札幌へ……
第1章:「札幌の桜」
春の柔らかな日差しが札幌の街を優しく包み込む4月上旬、葵と瑠璃は新しい生活の第一歩を踏み出した。仕事の都合で札幌に引っ越したのだ。荷物を運び込んだばかりのアパートは、まだ段ボールの山が残っている。二人は疲れた表情を浮かべながらも、新生活への期待に胸を膨らませていた。
「ねえ、葵」瑠璃が窓から外を覗きながら言った。「円山公園の桜、もう咲いているみたいよ」
葵は瑠璃の隣に立ち、優しく微笑んだ。「じゃあ、少し休憩がてら見に行こうか」
二人は手を取り合って公園へと向かった。円山公園に到着すると、そこには息を呑むほどの美しい光景が広がっていた。満開の桜の木々が、まるでピンク色の雲のように公園全体を覆い尽くしていた。春の柔らかな風が吹くたびに、桜の花びらが舞い散り、まるで淡いピンク色の雪が降っているかのようだった。
葵と瑠璃は、しばらくその美しい光景に見とれていた。やがて、二人は桜の木の下に腰を下ろし、新生活への不安と希望を語り合い始めた。
「札幌の生活、馴染めるかしら」瑠璃が少し不安そうに呟いた。
「大丈夫だよ。二人で乗り越えていこう」葵が瑠璃の手を優しく握りしめる。
そんな二人に、隣のベンチに座っていた老夫婦が声をかけてきた。
「おや、あなたたち新しく引っ越してきたの?」優しい笑顔の老婦人が尋ねる。
葵と瑠璃は頷き、老夫婦と会話を交わし始めた。老夫婦は、札幌での生活についての貴重なアドバイスを次々と教えてくれた。
「札幌はね、四季がはっきりしていて、それぞれの季節の美しさがあるんだよ」老人が穏やかな口調で語る。「春は今のような桜、夏は涼しくて過ごしやすい。秋は紅葉が見事で、冬は雪景色が素晴らしいんだ」
「そうそう」老婦人が続ける。「それに、札幌の人々はみんな親切で温かいのよ。困ったことがあったら、遠慮なく周りの人に聞いてみるといいわ」
葵と瑠璃は、老夫婦の優しい言葉に心が温まるのを感じた。
「二人仲良く、札幌を楽しんでね」老夫婦に見送られ、葵と瑠璃は桜の木の下で再び向き合った。
「ねえ、葵。これからも一緒に頑張ろうね」瑠璃が笑顔で言う。
「うん、約束だ」葵も笑顔で応じた。
二人の唇が一瞬だけそっと重なる。そして二人は手を繋いで歩き始めた。
桜の花びらが舞う中、新たな人生の一歩を踏み出す二人の姿は、春の陽光に輝いていた。その瞬間、二人の心には、これから始まる札幌での生活への希望が、桜の花のように美しく咲き誇っていた。
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