第35話 電話に出てしまう

「さあ早く電話に出て……」


 アイサが俺の耳元でささやく。


「いや、ここで出るのは……」

「ダメ。絶対に出てほしい」


 もしここで桐葉の電話に出てたら、俺は海での出来事の話になる。

 間違いなくその話だ。

 アイサにも話を聞かれてしまう。

 そうなれば俺も気まずい感じになるが、桐葉もアイサに聞かれるのはイヤに違いない。

 

「もしかしたら、桐葉の秘密の話かもしれないし」

「ふーん、そんなにあたしに聞かれたくない話があるんだ。あやしー」

「図書室ではスマホ禁止だろ? 図書委員さん」

「そうくるか! 図書委員権限で今日だけはスマホの使用をOKにします」

「いや、そりゃないだろ……」


 絶対に電話に出させたいらしい。

 こうなりゃ、強引にここから逃げるか?


「ふふ。逃がさないぞ」


 ぎゅーっと、さらに強く俺を抱きしめるアイサ。

 大きすぎる胸が、俺に押し当たる。


「おいおい。当たってるぞ。胸が」

「うん。そうだね」

「もしかして、わざとだったりしますか?」

「わざとだよー」


 ニコニコしながらそう言うアイサ。

 かわいいけど悪魔の微笑みだ。


「早く電話に出なさい」

「この状態だと変な声出そうだから無理」

「むむ。仕方ない。強行突破だ」


 アイサは俺の一瞬の隙をついて、スマホを取り上げる。

 そしてボタンを押した。



 

 


 

 



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