第12話 あたしは俊樹を好きなはずなのに アイサ視点

【アイサ視点】


「哲くんにキスしちゃった……」


 はあ……と、あたしはベッドの上でため息を吐く。

 夜、あたしの部屋。

 打ち上げの後、みんなはもう帰った。

 あたしは一人で反省会をしている。


「本当にやっちゃったな。あたし」


 あのキスは——哲くんをあたしの味方にするためにやっただけだ。

 キスも抱きついたのも全部あたしの戦略。

 ……ごめんなさい。これは嘘。

 今のは真っ赤な嘘だ。

 戦略なんかじゃなかった。


「哲くんを見たら……身体が勝手に動いて」


 うん。都合のいい言い訳だと思う。

 身体がじゃなくて心が哲くんに惹かれたんだ。

 いや、惹かれたんじゃなくて哲くんに甘えたくなって——


「あーもう! あたしのバカ!」


 あたしは枕に顔を突っ込む。

 一人で恥ずかしさに身悶えるあたし。

 

「もう死にたい……」


 あたしが好きなのは俊樹のはずなのに。


 ……子どもの頃、あたしが外国へ引っ越す前。

 あたしと俊樹は、同じドラマに子役としてテレビに出ていた。


 (あの頃の俊樹、カッコよかったな……)


 俊樹は先輩子役としてあたしに教えてくれた。

 厳しい芸能界での生き方を……

 それがあたしが俊樹を好きになった理由だ。


「俊樹。なんで引退したんだろ?」

 

 途中で俊樹は引退した。

 突然の引退発表——

 あたしは衝撃を受けた。人気俳優にまで登りつめたのに、どうして……?

 それで外国から帰ってきてから、俊樹を探して同じ学校へ転校してきた。


「あたし。俊樹を好きなんだよね……?」


 あたしは俊樹を好きなはず。

 でも本当は哲くんのことを——

 ううん。違う。あたしは俊樹が好きなんだ。

 いや……あたしは、どうしたらいい?


「哲くんに抱きしめてほしい……」


 (ヤバい。あたし、何を言ってるんだろう……)


 哲くんの匂いとか体温とか思い出すと、あたしの胸は熱くなる。

 すごくドキドキして、頭は哲くんのことでいっぱいになってしまう。


「早く哲くんに会いたいな……」

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