第22話 海で逆ナンされることに

「お兄さん、かっこいいね」


 俺とアイサがビーチでカキ氷を食べていると、大学生くらいのお姉さんが声かけてきた。

 金髪を巻いていて、濃い派手な化粧……うん。いかにもギャルだ。


「ありがとうございます」


 無視するわけにもいかず、俺はさらっとお礼を言う。


 前世でブラック企業の社畜オッサンだった俺は、お姉さんから公共の場で声をかけられることはなかった。

 あるのはおばあちゃんに道を聞かれたことくらいだ。


 こんなギャル度が高いお姉さんに「かっこいい」と言われるなんて、異世界に転生でもしないとあり得ない――


 (そっか。俺、異世界に転生していたんだった……)


 異世界と言っても現実にかなり近いエロゲの世界だ。

 哲彦は残念なイケメンという設定。

 一応、イケメンということになっている。

 

 (全然意識していなかったけど、今の俺はイケメンなんだよな……)


 イケメンってすごい世界に生きているんだなと、俺は実感する。

 前世の俺は全然イケメンじゃなかったし。

 

「ねえ、お兄さんは大学生?」

「いえ……高校生です」

「へえ! そうなんだ! あたし、この近くの慶王大学に通ってるんだ」

「そうなんですか……」


 ギャルっぽい見た目とは違い、けっこう頭いいらしい。

 ていうかこんなモブキャラ、ゲームの中にはいなかったはずだが。

 

「あたしたち、あっちでビーチバレーしてるんだ。お兄さんも、一緒にどう?」


 そう言って笑いながら、さりげなく俺の腕を触ってくる。

 ギャルのお姉さんは、とりあえず仲間がいる場所へ俺を連れて行こうとしているみたいだ。


「……その手を、離してください」


 アイサが、俺とお姉さんの間に入って来た。

 まるで俺を庇うようにして、アイサはお姉さんと対峙した。


「あたしたち、今忙しいんです。だからあっちに行ってください」


 普段のアイサからは想像つかないような、めちゃくちゃ低い声を出すアイサ。

 ドスが効いているというか、お姉さんに対して敵意が剥き出しだ。


「えー! ちょっとお兄さんと遊びたいだけなのにー!」

「ダメです。今、哲くんはあたしと遊んでいるんです」

「哲くんっていうんだ。それで、あなたは哲くんの何なの?」


 なぜかキレているアイサに対して、余裕がある笑みを浮かべるお姉さん。

 かなり険悪な、バチバチと火花が散っているような空気になる……


「もしかして、彼氏さんだった?」

「いえ、それは……」

「彼氏さんじゃないなら、あたしが誘ってもいいよね?」

「……か、彼氏ですっ! 哲くんはあたしの、彼氏ですからあああああああ……っ!」


 (俺が、アイサの彼氏……??)


 

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