第9章:紅葉と温泉
11月初旬、瑠璃と葵は太宰府への紅葉狩りを計画した。朝早くから準備を整え、二人は期待に胸を膨らませながら車に乗り込んだ。
「ねえ葵、太宰府って学問の神様がいるんだって」瑠璃が運転する葵に話しかけた。
「そうだね。菅原道真公を祀っているんだ。受験生にも人気なんだよ」葵が答えた。
車窓から見える景色が少しずつ色づいていく様子に、二人は感嘆の声を上げた。
太宰府に到着すると、二人は手を繋いで参道を歩き始めた。色とりどりに染まった木々を眺めながら、瑠璃と葵は自分たちの関係も深まっていることを実感していた。
「葵、私たちも紅葉みたいに、少しずつ色濃くなっているのかもしれないわね」瑠璃がふと呟いた。
葵は優しく微笑み、瑠璃の手をぎゅっと握り締めた。「そうだね。でも僕たちの色は、これからもっと深みを増していくと思うよ」
二人は参拝を済ませた後、近くの茶店で名物の梅ヶ枝餅を楽しんだ。温かい餅を頬張りながら、札幌時代の思い出話に花を咲かせる。
「覚えてる? 札幌の円山公園で紅葉を見た時のこと」瑠璃が懐かしそうに言った。
「ああ、あの時は寒くて、二人で一つのマフラーを巻いたんだよね」葵も笑顔で答えた。
思い出に浸りながら、二人は改めて今の幸せを噛みしめていた。
夕方、帰り道に立ち寄った温泉で、瑠璃は思いがけない再会を果たした。
「瑠璃ちゃん? まさか!」
声の主は、学生時代の友人・美咲だった。
「美咲! どうしてここに?」瑠璃は驚きと喜びで声を上げた。
温泉の湯気が立ち込める中、瑠璃、葵、そして瑠璃の旧友・美咲の三人は、ゆったりと湯船に浸かっていた。肌に心地よく触れる温かな湯と、懐かしい再会の喜びが、三人の心をほぐしていく。
「まさか、ここで瑠璃ちゃんに会えるなんて!」美咲が嬉しそうに声を上げた。「博多での生活は楽しい?」
瑠璃は穏やかな笑みを浮かべながら答えた。「うん、とても充実しているわ。最初は不安もあったけど、今では本当にこの街が好きになったの」
葵も頷きながら加わった。「博多の人々はみんな温かくて、僕たちを受け入れてくれたんです。祭りや伝統行事にも参加させてもらって、本当に楽しいですよ」
美咲は二人の話に聞き入りながら、瑠璃の表情を観察していた。札幌にいた頃の瑠璃とは何か違う、自信に満ちた輝きを感じ取っていた。
「ねえ、覚えてる?」瑠璃が懐かしそうに言い出した。「私たちが大学で初めて出会った時のこと」
美咲は声を上げて笑った。「もちろん! 瑠璃ちゃん、あの時はすごく内気で、話しかけるのに勇気が必要だったわ」
葵は興味深そうに二人の会話を聞いていた。「へえ、瑠璃がそんな風だったなんて想像できないな」
瑠璃は少し照れくさそうに微笑んだ。「そうなの。でも、美咲が私に話しかけてくれたおかげで、少しずつ殻を破ることができたのよ」
美咲は瑠璃の肩を優しく叩いた。「瑠璃ちゃんの中に秘められた才能を、私はずっと信じていたわ。それが今、こうして花開いているのを見られて本当に嬉しい」
三人は学生時代の思い出話に花を咲かせ、時には大笑いしながら、時には懐かしさに浸りながら、時間を過ごしていった。
湯船から上がった瑠璃、葵、美咲の三人は、洗い場に腰を下ろした。湯気の立ち込める中、懐かしい話に花を咲かせながら、お互いの体を洗い合うことにした。
「ねえ、瑠璃ちゃん。背中を流してあげるわ」美咲が優しく言った。
瑠璃は微笑みながら背中を向けた。
「ありがとう、美咲。久しぶりね」
美咲は泡立てたタオルで、瑠璃の背中をやさしく撫でるように洗い始めた。その仕草に、学生時代に一緒に銭湯に行った思い出が蘇る。
「瑠璃ちゃん、けっこう肩凝ってるわよ。博多での生活、忙しいの?」
美咲が心配そうに尋ねた。
瑠璃は少し照れくさそうに答えた。
「うん、でも充実してるの。地域の活動にも参加して、毎日があっという間よ」
葵は二人の会話を聞きながら、瑠璃の腕を優しく洗っていた。
「瑠璃は本当に頑張り屋さんなんです。僕も見習わないと」
三人は笑い合い、和やかな雰囲気に包まれる。
次は葵の番となった。瑠璃が葵の背中を洗い始める。
「葵、最近筋肉ついたわね。山笠の練習の成果?」
葵はくすぐったそうに笑いながら答えた。
「そうなんだ。毎日の練習で体が変わってきたみたい」
美咲は感心した様子で葵の腕を洗いながら言った。
「すごいわね。女性として初めて山笠を担ぐなんて。瑠璃ちゃん、素敵な人を見つけたのね」
瑠璃は嬉しそうに頷いた。
「うん、葵は本当に勇気があるの。私も彼女から学ぶことが多いわ」
