第11章:こたつでみかん
寒さが厳しくなってきた冬の夜。葵と瑠璃は、こたつに入りながらテレビを見ていた。テーブルの上には、たっぷりのみかんが盛られている。
「ねえ、葵」瑠璃が言った。「今年ももう終わりに近づいてきたわね」
葵はみかんの皮を剥きながら答えた。「そうだね。あっという間だったな」
テレビでは年末特番が放送されていた。二人は番組を見ながら、今年の出来事を振り返り始めた。
「春の花見から始まって、夏祭り、紅葉狩り、そして初雪……本当に充実した一年だったね」葵が懐かしそうに言った。
瑠璃は立ち上がり、本棚からアルバムを取り出した。「写真で振り返ってみましょう」
二人でアルバムをめくりながら、思い出話に花を咲かせる。春の桜の下で笑顔の二人、夏祭りで浴衣姿の写真、紅葉の中でのピクニックの様子……一枚一枚が、かけがえのない思い出を映し出していた。
「ねえ、葵」瑠璃が突然言った。「今年の漢字、何だと思う?」
葵は少し考え込んでから答えた。「うーん、『絆』かな。二人の絆が、さらに深まった一年だったと思うから」
瑠璃は嬉しそうに微笑んだ。「素敵な選択ね。私も同感よ」
葵は立ち上がり、書道セットを取り出した。「じゃあ、この漢字を書いてみようか」
葵が丁寧に『絆』の字を書き上げると、瑠璃がそれを額に入れた。「リビングに飾りましょう」
再びこたつに戻った二人は、来年の目標や抱負を語り合い始めた。
「僕は、もっと料理のレパートリーを増やしたいな」葵が言った。
「私は、水彩画にも挑戦してみたいわ」瑠璃が答えた。
互いの夢を聞きながら、二人は応援し合った。「きっと素敵な料理ができるわよ、葵」「瑠璃の絵、楽しみにしているよ」
夜が更けていく中、二人は窓の外を見た。静かに雪が降り始めていた。
「ねえ、少し外に出てみない?」瑠璃が提案した。
葵は頷き、二人で暖かい服を着て外に出た。街灯に照らされた雪が、静かに舞い降りている。
「綺麗だね」葵がつぶやいた。
「うん、まるで天から降る祝福みたい」瑠璃が応じた。
寒さで少し震えながらも、二人は手を繋いで雪を見上げていた。しばらくすると、葵が言った。「中に戻ろうか。ホットワインでも飲もう」
家に戻った二人は、ホットワインを作り、再びこたつに潜り込んだ。暖かい飲み物を飲みながら、二人は来年の旅行計画を立て始めた。
「温泉旅行はどうかな」葵が提案した。
「いいわね。温泉に浸かりながら星空を見上げるの、素敵そう」瑠璃が目を輝かせた。
夜も更けてきた頃、二人は眠くなってきた。しかし、こたつの心地よさに、なかなかベッドに移動する気にはなれない。
「ねえ、葵」瑠璃が甘えるような声で言った。「今夜はこのままここで寝てもいい?」
葵は優しく微笑んだ。「いいよ。二人で寄り添って眠ろう」
こたつの中で、二人は静かに抱き合った。葵が瑠璃の髪を優しく撫で、瑠璃は葵の胸に顔をうずめる。
こたつの温もりに包まれた二人の姿は、まるで冬の静寂に咲いた一輪の花のようだった。葵の指が瑠璃の髪を優しく撫でると、シルクのような感触が指先に伝わる。瑠璃の髪から漂う柔らかな香りは、春の花園を思わせるほど甘美だ。
瑠璃は葵の胸にさらに深く顔をうずめ、その鼓動に耳を傾ける。その音は、穏やかな波が岸辺を打つかのように規則正しく、心地よい。葵の体温が瑠璃の頬を暖め、まるで陽だまりに包まれているかのような安らぎを感じる。
葵は瑠璃の柔らかな吐息を感じながら、その小さな体を抱きしめる。瑠璃の存在が、冬の寒さを忘れさせるほどの温もりを与えてくれる。二人の呼吸が次第に同調し、まるで一つの生き物になったかのようだ。
静寂の中で、二人は言葉を交わさずとも心が通じ合っているのを感じる。それは、古代ギリシャの詩人サッポーが歌った、魂の深いところで結ばれた愛そのものだった。
この瞬間、こたつの中の小さな空間が、二人だけの宇宙となる。外の世界は遠く感じられ、ただ互いの存在だけが全てとなった。葵と瑠璃は、この静かな愛の中で、永遠を感じていた。
「おやすみ、瑠璃」葵がささやいた。
「おやすみ、葵」瑠璃が返した。
二人は優しいおやすみのキスをする。
静かな冬の夜、こたつの中で寄り添う二人の姿は、まるで絵画のように美しかった。窓の外では雪が静かに降り続け、新しい年への期待を静かに育んでいるかのようだった。
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