第20話 壊れていくシナリオ

「……いや、桐葉はとりあえず俊樹の隣でいいんじゃないか?」


 海の家で俺たちは、それぞれが座る席を決めてようとしていた。

 桐葉ルートなら、桐葉が俊樹の隣に座ることになっていたが……


「そうよ! 桐ちゃんは俊樹の隣でいいじゃん! あたしが哲くんの隣に座るから!」

「え……でも……」


 さりげなく俺の隣に来るアイサを見て、桐葉は不満そうな顔をする。

 この状況は俺にとって想定外の出来事だったが、ここはアイサの賛成を利用しよう。


「そうだな。座ろうか。アイサ」

「うん! あたしが哲くんの隣ー!」


 やけに笑顔になるアイサと、残念そうな顔をする桐葉。

 海の家のボロボロの木の椅子に座る俺たち。

 俺とアイサの正面に、桐葉と俊樹が隣同士で座る。

 ゲームでもこのイラストがあったな……


 (桐葉ルートの絵になったな……)


 焼きそばを食べたあとは、ナンパイベントか……

 桐葉とアイサをナンパしてくる大学生がいて、俊樹が助ける流れになる。

 それで俊樹はヒロインの好感度を上げていく。

 

「この焼きそばおいしいね! 哲彦くん!」

「とってもおいしいよ! 哲くん!」


 やたらと俺にばかり話しかけてくる桐葉とアイサ。

 アイサはまだしも、桐葉は俊樹と話してほしい。

 桐葉と俊樹の関係が深まらないとバットエンドに行ってしまうからだ。


「哲彦。うまいよな。この焼きそば。また食いたいわ」


 俊樹もやたらと俺に話しかけてくる。

 おいおい。お前は主人公キャラなのだから桐葉と話してほしい。


 (なんだかおかしい……)


 一応、シナリオ通りの進行なのだが、違和感がある。

 エロゲの場合、主人公キャラを中心にその周囲にヒロインたちがいる。

 親友キャラというものは、立ち絵が出ていてもときどき話をするだけだ。

 基本的にヒロインたちは主人公に話しかけて、他の女の子にも優しくする主人公に嫉妬したり、さりげなく好きアピールをしながら、シナリオが進行する。


 (そのはずなのに、絶対に変だ)


 桐葉もアイサも、俺にばかり話しかけてくる。

 そしてときどき、俊樹が俺とヒロインたちの会話に入るという感じだ。

 これだと完全に親友キャラが主人公キャラと立ち位置が変わっている。

 

 (このままじゃ、バットエンドに行ってしまう……)


 俺のやるべきことは桐葉と俊樹をくっつけることだ。

 そうしなければ桐葉は死んでしまうわけで……


「なあ……あっちでカキ氷が売ってるぞ」


 俺は店の外で売っていた、カキ氷の屋台を指さす。

 

「アイサ、食べにいかないか」


 かなり強引だが桐葉と俊樹を二人きりにしよう。

 俺は桐葉にまばたきして、かすかなサインを送る。


「えっ? あたし。カキ氷大好きっ!! 哲くん行こ!」


 アイサは俺の誘いに乗ってくれた。

 俺の手を取って、店の外へ向かう。


 (桐葉……がんばれよ!)

 


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