第2話

異世界転生。

ライトノベルだとかに良くある、生まれ変わって新しい世界で新しい人生をっていうお話。ああ読んだ、読んだなあ。

今目の前に神様がいて、今まで大変だったね新しい世界でやり直してみない?って問いかけてきているの。

こんなことって本当にあるんだ。


目の前にはいつの間にか机。

たぶん文字なんだけど読めない、ミミズののたくったような線がたくさん書かれた紙の束、万年筆のようなペン、インク瓶ぽいもの、天体模型のようなもの。その模型の周りにこぼれ落ちた星のような球体。

その机にいつの間にか神様が座っている。机の天板に肘をつき、顎の辺りに手を当てて考えるように話す。


「一応ね、どういう場所でどういう形で生まれるのかっていう説明をするよ。

基本的にはこちらの世界の、そうだね中世ヨーロッパ辺りを想像してもらうといい。そこにさっき説明した魔素が加わる。魔素。要するに魔法が使える世界だね。

で、魔素を固めたものに魔石っていうのがあってね。こちらでいう電池かな。それを使って動かす道具が発達しているんだ。魔石は鉱脈があってそこから採ってくるか、魔物が体内に持っているからそれを冒険者がとってくるような感じだね。この辺はこちらの物語によくある設定だからイメージしやすいんじゃないかな。

それから君の生まれる家だけど、そうだね、一応何種類か用意してあるんだけど、どうしようか、そんな変なものはないよ。一般市民とか貴族とかだね、はいくじ引き。はい引いて、これだね、決まり。うん、いいんじゃないかな。立場としては中堅国の中堅貴族の2番目の子供。兄がいるから家を嗣ぐとかは無し。世界に魔素が満ちているからね。万全な体調で生まれるよ」


おお、本当にどこかの物語にありそうな設定。

説明を聞く限り、その国の爵位で子爵。階級的には真ん中より下だけど、人数分配的には一番層が厚くて、中堅という認識で間違いないみたい。

そして魔法。やっぱりあるんだ。魔素というからにはと思ったけれど。


「人類種は人間以外にも、亜人や獣人、魔人がいるね。それに動物種の一つとして魔物がいるよ。まあ君のよく知るファンタジーものの世界を想像してもらってそうは違わないと思う。世界の覇権は人類と魔物がおおよそ半々かな。人類の支配地域でもダンジョンがあってさ、そこから魔物が現れるから結構勢力は拮抗するんだよね。


もう一つ。その世界にはスキルっていうのがあってね。まあその辺もよくある設定かな。剣術とか魔術とか商業とか鍛冶、経理、事務なんかの系統のね、職業を決めるのに便利なのがほとんどだけどね、珍しいところだと勇者とか魔王とかっていうのもあるよ。

そこでだ、君にあげるスキルなんだけど、かなり融通が効くよ。それこそ勇者とかさ、そういう珍しいのでも大丈夫なんだけど、どうしようか?」


言いながら机の上に転がっている球体から一つを手に取る。赤茶けた単色の球体。転がっていたのは水星火星木星といったいかにも星ですよというものもあったけれど、ほかにそういう単色のとか、泡のようなものが浮かんでいるとか、星形の多面体が入っているとか、銀河が浮かんでいるとか、いろいろなものがあった。

何だろう、これがスキルオーブとか何かそんなものかな?


さて、とりあえずここは落ち着こう。お約束のスキルが来たんだ。

どうする、考えろ。勇者?魔王?いやいやいや、わたしはそういうタイプじゃないでしょう。剣術?魔術?いやー?、悪くないけれど特別感はなにもないね。それに仕事のためのスキルっていわれても。簿記とか秘書とかTOEICとか?、それはさすがにえー、だわ。そうじゃないでしょ。

人生を楽しくさせるものじゃないと。

せっかくの新しく始められる人生、面白おかしく楽しくすごせるためのものじゃないと。

でも、何だろう。人生を楽しくさせるものっていっても、わたしのこれまでの人生でそういうものに出会った経験がないからね。好きだったことって何だろう。それがあれば楽しくすごせそうなもの。

