【幕間】:高校2年 梅雨 

第6話 純喫茶の中で①

 私と瑠夏が神社で●●●する1ヶ月前くらいのお話—— 






 コーヒーの香りを嗜みながら、有田焼の青いコーヒーカップのふちを上唇と下唇で挟む。私は別に猫舌でもないから熱い飲み物を舌の上に徐々に徐々に注いでいくと、研ぎ澄まされた切れのある味が口の中に広がって、大人ぶって目を閉じたりしてみる。


「……まさにテイスティ」


 店内で上品に鳴っているジャズの音にかき消されるくらいの小さい声。読んでいる小説の登場人物の台詞から抜粋してみた。


 なんか恥ずかし。


 とにかく落ち着かない。コーヒーカップの金の取っ手が黄色い照明の光を反射して、私は小説の文をチラチラ照らしたりしてみる。意味の無い行動だけど羞恥心がほんの少し誤魔化せた気がした。


 私がこうもソワソワしてる理由。それは人生初、純喫茶とやらに訪れてみたからだ。


 ここは傘美禰の町の旧市街に佇む『コンパス』という喫茶店。学校帰りに電柱広告で名前だけは見かけていたけど、こうして店に入るのは初めてだった。


 私みたいな17歳の女子高生が入るのにはちょっとアダルトで、このダークでアンティークな店の雰囲気に合うように黒いシースルーのトップスに黒ショーパンの謂わゆる大学のお姉さん風にしてみたけど、店の空気に馴染んでいるかすごい不安。


 『なんか子供が紛れ込んでるよ』『なぁに大人ぶっちゃって』——だなんて周りから思われてたら最悪。


 そんな心配をしていると喫茶店の扉が鈴の音と共に開いて、白いワンピースの聖女が粒子を纏いながら入ってきた。


 私は安堵した。やっと知ってる顔が現れたからだ。


 瑠夏。店のダークな黒い雰囲気に呑まれることもなく、白は煌びやかに光を放つ。オセロなら反則だ。


 午前は部活だと聞いていたから、直で来るものかと思っていたけど、どうやら一回帰って着替えたっぽい。


「先に一人、はい」


 傘を傘立てに入れて、瑠夏はカウンターで皿を拭ってるマスターと一言取り交わす。店内を見渡して私を見つけるな否や小ぶりに手を振って、タッタッと駆け寄った。正面に着席。


 触れフレ活動において向かい合わせに座るとはどういった魂胆だろう。ボックスタイプの席でソファとソファに挟まれる形でテーブルがあるけど、そこそこの大きさたから、これではお互いに触れることが出来ない。


「お待たせ華〜」


 いつも通りに陽気な瑠夏を見るに、多分何も考えずに正面に座ったんだろう。


「今日は特に予定無かったの?」


「華様のお誘いを受けたからねぇ、何処へでもお供しますよ〜」


 ふにゃふにゃの敬礼。向かいに座ったことをちょっとばかり咎めようと思ったけど、瑠夏のゆるゆるっぷりにそんな気も引いてしまう。


「今日は予定表に山路くんとの予定書いてない?」


 私が一応気を遣ってそんなことを訊いてみると、瑠夏はポーチからペン付きのメモ帳を出してスケジュールのところを見せてくる。6月19日、今日の予定はお花の絵にハートマークだけ。


「“PM華♡”」


「はいはい」


 私は吐き捨てるように言って、まぁ照れ隠しの成分多めだけど、テーブルに置いてあったメニュー表を瑠夏にも見えるように開く。モダンな字体と色鉛筆で描かれた絵心溢れる料理のイラストに心馳せながら口の中を甘くするものと口の中を潤す物を選んでいく。