最後に美咲の番となり、瑠璃と葵が協力して彼女の体を洗った。
「美咲、相変わらずスベスベの肌ね」
瑠璃が感心しながら言った。
美咲は照れくさそうに笑った。
「瑠璃ちゃんこそ、昔より肌艶良くなったわよ。幸せの効果かしら?」
三人は再び笑い声を上げた。体を洗い合いながら、彼女たちの絆はさらに深まっていった。学生時代の思い出、博多での新生活、そして未来への希望。様々な話題が飛び交う中、彼女たちは心も体も清らかになっていくのを感じていた。
洗い終わった後、三人は再び湯船に浸かった。心地よい疲労感と温かな湯に包まれながら、彼女たちは静かに目を閉じた。この瞬間、過去と現在、そして未来がひとつにつながっているような不思議な感覚に包まれていた。
しばらくして、美咲が瑠璃の目をじっと見つめて言った。「瑠璃ちゃん、本当に幸せそうで良かった。葵さんと一緒に、新しい人生を歩み始めたんだね」
瑠璃は思わず目頭が熱くなった。「ありがとう、美咲」
葵は瑠璃の手を優しく握り、「僕も瑠璃と出会えて、本当に幸せです。これからも大切にしていきます」と真摯な眼差しで言った。
美咲はその様子を見て、心から安心したように微笑んだ。「二人とも、これからも幸せでいてね。そして、たまにはこっちにも遊びに来てよ。みんなで再会できるのを楽しみにしているわ」
瑠璃と葵は頷き、「必ず行くわ」と約束した。
湯船に浸かりながら、三人は過去と現在、そして未来をつなぐ絆の大切さを改めて感じていた。瑠璃は、自分がいかに成長し、幸せになったかを実感すると同時に、それを喜んでくれる友人がいることの幸せも噛みしめていた。
温泉の湯気が立ち上る中、三人の笑い声が響き、新たな思い出が刻まれていった。この偶然の再会は、瑠璃と葵にとって、博多での新生活の素晴らしさを再確認する機会となり、同時に過去とのつながりの大切さを思い出させる、かけがえのない時間となったのだった。
温泉から上がった後、三人は別れを惜しみながら再会を約束した。車に乗り込んだ瑠璃と葵は、しばらく無言で夜道を走った。
「ねえ葵」瑠璃が静かに言った。「私たち、本当に幸せよね」
「うん、間違いないよ」葵は優しく微笑んだ。
家に戻ると、二人は静かに見つめ合い、そっと唇を重ねた。その口づけには、過去への感謝と未来への期待が込められていた。
窓の外では、秋の夜風が葉を揺らしていた。瑠璃と葵は、これからも多くの思い出を作っていくのだろうと、胸を躍らせながら眠りについた。
翌朝、瑠璃と葵は遅めの朝食を取りながら、昨日の出来事を振り返っていた。窓からは柔らかな秋の日差しが差し込み、二人の表情を優しく照らしていた。
「ねえ葵、昨日の紅葉、本当に綺麗だったわね」瑠璃が懐かしむように言った。
「うん、太宰府の雰囲気も素敵だったね」葵も同意した。
二人は黙ってしばらく、昨日の思い出に浸っていた。そして、ふと瑠璃が言った。
「美咲に会えて、本当に嬉しかったわ」
葵は優しく微笑んだ。「うん、瑠璃が喜んでいる姿を見て、僕も嬉しかったよ」
瑠璃は葵の言葉に、感謝の気持ちでいっぱいになった。
「でも」葵が静かに言葉を継いだ。「あの頃に比べて、今の僕たちはもっと強くなっているよね」
瑠璃は頷きながら、葵の手を握った。「そうね。私たち、ここ博多で本当に成長したわ」
二人は改めて、博多での生活がいかに彼らを変え、成長させているかを実感した。札幌での思い出は大切だが、今の博多での日々もかけがえのないものになっている。
「ねえ葵、これからどんな未来が待っているのかしら」瑠璃が目を輝かせて言った。
「さあ、どんなことが起こるかわからないけど」葵は優しく微笑んだ。「一緒なら、どんな未来だって乗り越えられるよ」
二人は互いに寄り添いながら、窓の外の博多の街並みを眺めた。過去への懐かしさと、未来への期待が入り混じる複雑な感情の中で、瑠璃と葵の絆はさらに深まっていった。
そして、これからの日々への希望を胸に、二人は新たな一日を迎える準備を始めた。博多での生活は、まだまだ多くの可能性を秘めている。これからどんな素晴らしい経験が待っているのか、二人は想像を膨らませながら、互いの手をしっかりと握り締めた。
窓の外では、秋の風が街路樹の葉を優しく揺らしていた。瑠璃と葵は、これからもこの街で多くの思い出を作っていくのだろうと、胸を躍らせた。そして、新たな一日への期待を胸に、二人は優しくキスを交わした。
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