そう。そうね。あるね。一つ、趣味だって言えること。好きだったって言えるもの。

でもスキルとしてはどうなの。

アクション要素は無いほうが良い。苦手。じっくりゆっくり、自分のペースで楽しめるものが良い。そうすると、やっぱりあれかな。

うん。

ダンジョンマスター。どうだろう。

あるっていったものね、ダンジョン。それを作ったり運営したりする能力。

ゲームだと攻略するばかりだったけれど、自分でデザインして冒険者を歓迎したりできるわけだし、何だったら最下層スタートで地上を目指すイベントなんかもできる。というかそういうゲームがあった気がする。どう、いいんじゃない。


「ふーん?ダンジョンマスター?。んー、今のところ他に例のないスキルだね。

説明しておくと、こちらでのダンジョンは自然発生するんだよ。人間からしたらダンジョンていう大規模な魔物扱いになるのかな。ある日突然現れてさ、中を調べると罠とか魔物とかで侵入者に害を加える。悪くすれば中の魔物があふれて近くの町を襲うとかもあるんだよ。で、奥まで行くとダンジョンコアって呼ばれている心臓部があって、まあだいたい宝玉っぽいものかな、それを壊すとダンジョンが崩壊して消えるんだ。それで、ダンジョンマスターだよね」


お、どうだろう。

ダンジョンコアを作れて、それを設置すると洞窟とか建物とかがダンジョン化して、コアを通じてダンジョンの拡張とか罠設置とか宝箱設置とかモンスター召喚とかドロップ品調整とかできちゃう感じ。

あ、洞窟とか建物とかって既存物だけだとバリエーションが乏しいかな。

わたしのイメージだと、ダンジョンっていってもいろいろあって。四角いワイヤーフレームだけのものとか、ブロックを積み重ねたような石畳が続くようなのとか、森とか岩場とかの天然の地形とか。究極的には通路と部屋が連続する形にできさえすれば何だってありだと思う。

いいね、妄想が広がる。


「うーん。うん。大丈夫そうだね。できそうだよ。

コアを作って、それを設置するとダンジョン化する仕組みにしようか。で、設置する場所は自分でも作れるしすでにあるものも利用できる、と。

範囲は、うん?何だ?これは君のイメージなのかい?20x20マスって何さ。まあいいや。1マスが3x3メートルくらいでいいか。それを20x20っていうのが最初期のダンジョン化の範囲にしよう。

そしてそこでできることだね。

っていや君、細かいね?要素が多すぎるよ。さすがにこの場で全部聞いて全部設定するのは面倒だな。

今回異世界転生するのは君だけだけど、この後異世界転移組と話をしないといけないからあまり時間をかけたくないんだよね」


異世界転移もあるのか。

それはそうか。こっちで死んだら転生、そのまま移り住むのが転移だよね。うーん、わたしの場合は転生で良かったのかもね。転移だったら体力もなにもなさ過ぎて、先が思いやられるだなんて笑っていられない事態だったのでは。


「一応既存のダンジョンの仕組みをそのまま使おうか。ダンジョンへの侵入者1人が15分滞在で1ポイント、1時間で4ポイントって計算でコアにポイントが貯まる仕組みがあるんだ。

例えば6人パーティーの冒険者がダンジョンに5時間こもって120ポイント。

これを貯めて魔物とか罠とかをAIっていうのかな、そんなのが決めて配置していくようになっているんだよね。まあ君の考えるゲームっぽいシステムだ。

それでそのポイントを貯めて要素を解放していくようにしようか。最初から全部できるのもつまらないだろう。

その先はどうするかな。君はこだわりが強そうだし、君の知識、記憶に依存する形が簡単かな。ダンジョンマスターに必要だと考える要素が随時追加されていく方式。逆に言うと、ダンジョンマスターとして持っていても意味が無い、持っていたら違和感があるような要素は追加されないよ。

ダンジョンの創造や運営となると管理者、管理人だ。直接戦うようなスキルは必要ないよねってこと。勇者とか聖女とか大魔法使いとか魔王とか竜王とか、どれもダンジョンマスターのイメージじゃないよね。

その辺りの判定の基準はどうするかな。

うーん、まあとりあえず転生サービスでダンジョンポイント、長いな、DPでいいか、DPは10000ポイントあげよう。

最初にできることはコア作成1個、罠1種、魔物1種にしておこう。

そしてコア1個作成に必要なポイントは5000。ちょっと厳しめの方が長く遊べていいんじゃないかな。

作れるダンジョンは階層1階分が1000、罠1つ設置で100、魔物1種設置も100、それぞれ必要だよ。最初の10000ポイントで2~3階層あるダンジョンが1個作れて、そこに罠と魔物をあわせて20か30くらいは設置できるんじゃないかな。