 いいのがあった。


「私は……これかな、アイス珈琲とナッツ入りのはちみつレアチーズケーキ」


「わお、甘くて酸っぱそう。青春の味だね」


 青い瞳をウインクさせて私の調子を乱そうとしてくる瑠夏。


「……よくわかんないけど。瑠夏は?」


「私はね〜メロンソーダとブリュレとカラメルソースを合わせたいちごパフェ。さぁ、これ、何の味?」


 文学的な問題を出してくる瑠夏。私は特にひねりもせず容赦無く言う。


「子供の味」


「ふふ、多分それ正解」


 目を綺麗な線にして笑う瑠夏。


 私たちはなんともくだらないやり取りをした後にマスターに注文。飲み物とデザートがテーブルに届くまでの間、私は瑠夏に気になっていたことをようやく伝える。


「ねぇ瑠夏、今日はお茶会して終わりって訳じゃないよね?」


「……もちろん。ちゃんと期待してる」


 瑠夏は顔を赤らめて、アピールするようにワンピースの第一ボタンをさりげなく外してみせる。首元から見える肌の面積が多少なり広くなった。私の心臓が高鳴る。


「いや、あのさ、この距離感でどういく?」


 私が訊くと瑠夏は虚をつかれた顔をして目が点になっていた。戦争映画だったら敵の奇襲に唖然とする女将校のとして使えそうなくらい。


「あれ、どうやら私、やらかした?」


「うん。ここから隣同士になるの、結構不自然」


 見渡せば、カウンターのマスターはもちろんのこと、満席とは言わないけれど土曜ともあって人は結構いる。


「だよね。どうしよ」


 いっそ今日はこのままお茶でもして帰っちゃう?——という風にはならない。私たちは友達でも恋人でもない、触れフレなのだから必ずこうして会えば、己が欲望のままに触れ合わなければ気が済まない。


 今やるべきことは違和感無く隣同士になる方法を考えること。けど、私には一個だけ試してみたいことがあった。


 きっと瑠夏の方から見たら机の下で何かを蠢かせて、ゴソゴソしている風に見えたと思う。何をしているのかというと、左足で右足のスニーカーを脱いでいた。


 右膝の角度を90度から徐々に45度へと曲げて、靴下を被った私の右足は吊り上がり、私は足先に力を込めていく。足の指の先に神経を研ぎ澄ませて、瑠夏のふくらはぎを掠めると瑠夏は「ひゃっ」っと小動物の鳴き声みたいな声を上げた。


 指先から伝わるバドミントンで鍛え上げられた締まったふくらはぎ。親指で押してみるとその硬さに感心する。でも、私が欲しいのはそんな瑠夏のスポーティな面じゃない。もっと、そう……むき出しな瑠夏が見たい。


 下流から上流へ昇るように足先を這わせて、太ももの裏側に到達した時、瑠夏の股は船を通す運河のように開門。段々と両足を開いていく。机の上の瑠夏は下唇を上唇で噛んで、頬に手をついて、わざとらしく私から目を逸らしていた。


 “もっとやって”の顔だ。


「瑠夏」


 つい名前を呼びたくなった。悪戯心だ。


「なに……?」


「もっと上?」


「……」


 瑠夏は物欲しそうな目でこくりと頷く。


 仰せのままに、私は机の下に下半部をもう少し潜らせて、足のリーチを伸ばす。机が水面だとしたら私はギリギリ胸元から上だけが浮上している状態。机下への潜水のお陰で足先はもっと瑠夏の際どいところ、太ももとお尻の境目くらいまで到達し、柔らかい肉の感触に私は火照っていく。


 足先を今度は手前に這わせて、瑠夏の下半身のもっと際どいところ、コリコリする股関節のところに触れてみると、これには瑠夏も声が漏れる。


「ん……」


 肌から浮かび上がった骨の山脈に沿って、交互に何度も。指先が下着のラインに触れると瑠夏はまばたきをした。それも点滅する灯りのように素早く。「え、そこも?」と訊きたそうな目で訴える瑠夏。


 私は動かすのをやめない。

 瑠夏の色情に比例して股がもっと、花咲くように開いていく。


「や……華ぁ……」


 いっそ、このまま瑠夏の細部にまで触れてしまおうかと思ったけど、そうすれば私は負けてしまう。ここは堪えて、私は足先を瑠夏の恥部から離した。


 瑠夏も私の攻めが終わったことを察したようで、ふぅと一息ついた後に、紅潮しながら吐息混じりの声で言う。


「じゃあ……今度は私の番」

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