第6章:屋台探検
博多の夏は、昼の暑さとは打って変わって、夜は心地よい風が吹き抜ける。瑠璃と葵は、この夜の心地よさを楽しむため、中洲の屋台街へと足を運んだ。
「ねえ葵、屋台って札幌にもあったけど、ここの雰囲気は全然違うわね」瑠璃が興奮気味に言った。
「そうだね。博多の屋台は歴史も深いし、独特の文化があるんだよ」葵が答えた。
二人は最初に、ごまさばの屋台に立ち寄った。カウンター席に座ると、屋台主人が親しげに話しかけてきた。
「お二人さん、博多弁はわかると?」
瑠璃と葵は首を横に振った。
「なーんね、じゃあワシが博多弁ば教えちゃろう」主人は笑いながら言った。
ごまさばを味わいながら、二人は博多弁の講座を受けることになった。「うまかろうもん」「な~んしよるとね」など、耳慣れない言葉に戸惑いながらも、二人は楽しそうに復唱していた。
次に訪れたもつ鍋の屋台では、博多の歴史話に耳を傾けた。
「博多祇園山笠は知っとっちゃろ?」屋台主人が尋ねた。
「はい、先日参加させていただきました」葵が答えた。
「おお、そうね! それはよかったばい! 山笠の歴史は700年以上もあるとよ」
主人の話に聞き入りながら、二人は博多の深い歴史を改めて実感した。
最後に訪れた屋台で、瑠璃は偶然同僚と出会った。
「瑠璃さん! こんなところで会うなんて」
同僚を交えての会話は、さらに博多の魅力を深く知る機会となった。地元の人ならではの穴場スポットや、季節のイベントについて教えてもらう。
屋台を後にする頃には、すっかり夜も更けていた。帰り道、瑠璃と葵は今夜の発見について語り合った。
「葵、博多ってまだまだ知らないことだらけね」
「うん、だからこそ毎日が新鮮で楽しいんだ」
その時、近くの屋台から、幼い女の子の笑い声が聞こえてきた。
瑠璃はその光景を見て、小さく溜息をついた。
「子ども……いいね……」
「そうだね……可愛いね……」
葵は瑠璃の気持ちを察してそっと手を握った。
二人は黙ったまましばらく歩いた。その沈黙の中に、言葉にならない思いが詰まっていた。
自宅に戻ると、瑠璃と葵は静かに見つめ合い、そっと唇を重ねた。その優しいキスには、今夜の思い出と、語られなかった将来への願いが込められていた。
翌朝、瑠璃と葵は遅めの朝食を取りながら、昨夜の屋台巡りを振り返っていた。窓から差し込む朝日が、二人の顔を優しく照らしていた。
「ねえ葵、昨日の屋台、本当に楽しかったわね」瑠璃が微笑みながら言った。
「うん、博多の夜の魅力を存分に味わえたよ」葵も同意した。
二人は黙ってしばらく、昨夜の思い出に浸っていた。そして、ふと葵が思い出したように言った。
「そういえば、学生時代もよく屋台に行ったよね」
「そうね」瑠璃は懐かしそうに目を細めた。「でも、あの頃とは随分違う気がするわ」
二人は学生時代を思い出し始めた。お金がなくて屋台のラーメン一杯を分け合って食べたこと。卒業間際、将来の不安を語り合いながら屋台のおでんを食べたこと。それらの記憶が、まるで昨日のことのように鮮明に蘇ってくる。
「あの頃は、将来のことなんて全然見えなかったね」葵がしみじみと言った。
「そうね。でも、今はこうして博多で一緒に暮らしているのよ」瑠璃は葵の手を優しく握った。
二人は改めて、時の流れと自分たちの成長を実感した。札幌での思い出は大切だが、今の博多での日々もかけがえのないものになっている。
「ねえ葵」瑠璃が少し躊躇いがちに切り出した。「昨日、子供の話で……」
葵は優しく瑠璃を見つめた。「うん、気になっていたんだ」
「私たちも、いつかは……」瑠璃の言葉が途切れる。
「家族を持つこと?」葵が言葉を継いだ。「僕もそう思っているよ」
二人は互いの目を見つめ合い、そこに未来への希望を見出した。
「でも、まずは二人の絆をもっと深めていこう」葵が優しく言った。
「うん、そうね」瑠璃は安心したように微笑んだ。
二人は互いに寄り添いながら、窓の外の博多の街並みを眺めた。過去への懐かしさと、未来への期待が入り混じる複雑な感情の中で、瑠璃と葵の絆はさらに深まっていった。
そして、これからの日々への希望を胸に、二人は新たな一日を迎える準備を始めた。博多での生活は、まだまだ多くの可能性を秘めている。これからどんな素晴らしい経験が待っているのか、二人は想像を膨らませながら、互いの手をしっかりと握り締めた。
窓の外では、新しい一日が始まろうとしていた。瑠璃と葵は、これからもこの街で多くの思い出を作っていくのだろうと、胸を躍らせた。そして、新たな挑戦への決意を胸に、二人は優しくキスを交わした。
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