第37話 哲彦くんと「普通じゃない友達」になりたい。 桐葉視点

「じゃあね。哲彦くん……!」


 あたしは電話を切る。

 やっと哲彦くんと話すことができた。

 ふう……と、あたしは深く息を吐き出す。


「哲彦くんと、普通の友達に戻れた」


 あたしたちは、海でいけないことをした。

 絶対に許されないことを……

 だから哲彦くんとは、普通の友達に戻らないといけない。


「でも……本当は違う」


 本当は……哲彦くんと「普通じゃない友達」になりたい。

 もちろんそんなこと、絶対に言えない。

 女の子が男の子に「セ〇レ」になりたいと言うなんて……

 ダメだ。そんなこと。


「あたし、ちゃんと我慢できた……」


 本当はこう言いたかった。


 ――あの海での続きをしたい、と。


 もう少しで言いそうになっていた自分が怖い。

 きっとあたしの心の奥底では、あの日の続きを望んでいる。


「あの日の続きは……たぶん」

 

 もしあの日の続きを哲彦くんとするとしたら……

 あたしはあの日以来、ずっと一人で想像していた。

 いや、想像じゃなくて完全に妄想していたんだ。


「あたしたちは、ハグして、キスして……」


 あの日の続き。

 それはキス以上のことをするということ。

 男女がキス以上のことをするなら……


「ダメだ。想像しちゃいけない……」


 やっぱりダメだ。

 どんなに抑え込んでも、どんどん妄想があたしの中で膨らんでいく。

 まるで噴火寸前の火山みたいに、欲望を外に吐き出したくて仕方ない。


「あたしは俊樹の彼女、それで哲彦くんとは……」


 あたしって酷い女の子だと思う。

 哲彦くんを欲望のはけ口にするなんて。

 人から見れば、かなりヤバめな女なんだろう……

 別の男の子と付き合いたいと言いながら、また別の男の子といろいろしたい。

 

「もしかして、あたしはビッチなのかな……?」


 本当に認めたくないけど、あたしのやっていることはいわゆる「ビッチ」だ。

 あっちこっちの男の子と、えっちなことをする女の子。

 尻軽女、とも言う。

 貞操観念が狂っているかもしれない。


「違う。それは違う。あたしがは、哲彦くんだけ」


 正直に言うと、俊樹とはそういうことをしたくない。

 なんとなく、俊樹に対してそういう気持ちになれない。

 俊樹のことは好きだし、恋愛感情は抱いている。

 だけど……そっち方面のことをしたいという気持ちが湧いてこない。


「あたし、やべー女だ」


 でも、これが素直なあたしの気持ちなんだろう。

 哲彦くんとえっちなことしたい。

 心よりもまず身体で繋がりたい……


「哲彦くんに早く会いたいな……」


 またあのファミレスで、哲彦くんと何時間も話したい。

 えっちなことは……したいけど、哲彦くんと友達でいるために我慢しよう。

 神さま、あたしに強さをください――

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