博多へ……
第1章:博多の桜
春風が優しく頬を撫でる3月下旬、瑠璃と葵は新居の近くにある舞鶴公園へと足を運んだ。仕事の都合で博多に引っ越してきたばかりの二人の胸には、新生活への期待と不安が入り混じっていた。
公園に一歩足を踏み入れると、満開の桜が二人を出迎えた。淡いピンク色の花びらが舞い散る光景に、瑠璃は思わず息を呑んだ。
「葵、見て! 本当に綺麗……」
葵も同じように感動した表情で頷いた。「うん、こんなに見事な桜は初めて見たよ」
二人は手を繋ぎ、ゆっくりと桜並木を歩き始めた。周りには家族連れや友人グループが楽しそうに花見を楽しんでいる。その光景を見ながら、瑠璃は少し寂しげな表情を浮かべた。
「ねえ葵、私たち、ここで新しい友達ができるかな?」
葵は瑠璃の手をぎゅっと握り返した。「大丈夫だよ。きっとできるさ。それに、私たちには私たちがいるじゃない」
その言葉に、瑠璃は少し安心したように微笑んだ。
しばらく歩いていると、ベンチに腰掛けている老夫婦が目に入った。二人が近づくと、老夫婦は優しく微笑みかけてきた。
「あら、お二人さん。お花見かね?」老婦人が声をかけてきた。
瑠璃と葵は丁寧に挨拶をし、老夫婦との会話が始まった。老夫婦は親切にも、舞鶴公園が福岡城跡であることや、近くの光雲神社の歴史について詳しく教えてくれた。
「ここはね、昔は福岡藩の中心地だったんだよ。今でこそ公園になっているけど、400年以上の歴史があるんだ」老人が目を輝かせながら語る。
瑠璃と葵は熱心に耳を傾けた。博多の深い歴史と文化に触れ、二人の心は少しずつこの街に馴染んでいくのを感じた。
会話が弾む中、老夫婦は二人が最近引っ越してきたことを知ると、さらに温かく接してくれた。
「博多の人はみんな親切だからね。困ったことがあったら、遠慮なく声をかけなさい」老婦人が優しく言った。
その言葉に、瑠璃と葵は心強さを覚えた。博多の人々の温かさに触れ、新生活への不安が少しずつ和らいでいくのを感じる。
別れ際、老夫婦は手作りの桜餅を二人に渡してくれた。その優しさに触れ、瑠璃と葵は互いに目を見合わせ、幸せそうに微笑んだ。
桜の下を歩きながら、二人は新生活への期待を語り合った。
「ねえ葵、私たち、きっとここでうまくやっていけると思う」瑠璃が希望に満ちた声で言った。
「うん、そうだね。一緒に頑張ろう」葵も同意し、瑠璃の手をぎゅっと握り締めた。
博多の歴史と文化、そして人々の温かさに触れ、二人はこの街で共に成長していく決意を新たにした。桜の花びらが二人の周りを舞い、新たな章の幕開けを祝福しているかのようだった。
夕暮れ時、帰り道で二人は立ち止まった。周りに人気がないのを確認すると、葵がそっと瑠璃に近づいた。
「瑠璃、ありがとう。一緒に来てくれて」
瑠璃は頬を赤らめながら答えた。「葵と一緒だったら私、どこにだって行くよ。私こそ、ありがとう」
そして、二人はゆっくりと顔を近づけ、優しくキスを交わした。桜の香りが漂う中、その瞬間は永遠に続くかのように感じられた。
新しい街での生活が、きっと素晴らしいものになるという確信を胸に、瑠璃と葵は手を繋いで家路についた。
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