第18話 あたし、ただのビッチじゃん アイサ視点

【アイサ視点】


 ——哲彦たちが海へ行く数日前のこと。


「勝負水着……だよね?」


 あたしは部屋の全身鏡で、自分の水着姿を見ていた。

 

「哲くんに選んだもらった水着。これで俊樹を落とせるかな……?」 


 黒の大人っぽい、セクシーな水着……のつもり。

 哲くんにはもっと布面積が少ない水着も見せたけど、結局このビキニで決まった。


「露出が激しすぎるって怒られちゃった……」


 あたしは胸はEカップ。

 桐ちゃんはたぶんだけどFカップだ。

 大きさで負けてるあたしは、せめて布面積の少なさで勝負しようと……


「でもそれは悪手だって言われたのよね」


 哲くんが言ってたけど、女の子が見せようとして見せても、男の子はドキドキしないらしい。

 女の子が見せたくないのに見えちゃった……というのが男の子的にはグッとくるのだそう。

 だから布面積は少なすぎちゃダメだと……


「なんか異様な説得力があったな……」


 哲くんと水着を買いに行った時のことを思い出すと、あたしはつい頬が緩む。

 哲くんと一緒にいるのは楽しいし、いつまでも自分の話をしてしまって、時間を忘れてしまう。


「哲くんには何でも話たくなるんだよねー」


 あたしは鏡の前でセクシーぽっいポーズを決めながら、来週の海の戦略を練っていた。


「俊樹と二人きりにならないといけない……」


 問題はやり方だ。

 常に四人でいるところで、どうやって俊樹と二人きりになるか。

 そこは難しいけど、哲くんが考えてくれるらしい。

 

「当日に作戦を伝えるって言ってたけど、いったいどんな作戦なんだろう……?」


 俊樹と海で……キスをしたい。

 一気に外堀を埋めてしまうつもりだ。

 もちろん勢いでキス以上のことも——

 いや、それは哲くんに止められている。

 俊樹を追い込むと逃げるかもしれないって……


「そう言えばキスは、哲くんと先にしちゃったんだよね……」


 なんであたしはキスしたんだろう?

 あれは本当に良くなかったと思う。

 あたしは俊樹が好きだと哲くんに言ってたのに、先に哲くんとキスするなんて不純だから。

 哲くんにも酷いことをした。

 自分を好きでもないのに、キスされても哲くんは困るだろう。


「あー最低だな……あたし」


 水着の上からあたしは自分の胸に触れる。

 自分の気持ちがわからない……

 心と身体が離れてしまった感じだ。

 心は俊樹に向いてるはずのに、身体は哲くんに向いてしまっている……そんな感じ?

 いや、もしかしたら逆かもしれない。心が哲くんで、身体が俊樹かな?


「これじゃあたし、ただのビッチじゃん……」


 たぶんこのままだと、海であたしはやらかす。

 女の子が口にしちゃいけないようなことを……


 パンっ!


 あたしは自分の頬を両手で叩く。


「あたしはアイドルで財閥令嬢。理性を取り戻さなきゃいけない」


 気持ちに流れちゃいけない。

 海では普通に、俊樹との仲を縮めるのだ。

 そうしなきゃいけないんだ……


「哲くん……あたし、どうしたらいいの?」



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