第8話

『お待たせいたしました、マスター。ある程度スキルやコアの機能の方も出揃いましたし、そろそろ次の段階に進みましょう』


おー、待っていたよ、ようやくだね。

それでそれで?何をしたらいいのかな?


『まずはベッドダンジョンを閉鎖し、コアを回収しましょう』


あれ、いいの?

コアを移動とかフロアを追加とかじゃなくて閉鎖でいいの?大丈夫?


『ベッドがダンジョン名のまま拡張するというのも格好が付きませんし。ダンジョン名の変更は項目の追加が必要になりますから』


なるほどね、そういうことか。今の段階だと項目の追加はポイントが必要で、痛手になるものね。

それじゃ閉鎖するよ。項目確認、おっけー、それでは閉鎖しまーす。今までお疲れ様でしたっと。


『はい。本当に役立ってくれました。1000ポイントを投資した以上の価値でした』


え、そうなの?ベッドが?

いまわたしが寝転がっている、ダンジョンじゃなくなっても何も変わったようには思えない、このベッドが?


『今までそのままにしていたのには理由があったのです。それはマスターが作成したダンジョン内にマスター自身がいる場合の影響についてです。

この世界とマスターの世界とが互いに干渉できないという状況にあるなか、この世界に存在する、マスターが支配する唯一のダンジョンですからね。しかもマスター自身がそこに滞在しているのですから。この世界と、マスター自身の世界の境界です。一体どのような判定がなされるのか興味がありましたが、素晴らしい成果でした』


んん?なんて?

わたしのスキルって何?何もなかったよね?使えなかったよね?スキルの欄には何も書かれていなかったし、後からコアちゃんが作ったスキルも使えなかったよね。


『疑問があったのです。あれはあくまでもこの世界に対して影響力を行使するという形でした。そして内部から外部への影響力の行使はできなかった。しかし今回は違います。何しろマスター自身の支配するダンジョンですからね。

そこでマスターに運動能力強化のスキルを追加した結果、非常に素早く寝返りを打つことができました。早すぎたため見られた場合の危険性から即座に削除しましたが。

また、侵入者を自動的に隷属させるスキルを追加した結果、ベッド内に侵入したハエが隷属しました。不要だったため領域から即時離脱するよう指示したところベッドから出たところで隷属化は解除されました。このスキルも危険なため現在は削除済みです。

現在は柵に衝突する、立ち上がってから転ぶ等しても大丈夫なように、支配領域内におけるダメージ判定無効のスキルのみ追加してあります。これにより当ダンジョン内におけるマスターの安全性は格段に向上しました。

この結果を見ると、望遠のスキルをもう一度設定してみたくなりますね。ダンジョン内であれば効果を発揮するスキルで外を見た場合はどうなるのでしょう。興味があります』


ほえー、なんじゃそれ。

どれどれ。うむ。所有スキルのところにあるね。特にグレーアウトとかもしていない。これってスキルが生きているっていうことなの。はー、それは確かに良い結果。そして確かに望遠も試してみたくなるわね。今後の検討課題に追加しましょ。

それにしても、えー、だわ。もしかしてわたしってダンジョン内にいれば無敵なのではないかしら。


『マスターが所有するダンジョン内限定の機能ですね』


そうか、それがわたしがいる意味になるのね。

捕まったハエさんも外へ出たら解除されたっていうのがそういうことなのね。影響力がわたしの支配するダンジョンの中に限定されるっていう。


『そうですね、この世界の支配下にあるダンジョンコアは対象外だろうと考えています。ですがそれもダンジョンの支配権を奪うことができれば良いのですよ。さ、スキル画面の管理項目をご覧ください』


はいはい。スキル画面の管理のっと。支配権限の獲得っていうのがあるよ。

うん?これを使うと余所様のダンジョンを乗っ取れるって言うこと?


『そうなります。使い方は実際に試してみない確定しませんが、恐らく支配権を持っていないダンジョンコアに対してのみ発生する機能であろうと考えられます。そしてその機能を使うことで、この世界は恐らくマスターがご存じの神が支配する世界ですが、マスターはそこから、その神に最終的な最上位の権利があるであろうダンジョンを強奪することができるということです』


言い方よ。

でもいいのそれ。大丈夫なの。そんなゆるゆる判定で奪えちゃっていいものなの?


『そうではないかと訝しんではいたのですが、やはり、当初よりこのスキルに対して神はそこまで考えて作ったわけではなかったのでしょう。機能面における項目数が少なかったことも、項目追加の条件がマスターの認識にしか依存していないことも、ポイントの設定も。作り込まずに途中で放り出した結果がこれです。おそらくダンジョンマスターというスキル名以上に、マスターはダンジョンに対して、あるいはダンジョン内で、かなりのことが実行可能になります』


まあね、あのとき神様もかなりいい加減な作り方したからね。

最初のコア1個5000は高いと思ったけれど、一ヶ月で10000ポイント稼げるみたいなことを言っていて、ということは1年2年で100階層くらいあるダンジョンができてしまうっていうことで。

よく考えなくてもゆるっゆるよね。安定してポイントを稼げる環境を構築できたら、あとはやりたい放題できてしまうのではなかろうか。


『やはり問題となるのはその、最初に安定して稼げる環境を構築できるかどうか、なのです。残り4000ポイント。ここでまたコアを設置して新しく1フロアを作成しますが、それをすれば残りが3000、このポイントも後ほど使用しますが、何の問題もありません。すぐに数倍のリターンが発生するでしょう』


まじか。

そんなに簡単に取り返せるの?ほんとに?信じちゃうよ?


『繰り返しますが何の問題もありません。断言しておきます。さあそれではさっそく、ダンジョンコアを設置しましょう』


え、どこに?


『今ならマスターも部屋の中を動けますから、そうですね、必ずこの部屋にある、捨てられることのない、マスターの大事にしているものがよろしいかと。そして設置する際には、ぜひ、この屋敷、建物をイメージしてみてください』


お?建物?


『はい。今回はこの家、屋敷のダンジョン化を狙っています』


なるほど、そういうことなら。

ベッドで寝っ転がってうごうごしている体勢からまずは起き上がってっと、うーんと、まずはベッドから降りないとだ。メイドさーん、お願いします。

メイドさんの方を向いて両手を振り振り、降りたいのよアピール。

室内にいたメイドさんが気がついてささっと近寄ってきた。転んだら困るからね、よろしくね。

一端抱き上げてもらって床に降ろしてもらって、ベッドの柵に掴まってしっかり立って。よし。

さあわたしが目指すべきなのは、あれだ!おもちゃ箱だ!正確にはおもちゃ箱の横の椅子の上にお座りしているお人形さんだー!

この人形かわいいのよ。赤いお洋服着た金髪のおめめがくりっとしたいわゆるドール、西洋人形っぽいの。かわいいのよ。そんな君に、わたしは決めた!

ということでそこまでいっちにいっちにと歩いてみる。大丈夫よー、そんな遠くないし、あそこまでは歩けた実績があるしね。メイドさん、そんなに心配そうに手を差し出していなくても平気よー。

よし、たどり着きました。

椅子に左手で掴まって、右手をそっとお人形さんの胸の辺りに置いてみて、


[ダンジョンコアを設置しますか はい いいえ]


来たわね。それじゃ、この家のことをほわほわーんとイメージしながら、選びましょう。はい、と。


【ダンジョン:セルバ家本家邸宅が誕生しました】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る