第29話 哲彦くんがいないと生きていけない 桐葉視点

【桐葉視点】


「あたし、やらかしちゃった……」


 去っていく哲彦くんを見ながら、あたしは砂浜に座り込んでしまった。

 

「なにをやっていたんだろう? あたし……」


 あたしは激しく後悔している。

 欲望に流されて、哲彦くんに酷いことをしてしまった。

 

「だってあたしは、俊樹が好きなのに、哲彦くんにキスしちゃうなんて……」


 本当に最低だ。

 哲彦くんを傷つけた。

 せっかくあたしの恋を応援してくれていたのに、哲哉くんの気持ちを台無しにしてしまった。


「でも……哲彦くんとキスして、すごく……」


 あたしは自分の唇を、人差し指で撫でる。

 哲彦くんの唇の感触を、無意識に思い出していた。


「これは正しくないこと、悪いこと。なのに……」


 あたしは、求めている。

 それもかなり強く。

 哲彦くんのことを——


「あたしと哲彦くんは友達同士。ただの友達……」


 たぶんあたしの中では、哲彦くんは「ただの友達」ではない。

 哲彦くんはあたしにとって特別な人。

 彼女になりたいとか、そういうのじゃない。

 いや、もしも彼女になれたらすごく嬉しいけど、そういう素敵なドキドキする恋愛じゃなくて……


「あたしの心のオアシス……」


 哲彦くんと一緒にいると、すごく落ち着く。

 暖かい気持ちになれる。

 哲彦くんの声、哲彦くんの匂い、哲彦くんの体温。

 それらはあたしの心を癒してくれる。

 まるでお風呂に入ったみたいに、とてもリラックスできるのだ。


「本当に都合のいいこと言ってるよね、あたし……」


 あたしは俊樹が好きで、恋してると思う。

 だけど、哲彦くんとも一緒にいたい。

 哲彦くんからすれば、都合のいいことを言ってる女に見えるに違いない。


「……哲彦くんとなら、えっちなことしたかった」


 あたしの本音。

 哲彦くんとえっちをしたかった……

 俊樹とするよりも先に?

 そうだ。哲彦くんと最初にシタイと思っている。


「なんて恥ずかしいこと考えているんだろう……?」


 いくら海とは言え外で、そういうことするなんて……

 誰かに見られたら、女の子として終了する。

 下手したら俊樹に見られるかもしれない。

 そしたらあたしの恋は終わるし、哲彦くんも俊樹との友情が終わる。

 アイサちゃんにも嫌われちゃうかも……


「うん。哲彦くんに謝ろう……」


 ちゃんと謝って、また友達に戻ろう。

 ただの友達に……

 えっちなことは絶対にしない、普通の友達に。


「でも……神様、ごめんなさい。もし許されるなら——」


 哲彦くんと、えっちなことがしたいです。

 したくてしたくてたまらないです。

 哲彦くんのこと……大好きです。

 悪い子でごめんなさい、神様——



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