既存施設のダンジョン化は、そうだな、20x20の範囲、1階層ずつで同じく1000にしておこうか。

要素の追加とか設定項目の追加とかはどうしようかな。一律一項目でDPは、そうだねちょっと厳しめに2000にしておくね。

あ、設定画面は空間投影でウインドウが表示されるようにしておくね。近未来的でちょっと格好いいでしょ。

まずはダンジョンを作って、1日3パーティーくらい来てくれると、一ヶ月で10000ポイントの元が取れる計算になるのかな。

正直どれくらい人が来て、どれくらいのペースで攻略してくれるのかっていうのは僕にもわからないよ。

危険視されると軍人が大挙してやってきて一気にコアまで潰されて終わりなんてことになりかねないから、最初は慎重にね。コアはちゃんと隠すんだよ」


ふむふむ。

最初のダンジョンを作るときは慎重に、そしてそこでいろいろと試してみながら進めれば良いのね。

うーん。本当にゲームっぽい感じになってきたぞ。

まあ人生は長いしね。今度こそは長いしね。たぶんね。じっくりゆっくりやっていきましょう。


なんて、そんなのんきに楽しいことを考えていたわたしの後ろの方から、何かわさわさとした、話し声かな?何か聞こえてきた。


「あれ、次の人たちが着いちゃったのかな。こっちが終わるタイミングで着くようにしていたつもりだったけど、間違ったかな。まあ君の考えるスキルが細かすぎたよね。普通は一発でスキル付けて終わるもんなんだけど」


急に雰囲気が変わってしまった気がする。

あれ、ここまで楽しくいろいろ考えていたのに、急に終わるの?

わたしはどうすればいい?


「**********************」


え、何て。

後ろから大きな声が何かを言った。


「*********************」

「*******」

「****************」


一人、二人、三人、え、もっといる。そんな一度に転移するの?

彼らが口々に何かを言っている。

神様は座ったまま右手を挙げて、

「***********************************************」

彼らと同じ言葉で何かを言う。

やってきた中の一人が大げさに肩をすくめる。

「**********」

やってきた中の一人がわたしの方を見て何かを言う。

「************」

神様が手を振りながら何かを言う。

あ、なんだかちょっと怖い。

これは場所を空けた方が良いような。

「********************」

やってきた中の一人が何かを言いながらわたしの方へ向かって手を伸ばしながら大きく踏み出す。

怖い。

一歩下がる。

下がろうとする。

でもそこには神様の座る机があるわけで、ただでさえ運動神経があれなわたしがそんな大きく避けて場所を空けてなんて器用なことはできないわけで。

下げた足が机に当たったのだと思う。

体勢が崩れる。

後ろに回っていた左手が何かに触れる。

体の正面には迫ってくる大きな体。

あっと思った時には崩れるように机にぶつかりながら倒れてしまっていて。

左手は触れた何かをつかんだような気がする。つかんで体勢を整えようとしたのか。でもつかんだものはそのまま体と一緒に動いてしまって。

倒れた、と思った。

思ったのだけれど、その瞬間、わたしの体は床を突き抜けた。

わたしは崩れるようにして倒れ、そのまま床を突き抜けるようにして何もないところへと落ちていってしまっていた。

落ちていく、どこまでも。どんどんと離れていく神様、神様の机、あとからやって来た集団の姿。

その姿もいつの間にか見えなくなっていて、これっていったいどうしたらと思いながらも、わたしは落下を続けながら目を閉じた。


─────────────────────────


「おっと、決める前に落ちてしまったな。

あ、でもここにあったオーブがないな、スキルオーブは持って行けたのか。んー、設定途中だったけれど、ちゃんと目的のものは持って行けたってことになるのかな。適当に置いておいたからどれが何だったのかわからないけれど。

まあいいでしょ、何も決まっていないような気もするけれど、運が良ければさっきまで話していた形でスキルがくっつくだろうし。付いていなくてもまあいいよね。

転生者が一人だめだったからって世界には影響はないだろうし。どうでもいいさ、終わり終わり。

さ、次だよ次。

次の人らの方がスーパーヒーローだ悪魔の化身だって楽しそうだしね。

転移の方が世界で活躍する頻度は高いんだし、面白おかしく世界を動かしてもらうにはそっちに期待しようか。

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