第27話 この世界はエロゲだった

「えへへ……哲彦くんと二人きりだ」


 桐葉と俺は、浜辺にあった大きな岩、その影にいた。

 ちょうど人が二人くらいなら隠れられる大きさの岩だ。

 にへーと笑いながら、桐葉は俺に抱き着いてくる。


「そうだな……」

「うん。私たち、二人きりだよ?」

「たしかにそうだ」

「もお! そうじゃなくて……!」


 桐葉はリスみたいに口を膨らませて怒る。

 まるで小さな女の子みたいな反応に、俺の心はざわつく。


 桐葉の髪はきれいだ。

 艶のある黒髪のストレート……

 桐葉は清楚可憐な俊樹の幼馴染キャラ、どこか儚げな雰囲気もある大和撫子……そんな感じの女の子だ。

 そしてエロゲらしく胸は大きい。夢見以外の女性キャラは巨乳設定がデフォルト。

 それが桐葉の、キャラ設定だ。

 エロゲのテンプレ美少女。


 (やっぱりテンプレ美少女はかわいいな……)


 ……と、俺は密かに思っていたが、

 

「……? 哲彦くん、何を考えているの?」

「いや、別に……」

「えー! 教えてよ!」


 桐葉がぎゅうっと、さらに強く抱き着く。

 それに合わせて、柔らかいものも当たりまくるわけで……

 

「本当、大したことないから……」

「大したことないことを聞きたいの。だってそれが友達でしょ?」


 シナリオ通りの展開では、俊樹と桐葉はここで初めてのキスをする。

 そして好感度が高ければ、初のえっちシーンに入る。

 たしか……俊樹の勇者がデカくなって、それを見た桐葉が口で――

 

 (冷静に考えるとよくわからんよな……)


 男がムラムラしたら、都合よくいろいろ解消してくれる美少女がいる……

 そんなことは、現実世界ではあり得ない。

 そんなことは、エロゲの世界だけだ。

 

 (そっか。この世界はエロゲだった……)


「ねえ、哲彦くん」

「なんだ?」

「もしかして……大きくなっている?」

「……何が?」

「何がって……女の子に言わせる気なの?」


 桐葉は顔を赤くてして俺に聞いてくる。

 いや、これは完全に不可抗力だ。

 生理現象だ。

 生物学的オス(男)なら、誰だって美少女に抱きつかれたらこうなる。

 

「じゃあ聞くなよ」

「……あたし、哲彦くんとキスしたい」

「突然だな。ていうか、ハグ以上のことはしないって約束しただろ」

「約束なんて破るためにあるんだよ」

「出た。そうこうこと言うやつ!」

 

 俺たちは急に吹き出した。

 なんだかこの状況に、ひどくおかしい気がしたのだ。


「だから、哲彦くんにキスさせてください」

「めちゃくちゃな論理だな」

「哲彦くんもあたしとキスしたら、キスしたくなるよ」

「なんだよ、それ」

「接触理論ってやつ。人は長く触れ合えば、自然と好きになるんだって」


 そう言うと桐葉は目を閉じた。

 そして背伸びをする。

 

 (俺は、キスを――)

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