第3章:「ライラックまつり」

 5月下旬、札幌は初夏の陽気に包まれていた。葵と瑠璃は、大通公園で開催されているライラックまつりに足を運んだ。公園一帯に咲き誇るライラックの花々が、甘い香りを漂わせている。


「わぁ、綺麗」瑠璃が目を輝かせながら、紫や白のライラックの花を見つめていた。


「本当だね。札幌の春は遅いけど、こんなに美しいんだね」葵も感嘆の声を上げる。


 二人は手をつないで公園を散策し、あちこちで写真を撮り合う。ライラックの花をバックに、笑顔の二人の姿が収められていく。紫や白、淡いピンクのライラックが、まるで春の妖精たちが集まったかのように咲き誇っていた。


「あら、お二人は新しく札幌に来られたんですか?」近くでボランティア活動をしていた中年の女性が、にこやかに声をかけてきた。


「はい、今年の4月に引っ越してきたんです」葵が答える。


「そうですか。では、ぜひ札幌の四季の魅力をお伝えしましょう」


 女性は、春のライラックから始まり、夏の涼しさ、秋の紅葉、冬の雪まつりまで、札幌の季節の移ろいについて詳しく教えてくれた。二人は熱心に耳を傾けながら、これから経験する四季への期待を膨らませていく。


「ライラックは札幌市の花なんですよ。毎年この季節を楽しみにしている人も多いんです」女性が笑顔で説明を続ける。


 話を聞きながら、瑠璃はふとライラックの小枝を手に取った。そっと葵の髪に挿してあげる。


「似合うわ、葵」瑠璃の目が優しく輝いた。


 葵は少し照れくさそうに微笑み、今度は自分が瑠璃の髪にライラックの花を飾った。二人は互いを見つめ合い、その姿に女性は温かい目を向けた。


 瑠璃の髪に挿されたライラックの花が、彼女の美しさをさらに引き立てている。葵はその姿に見とれ、心臓が高鳴るのを感じた。瑠璃も同じように、葵の優しい眼差しに胸が躍る感覚を覚えた。


「お二人で、札幌の四季を存分に楽しんでくださいね」


 女性に見送られ、葵と瑠璃はライラックの香りに包まれながら、これからの札幌での生活への希望を胸に歩み続けた。


「ねえ、葵」瑠璃が歩みを止めて言った。「私たち、これからもずっと一緒に札幌の四季を楽しめるかな」


 葵は瑠璃の手をそっと握り、優しく微笑んだ。「もちろんだよ。一緒に素敵な思い出をたくさん作ろう」


 二人は互いの目を見つめ合い、そっと唇を重ねた。ライラックの甘い香りが漂う中、葵と瑠璃の愛は、この札幌の地で確かに育っていくのだった。

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