2016

 美雨。


 もう5年か。なりふり構わず駆け抜けてきたし、なりふり構わず探し続けたけど、君が占ってくれたような未来は見えなかった。アルカナが示す未来を僕は信じていたかったんだけれど、僕の希望はもうどこにもない。きっと全て逆さまになってしまったんだよな。あんなに熱心に解説してもらったのに、タロットカードの意味も示唆も覚えてないんだ。でも、カードが逆さまになってしまうと全てがひっくり返ってしまうことだけは覚えている。


「さかさまに気をつけて」と君は言った。

「さかさまになってしまうと、どんなにいいことを言っていても、カードはそっぽを向くの。だから決められた手順を踏んで、上下をちゃんとしないとダメ」

 君の中では、カードは持ち主以外が触れてはいけない神聖なものだった。だから僕はついぞ君の大事なカードには触れたことがない。万智はどうだったか、知らないけど。


 君はまだあのカードを持っているだろうか。君が大事に布に包んで持っていたあの大アルカナを。そしてどこかで見てるだろうか。この光を。


 天使の梯子は吉兆のしるしだっていう。

 僕はこれを見かけるたびに君に手紙を書く。読んだら捨ててくれて構わない。ぜひ捨ててくれ。


 今日の空はどんよりしていて、今にも雨が降りそうな予感がしたんだけれど、その雲の切れ間からまっさらな光が降ってきたんだ。美雨、僕ら10歳の頃に初めて見たあれと同じだ。同じ空だよ。


 僕の空はずっとひとつづきで、嫌になるくらい無常で、時々こういう風に、なにかの悪戯みたいに、天への梯子をかけるんだ。あれが本当に天使の梯子だったらと思う。足をかけてのぼれたらと思う。


 そうしたら、万智はそこから降りて来れるんじゃないかな。君もそう思わないか、美雨。


 万智は戻ってこれた。美雨、君はどうだろう。

 今どこにいるんだろう。

 僕は想像する。君が陸にいるのか、それとも深い海の底にいるのか。



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