2005
「ねえ、しんたろー、恐竜見つけたら、何の研究をするの」
と美雨が言うので、ぼくは「その恐竜の食べ物とか?」と答える。正直ぼくの頭の中には、恐竜を見つけた後の名声とか賞賛とか、そういう目先のことしか無かった。研究は後回しだった。
「私、将来の夢、決まらないんだけど」
空白のままの「将来のゆめ」のプリントを見て、美雨はため息をついた。
「あたしはー、事務職で、お金貯めて、好きな人と結婚して、仕事辞めて、専業主婦になって、時間作って、小説書くの」
万智が聞いてもいないのに言う。ぼくはその通りに書いてあるプリントを読み上げてから、
「こまかいな、万智って」
とコメントした。
「ていうか結婚の予定まで書いちゃう?」
美雨があきれたように言う。鉛筆の先が、ぶらぶらしている。
「そおだよ。私、二十四までには結婚してるつもり」
「こまかいな、まじで」
「ふふん。将来設計は完璧」
「まあ、結婚相手が現れればの話ね」
言いながら、美雨があの包みを開く。「将来の夢も思いつかないし、万智の恋愛運占っちゃおー」
「やめんか!」
「私が勝手に万智ちゃんの恋愛運見たいだけですからー」
「あたしの将来は、あたしが決めるもん!」
なんだか万智は焦っているように見えた。気のせいかもしれない。ぼくは女の子のことがよく分からないから。
「これで将来が決まるわけじゃないでしょ」
今回は美雨の勝ちのようだ。
美雨が複雑な形に展開したカードを開いて、ふむと唸る。
「恋は成就するが……欲しいものは得られないでしょう」
「なにそれ。謎かけ?」
なんだかんだ乗り気の万智が身を乗り出す。美雨は続ける。
「解釈が難しいの。ここに困難があって……」
「えー……なにもわからん」
万智は美雨の後ろに立った。
「【吊られた男】が逆位置。見返りがない。でも【恋人】は正位置。恋愛の可能性がある」
「それって何、あたしが尽くすだけってこと? それともそういう男のこと好きになるってこと?」
「そうかも」
「やだわ。やだやだ。はい、いまのなし」
万智はやだやだと手を振って、プリントの字を眺めた。そしてなぜかぼくの方を見た。
「運命って自分が切り開くものだもん」
ぼくは、そっと空欄のままの美雨のプリントの方をのぞき込んだ。
「美雨は、将来の夢決まらないの?」
「そんなに簡単に将来のことなんか決められない。せいぜい志望中学校くらいだよ」
「どこ?」
万智が尋ねる。ぼくと万智と、二人分の視線を浴びた美雨は微笑んだ。
「……二人と、同じとこが良いな」
それからしばらくして、ぼくらは、美雨の転校の話をきかされることになる。
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