第12章:年越しそば
大晦日の夕方、葵と瑠璃のアパートには、そばを打つ音が響いていた。二人は今年、手打ちそばに挑戦することにしたのだ。
「粉と水を合わせるのって、難しいね」葵が額に汗を浮かべながら言った。
「コツがあるみたいよ。ゆっくり混ぜていくの」瑠璃が隣で教えながら、自分の生地も丁寧に練っている。
二人で協力しながら、そば粉を捏ね、延ばし、切っていく。初めての作業に戸惑いながらも、少しずつコツを掴んでいった。
「瑠璃、天ぷらの準備はどう?」葵が聞いた。
「うん、海老と野菜を用意したわ。揚げるのは後でね」
そばを茹でている間、瑠璃は天ぷらを揚げ始めた。葵は出汁を取り、薬味を刻んだ。二人の息がぴったり合い、効率よく作業が進んでいく。
夕食の準備が整う少し前、葵と瑠璃は向かい合って座った。
「瑠璃、今年一年、本当にありがとう」葵が静かに、しかし心を込めて言った。
瑠璃の目に涙が浮かんだ。「私こそ、葵。あなたがいてくれたから、こんなに幸せな一年を過ごせたわ」
二人は手を取り合い、しばらくそのままでいた。言葉以上に、その温もりが互いの気持ちを伝えていた。
やがて、出来上がった年越しそばを炬燵で頂くことにした。
「いただきます」と声を合わせ、二人は箸を取った。
「美味しい!」瑠璃が驚いたように言った。
「うん、思ったより上手くできたね」葵も満足げに頷いた。
食事を楽しみながら、二人は今年の出来事を振り返り、来年の抱負を語り合った。
食後、二人は近所の神社へ初詣に出かけた。参道には既に多くの人々が集まっていた。
「良い年になりますように」葵が静かに祈った。
「二人の絆が、さらに深まりますように」瑠璃も目を閉じて祈りを捧げた。
おみくじを引くと、葵は「小吉」、瑠璃は「中吉」だった。
「まあまあね」瑠璃が笑った。「でも、運は自分たちで切り開いていくものよ」
家に戻ると、二人は紅白歌合戦を見ながら、来年の旅行計画を立て始めた。
「温泉旅行、やっぱり行きたいな」葵が言った。
「うん、私も楽しみ。それと、春には桜の名所にも行ってみたいわ」
夜が更けていく中、二人は屋上に上がり、除夜の鐘を聞きながら初日の出を待つことにした。寒さに震えながらも、二人は寄り添って立っていた。
やがて、空が少しずつ明るくなり始めた。
「ねえ、葵」瑠璃がささやくように言った。「今年初めてのキスをしましょう」
葵は優しく微笑み、瑠璃を抱き寄せた。二人の唇が重なる瞬間、太陽が地平線から顔を覗かせた。
新しい年の始まりを告げる光の中、葵と瑠璃は互いの目を見つめ合った。
「明けましておめでとう、瑠璃」
「明けましておめでとう、葵」
二人は再びキスを交わし、強く抱き合った。新年の空気は、希望と愛に満ちていた。
朝日を背に、二人は手を繋いでアパートに戻った。新しい一年が、二人にどんな素敵な思い出をもたらすのか。その期待に胸を膨らませながら、葵と瑠璃の新たな日々が始まろうとしていた。
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