第3話 どっちだクイズ
ママがリビングでソファーに座りながら本を読んでいる。
「ハルト。どっちだクイズやってみようよ」
僕たちはどっちだクイズをよくやっていた。後ろからママに手で目隠しをして、ハルトかトウマかを当てるというクイズ。
以前ママが料理中にやってめちゃくちゃ怒られたことがある。しかしソファーに座っているときはOKだ。
僕は後ろからそっと近づいて両手でママを目隠しした。
「どーっちだ」
「ギャー!」
バチーーン!
ママはびっくりして両手両足をバタつかせ、その反動で僕は吹っ飛んだ。起き上がってママを見ると物凄い顔で僕を見ている。
「ハルト。ご、ごめんね。大丈夫?」
「ママごめんなさい」
「いやいいのよ。急にされたからママびっくりしちゃった。どっちだクイズはもうやめにしようね」
「うん。もうしない」
気まずくなって僕は子供部屋に戻った。
「ねえハルト。ママの顔見た? もの凄くびっくりしてたよな」
「顔の傷が痛かったのかな」
「そういう感じではなかったな。目だから鼻の傷はあまり関係ないし。あのリアクション。確かに普通の人ならびっくりするよな」
「普通の人って。もしかして昼間トウマが言ってたママは別人って話?」
「僕は怪しいと思う」
僕はスマホを取り出して昔のママの写真を見てみた。トウマが覗き込む。
「やっぱり全然別人じゃないか? 目元は全然違うし。ママは丸顔だけど今のママは長いし。ハルトはどう思う?」
「違和感はあるけどさ。逆に別人だったらママに似すぎてないか? やっぱりママだよ。元気がないみたいだから僕たちが頑張らないと」
◇◇◇
次の日の朝。
リビングに行ったら朝食が用意されていた。しかしひとり分だ。ママはもうキッチンを離れている。
「ママー。ひとり分しかないよ」
「僕はいいよ。お腹空いてないから」
弟のトウマはそう言って部屋を出ていった。
「ハルトー。なにー?」
ママが聞き返してきた。
「ううん。やっぱいい」
そういや昨日の夕食はどうだったっけ。思い出せない。
今日は隣の山本さんの家へ行くことにした。歩いて5分くらいだ。山本さんの家の周りは畑だ。イノシシ対策で周りを柵で囲われている。
おじさんとおばさんが庭の外れにいた。僕たちは近づいて行った。何やら庭に穴を掘っている。僕はおばさんに声をかけた。
「こんにちは」
「あらこんにちは。隣の谷口さんの子だね」
「おじさんは何をしてるの?」
おじさんは手を止めて答えた。
「捕獲したイノシシを埋めてるんだよ。ワシもこんなことやりたくないんだけどね。畑を荒らされたら仕方がないよ。イノシシは一晩で畑を全部荒らすんだ」
「大人しくしてくれたら私たちも少しは農作物を分けてあげるんだけどね」
穴を覗くとイノシシが入っていた。鼻に怪我をしている。
「鼻に怪我してるね」
「鼻くくりの罠にかかったんだ。イノシシの鼻はとても硬くなってるんだ。その鼻をギュッと縛る。一度締まると簡単には抜け出せない」
「このイノシシどうなるの?」
「火葬かな。燃やすんだよ。せめて火葬してあげないとな」
僕たちは山本さん家を後にした。帰り道にトウマが言った。
「イノシシかわいそうだね」
「仕方ないよ。一晩で畑を全部荒らすんだって」
「鼻に怪我してたね。ママみたい」
「うん。おばさんが言ってたことが気になったんだけど。大人しくしてくれたら食べ物を分けてあげるって。ママは山本さんから食べ物を分けてもらっているんだよね」
「だから家で大人しくしているのか」
「やはりママは偽物だ」
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