第6章:「定山渓温泉」

 8月中旬、猛暑が続く札幌。葵と瑠璃は暑さを避けて、定山渓温泉への日帰り旅行を計画した。バスに揺られること約1時間、緑深い山々に囲まれた温泉街に到着した。


「空気が違うね」葵が深呼吸をしながら言った。


「本当ね。もう少し涼しく感じるわ」瑠璃も同意する。


 二人は早速、日帰り入浴ができる温泉施設に向かった。浴衣に着替え、露天風呂に浸かると、疲れが癒されていくのを感じる。


「気持ちいい……」瑠璃がため息をつく。


 夕暮れ時、星空が少しずつ姿を現し始めた。湯船に浸かりながら、二人はこれまでの札幌での生活を振り返る。


「もう4ヶ月も経ったんだね」葵がつぶやく。


「早いわね。でも、少しずつ札幌の生活に慣れてきた気がするわ」


 湯けむりが立ち込める露天風呂で、葵と瑠璃は互いの姿を見つめ合っていた。湯船に浸かる二人の間には、ほんの少しの距離があるだけだった。


 葵の視線は、湯気に浮かび上がる瑠璃の姿に釘付けになっていた。湯の熱で上気した瑠璃の肌は、淡い桃色に染まり、艶やかに輝いていた。水滴が彼女の首筋をゆっくりと伝い落ち、鎖骨の窪みに溜まっていく。その様子に、葵は思わず喉元を鳴らした。瑠璃の濡れた黒髪が、彼女の肩から胸元にかけて優雅に垂れ下がり、その先端が湯面に触れている。湯船から出た肌は、寒気に反応して小さな粒立ちを見せ、それがさらに瑠璃の魅力を引き立てていた。


 葵は瑠璃の姿に見とれながら、自分の心臓の鼓動が早くなっているのを感じた。普段から瑠璃の美しさには気づいていたが、こうして露天風呂という特別な空間で見る彼女の姿は、まるで絵画のような美しさだった。


 一方、瑠璃も葵の姿に目を奪われていた。葵の体は、女性らしい柔らかな曲線を保ちながらも、適度に引き締まっていた。肩から背中にかけてのラインは美しく、腕の筋肉はしなやかで力強さを感じさせた。湯に濡れた肌は、まるで磨き上げられた大理石のようになめらかで輝いていた。葵の胸元から腹部にかけての優美な曲線は、瑠璃の目を惹きつけて離さない。


 瑠璃は葵の姿を見つめながら、彼女のプロポーションの素晴らしさを改めて実感した。日々の生活の中では気づかなかった葵の魅力が、この瞬間にはっきりと浮かび上がっていた。


 二人は互いの姿を見つめ合い、言葉を交わすことなく、その美しさに見入っていた。湯けむりの中で、二人の視線が絡み合う。そこには欲望だけでなく、深い愛情と尊敬の念が込められていた。


 葵は瑠璃の優雅さと儚さに心を奪われ、瑠璃は葵の力強さと優しさに魅了されていた。二人とも、自分のパートナーがこれほどまでに魅力的な存在であることを、この瞬間に改めて気づいたのだった。


「相変わらず綺麗だね、瑠璃」葵が優しくつぶやく。


「葵こそ、素敵よ」瑠璃も頬を赤らめながら返す。


 そんな会話をしていると、隣の湯船から声がかかった。


「あら、お二人は札幌に引っ越してきたの?」


 常連客らしき年配の女性だった。二人は微笑んで頷いた。


「そうなんです。4月に引っ越してきたばかりで」葵が答えた。


「まあ、それは大変でしょう。でも、定山渓に来るくらいだから、もう札幌通になりつつあるのね」女性が優しく微笑んだ。


 会話が弾み、女性は二人に札幌近郊の観光スポットを次々と教えてくれた。


「紅葉の時期には、ここ定山渓がとても美しいのよ。ぜひまた来てみてね」


 湯上がり後、葵と瑠璃は浴衣姿で温泉街を散策することにした。提灯の優しい明かりに照らされた石畳を、二人並んで歩く。


「なんだか、旅行に来た気分だね」葵が言った。


「そうね。日常から少し離れた感じがするわ」瑠璃も同意する。


 歩いているうちに、二人の距離が自然と縮まっていく。肩が触れ合うほどの近さで歩きながら、二人は温泉街の雰囲気を楽しんだ。


 土産物屋で立ち止まり、お土産を選んでいると、店主が声をかけてきた。


「お二人さん、仲良さそうでいいねぇ。これ、サービスだよ」


 と言って、二つの小さな温泉饅頭を手渡してくれた。


「ありがとうございます」二人で声を揃えてお礼を言う。


 帰りのバスの中、瑠璃は葵の肩に寄りかかっていた。


「楽しかったね」葵がつぶやく。


「うん、また来たいわ」瑠璃が小さく答えた。


 二人は他の乗客に気づかれないよう、そっと手を重ね合わせた。その温もりが、二人の心をさらに近づけているようだった。バスが札幌市内に近づくにつれ、二人の心には穏やかな幸福感が広がっていた。この小さな旅行が、二人の絆をさらに深めたように感じられた。

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