2010
万智と付き合うことになったよ。万智から聞いてるだろうとは思うけど。あの万智が、君に黙って僕に告白するとは思えないから。だって小学校で「サラダ記念日」を習っていらい、ずっと「サラダ」ってあだ名を跳ね除け続けたあの万智だよ。
うん、告白されたんだ。逆じゃないよ。ノーって言う理由がなかった。
ところで、君がミヤギへ転校してから四年か。新しい環境に入ったからか、万智は君とわかれてからずいぶん女っ気が増したような気がするよ。彼女には内緒だけど、周りの男子が万智を見る目が「サラダ」じゃなくなった。万智は万智としての存在を獲得して、ちゃんと一人の女性になったような気がする。
内緒だからね。
まあその……僕は相変わらずです。河原でアンモナイトの化石を探したり、活断層を見に行ったりしています。万智はそれに着いてきて、しげしげ僕の手元を眺めて、「こんなのが好きなんて、あんたやっぱりへん」と言います。美雨のときとおんなじ。「こんなのが好きなんて、美雨ってへん」って言ってたよね。でも、万智の言うようにみんながみんな同じものを追いかけたり好きになったりするほうが、ちょっとおかしいと思う。だから、そう言われたとき決まって、「金子みすず」、って返します。「みんな違ってみんないい」
僕は今日も空を見上げています。ちょうど天使の梯子が掛かっていました。美雨にも見えているかな。見えているといいな。この空だけは繋がっていると、信じていたいです。
そっちはどうですか。相変わらずですか。
送る勇気も無い手紙ばかり積み上がっていきます。僕らがわかれるまえに、お互いにケータイを持っていたら、きっとこんなことにはならなかったんだろう。前の手紙が戻ってきてしまってから、もう僕の言葉を君に届ける手段はなくなってしまった。
本当は、君に言いたいことがたくさんあるんだけど、こうして紙を前にすると、胸がいっぱいになって何も書けなくなってしまいます。どうせ届かない手紙なのに。
どうせ誰も読まない手紙なのに。
美雨は、僕のことを覚えていますか。
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