第12章:節分祭の思い出

 2月3日、瑠璃と葵は櫛田神社の節分祭に参加することにした。朝から二人で豆を炒り、小さな袋に分けて準備をする。


「ねえ葵、節分って札幌にいた頃はあまり気にしてなかったわね」瑠璃が豆を袋に入れながら言った。


「そうだね。でも、ここ博多では大きな行事なんだよ」葵が答えた。「特に櫛田神社の節分祭は有名なんだ」


 二人は準備を整えると、暖かい服装に身を包んで家を出た。櫛田神社に近づくにつれ、祭りの賑わいが聞こえてくる。


 神社に到着すると、そこには大勢の人々が集まっていた。子供たちは鬼の面をつけて走り回り、大人たちは豆を投げる準備をしている。


「わあ、すごい賑わいね」瑠璃が目を輝かせた。


 豆まきが始まると、瑠璃と葵も熱心に参加した。「鬼は外! 福は内!」と大きな声で唱えながら、豆を投げる。


 周りの子供たちが一生懸命に豆を拾う姿を見て、瑠璃はふと立ち止まった。


「ねえ葵」瑠璃が静かに言った。「私たちも、いつかこんな風に子供と一緒に節分を楽しめたらいいわね」


 葵は優しく瑠璃の肩に手を置いた。「うん、きっとその日が来るよ……大丈夫……」


 二人は見つめ合い、未来への希望を確かめ合った。


 祭りが終わりに近づく頃、瑠璃と葵は神社の境内でゆっくりと歩いていた。


「ねえ葵、私たちがここ博多に来てから、もう一年近くになるのね」瑠璃がしみじみと言った。


「そうだね。あっという間だったけど、たくさんの思い出ができたよ」葵も懐かしそうに答えた。


 二人は黙ってしばらく、これまでの博多での日々を振り返った。祭りや行事への参加、新しい友人との出会い、そして何より二人の絆が深まっていったこと。全てが鮮明に蘇ってくる。


「札幌を離れる時は不安だったけど」瑠璃が言葉を続けた。「今は本当に博多が私たちの家になったって感じるわ」


「うん、僕もそう思う」葵は瑠璃の手を握った。「ここで新しい人生を始められて、本当に良かった」


 家に戻ると、二人で小さな節分パーティーを開くことにした。恵方巻きを一緒に作り、節分にちなんだ料理を楽しむ。


 食事の後、瑠璃と葵は再び豆まきをした。「福は内! 鬼は外!」と声を合わせながら、二人の幸せを願う。


 夜も更けてきた頃、二人はソファーに寄り添って座っていた。


 二人は静かにキスを交わし、互いの温もりを感じながら、新しい生活の中で培った絆と、未来への希望を噛みしめた。窓の外では、冬の夜空に星々が輝いていた。瑠璃と葵の新しい章が、また一歩前に進もうとしていた。



 翌朝、瑠璃と葵は遅めの朝食を取りながら、昨日の節分祭を振り返っていた。窓の外では、冬の柔らかな日差しが博多の街を照らしていた。


「ねえ葵、昨日の節分祭、本当に楽しかったわね」瑠璃が温かい味噌汁を啜りながら言った。


「うん、博多の伝統行事に参加できて、僕たちもこの街の一員になれた気がするよ」葵も嬉しそうに答えた。


 二人は黙ってしばらく、昨日の思い出に浸っていた。そして、ふと瑠璃が言った。


「私たちが学生の頃の節分って、どんな風だったかしら」


 葵は少し考え込んでから答えた。「そうだなぁ。確か、コンビニで恵方巻きを買って、二人でこたつで食べたくらいだったかな」


「そうだったわね」瑠璃は懐かしそうに微笑んだ。「あの頃は、こんな賑やかな節分祭を経験するなんて想像もしなかったわ」


 二人は黙ってしばらく、札幌での思い出を反芻していた。学生時代の慌ただしい日々、初めて二人で暮らし始めた時の戸惑い、そして博多への引っ越しを決意した時の不安と期待。それらの記憶が、まるで昨日のことのように鮮明に蘇ってくる。


「でも」葵が静かに言葉を継いだ。「あの頃に比べて、今の僕たちはもっと成長したよね」


 瑠璃は頷きながら、葵の手を握った。「そうね。私たち、ここ博多で本当に多くのことを学んだわ」


 二人は改めて、博多での生活がいかに彼らを変え、成長させているかを実感した。札幌での思い出は大切だが、今の博多での日々もかけがえのないものになっている。


 二人は互いに寄り添いながら、窓の外の博多の街並みを眺めた。過去への懐かしさと、未来への期待が入り混じる複雑な感情の中で、瑠璃と葵の絆はさらに深まっていった。


 そして、これからの日々への希望を胸に、二人は新たな一日を迎える準備を始めた。博多での生活は、まだまだ多くの可能性を秘めている。これからどんな素晴らしい経験が待っているのか、二人は想像を膨らませながら、互いの手をしっかりと握り締めた。


「葵、これからもずっと一緒よね」瑠璃がささやくように言った。


「もちろんさ」葵は瑠璃を優しく抱きしめた。「僕たちの物語は、まだ始まったばかりだからね」


 窓の外では、新しい一日が始まろうとしていた。瑠璃と葵は、これからもこの街で多くの思い出を作っていくのだろうと、胸を躍らせた。そして、新たな挑戦への決意を胸に、二人は優しくキスを交わした。


 博多での生活は、彼らにとってまだまだ続く長い旅路の一部に過ぎない。しかし、互いの愛と信頼があれば、どんな困難も乗り越えられると信じて。瑠璃と葵の新たな章は、これからも美しく紡がれていくことだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る