します』
気に入りませんかそうですか。ま、思いついたらね。
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