5─2:魔王
自分が魔王に出来ることを簡潔に述べていく。
1:魔王に巣くう魔力漏れを一手に引き受けること
──体の気だるさが無くなったって言っていたのだから、魔力を吸収することは魔王にとって良いことよね。
2:ひいてはそれが魔国の問題を解消する糸口になること
──民は魔王から漏れる魔力によって発生する瘴気を問題視していたもの。魔力漏れが無くなれば、瘴気の問題も自然と解消されるはず。
3:また、魔国の問題を今後十年間で解消すること
──聖女と出会う十七歳まで健康で過ごすために、住みやすい環境づくりにも尽力するわ。
「……これらを条件に私を魔王様のお傍に置いてもらえませんか?」
だてに前世でプレゼン資料を作っていたわけではない。魔王とひいては国のためになると分かりやすく説明したつもりだ。
感情の読み取れない表情で黙って私のスピーチを聞いていた魔王は、一呼吸間をおいてから口を開いた。
「人の子にそうも言わせてしまうとは情けない王だ。我は何も望まぬ」
何を勘違いしたのか自身を「情けない」と評する魔王。
この面接に衣住食がかかっている私は尚も畳みかける。
「私が!あなたと!共にいたい(衣住食を確保したい)のです!」
初めて共に生きたいと言ってくれる存在に出会えたのだろうか。息を呑み、狼狽する魔王。
「しかし……我は幼子の扱い方など知らぬし」
尚も意気地になって反論しようとする様子に「このままじゃ駄目だ」と瞬時に提示内容を考え直すことにする。
──これは面接……これは面接……お役に立ちますだけじゃ売り込みが弱いか!
──うーん……うーん……。
──魔王と……子供、魔王と子供……養子縁組?家族になっちゃえば傍にいる理由付けとして強いわ!
「それなら……!」
「私を魔王様の子供……家族にしてください!」
突拍子もないことを言っていることは分かっている。
だが、何度も言うが、私の今後の生活がかかっているのだ。
それが魔王の配下としてでも、家族としてでも、安定した衣食住が得られるのであればこの際どちらでも同じことである。
魔王曰く配下として幼女を傍に置くことを疑問視するのであれば、私は自分の年齢から考えられる立場さえ交渉材料に使ってみせるのだ。
「……」
魔王は、私の言葉の意味を考えこんでいるのか黙りこくっている。
その様子を見かねて、注目を促すように勢いよく自身の胸を叩いてみせた。
「安心してください!私は自分のことは自分で出来るので大丈夫です!ただ、パパもママもいない親無しの身では将来出来ることも限られているので魔王様が保護者になってくれると助かるのです!」
保護者の必要性を訴えつつ、自分が如何に手がかからない子供であるかを強く主張したつもりだ。
──これで駄目ならお手上げだわ……。
「我が保護者……」
沈黙が場を支配する中で「もうここまでか」と打ちひしがれていると、不意に大きな手が自身の頭の上に優しく添えられる。先ほど撫で回されたときに比べ、手の重みはさほど感じない。
心許ないとでも言うように不安げな視線で見つめられたかと思うと、聞こえるか聞こえないかの声量で一言問われる。
「お前の未来に我が必要か?」
「……っ!はい、とっても必要です!」
「そうか……」
「必要とされたのは初めてだ」
くしゃっと頭を撫でられかと思うと、頭上から「ふっ」と一瞬笑う気配がした。
見上げてみれば、魔王はその端正な顔に微笑みを湛えていた。
──わ……、黒いモヤで気づかなかったけど綺麗な顔立ちをしているのね。
これが三十歳喪女の体であれば照れるなり見惚れるなりしただろうが、いかんせん今の自分は幼女である。生々しくならないよう、年相応な笑みを返す程度の反応に留めておくことにした。
居住まいを正し、改めて向き直る魔王。
その姿に先ほどまでの憂いは見る影もなく、「魔王」としての威厳を取り戻したようにも見える。
「良かろう、引き受けた。人の子よ、名を聞こう」
「私は……」
***
こうして無事面接を乗り越えた私は、魔国での衣住食の確保と思いがけず保護者を獲得することが出来た。
気付いたばかりの魔力吸収の力。
魔国の瘴気の問題。
廃れた街を今後十年間で復興する課題。
抱えている事案はたくさんあるが、ひとまずミッション達成出来たことに心からの安堵をするのであった。
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