第21話 哲くんの成分を補給したい

「カキ氷……おいしい!」 

「うん。美味いな」


 アイサが苺シロップのカキ氷を食べている。

 俺とアイサは海の家の外へ出て、屋台のカキ氷を食べに来ていた。

 地域では話題のカキ氷だそうで、かなり美味い。


「桐ちゃんと俊樹、大丈夫かな……?」


 アイサが心配そうな顔をして言う。

 大丈夫、とは、桐葉に俊樹が取られるかもしれない、という意味だ。


「まあ大丈夫だろ」

「ていうか、これが哲くんが言ってた作戦なの?」

「そうだよ」

「……よくわかんないだけど、ただ桐ちゃんに先にチャンスを与えただけに思うんだけど?」


 たしかにアイサの言う通りだ。

 先に桐葉と俊樹を二人きりにしてしまえば、桐葉にフリーキックのチャンスをあげるようなものだ。

 しかし、俺には考えがあった。


「まあそう見えるかもしれない。だけど、恋愛は後出しジャンケンのほうが絶対に有利だ」

「えっ? どういうことなの……?」


 アイサは首を少し傾げる。

 

「俺はアイサのスパイだ。後で桐葉から俊樹とどんな話になったか聞き出すよ」

「なるほど。桐ちゃんの出方を見てから、あたしは手を決めるのね」

「桐葉はいくら俊樹が好きでも、今日、付き合うところまで決められない。やりすぎて俊樹に嫌われるのが怖いから、大胆にはなれない」

「そこであたしが後から出て行って、ギャルキャラを生かして積極的にアプローチするのね」


 不敵な笑みを浮かべるアイサ。

 どうやらかなり自信があるみたいだ。


「さすが察しがいいな」

「伊達にアイドルやってるわけじゃないからね」


 男と女は、人を好きになるスピードが違う。

 男は女の子に積極的にアプローチされると、割と早くその子を好きなる傾向にある。

 たとえば、かわいい女の子からボディタッチをされたら、大抵の男はその子を意識する。


 (特に俊樹みたいな童貞男子はそうなるはず……)


 ここはアイサのギャルキャラを生かして、真面目なキャラの桐葉よりも大胆なことをすることで、俊樹の好意をアイサに向ける……そういう作戦だ。


 (でも、それは全部フェイクだ)


 本当の俺は、桐葉の味方だ。

 桐葉にはアイサよりも大胆になるように、予め言っておいた。

 今ごろ、桐葉は俊樹の手を握ったり、膝を触ったりしているだろう。

 アイサには悪いが、恋愛は騙し合いだ。

 騙されるほうが悪い……


「さすがあたしの軍師さん。頼りになる〜〜!」


 アイサが俺に抱きつこうとするが、俺はその寸前で身体をかわす。


「ちょっと! 逃げるなんて哲くん酷い!」

「いや、その状態で抱きつかれるといろいろマズイだろ。友達同士なのに」


 アイサは黒いビキニを着ている。

 布面積も少ない。

 豊かな双丘は男なら誰でも目が行ってしまう……

 今も、たゆんたゆん揺れてるし。

 そんなアイサに抱きつかれたら——


「いいじゃん! あたしの軍師さんに感謝したいだけなのにー!」

「感謝なら言葉で十分だよ」

「……あたしは十分じゃない。哲くんの成分を補給したいから」

「俺は塩分かよ……」

「うるさい! 大人しく抱かれろー!」


 アイサは再び俺に抱きつこうとするが、俺はまた回避する。


「哲くん、回避率高っ!」

「ふふ。当たらなければ意味がない」


 アイサのおっぱいの感触は気になるが、今の水着の状態で抱きつかれたら、俺の勇者の攻撃力が2倍になってしまう……


「でも……もし今日の作戦が上手くいったら」


 アイサは少し真面目な表情になる。


「上手くいったら?」

「しっかり、哲くんに抱きつかせてね」



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