【冬】

第10章:初雪の朝

 冬の訪れを告げる12月のある朝、葵は不意に目を覚ました。部屋の中が普段よりも明るい。カーテンの隙間から漏れる光に違和感を覚え、葵はゆっくりとベッドから起き上がった。


「まさか……」


 葵はそっとカーテンを開けた。目の前に広がったのは、一面の銀世界だった。


「瑠璃、起きて!」葵は興奮した様子で瑠璃を起こした。「雪だよ、初雪!」


 瑠璃は目をこすりながらゆっくりと起き上がり、葵の隣に立った。


「わぁ……」瑠璃の目が輝いた。「本当に綺麗……」


 二人は窓辺に立ったまま、しばらく雪景色を眺めていた。降り積もった雪が朝日に輝き、まるでダイヤモンドのようにきらきらと光っている。


「朝食作ろう」葵が言った。「今日は特別な日になりそうだ」


 二人で協力して朝食の準備を始めた。葵がホットケーキを焼き、瑠璃が温かい紅茶を入れる。窓の外の雪景色を眺めながらの朝食は、いつもより少し贅沢に感じられた。


「ねえ、雪を見ながら散歩しない?」瑠璃が提案した。


「そうだね、行こう!」葵も即座に賛同した。


 二人は厚手のコートを着込み、マフラーと手袋も忘れずに身につけた。玄関を出ると、冷たい空気が頬をなでる。


「冷たっ!」瑠璃が小さく声を上げた。


「でも気持ちいいね」葵が微笑んだ。


 二人は手を繋ぎ、近所の公園へと向かった。道行く人々も皆、初雪に目を輝かせている。公園に着くと、既に子供たちが雪だるまを作り始めていた。


「私たちも作ろう!」瑠璃が提案した。


 葵と瑠璃も雪だるま作りに挑戦することにした。他の家族や子供たちと一緒になって、大きな雪だるまを完成させた。


「案外難しいね」葵が額の汗を拭いながら言った。


「でも楽しかったわ」瑠璃が笑顔で応じた。


 家に戻ると、二人とも冷え切っていた。


「お風呂にしよう」葵が提案した。


 温かい湯船に浸かりながら、二人は今日の出来事を振り返った。


「久しぶりに子供に戻ったみたいだったね」葵がくすくすと笑った。


「そうね。でも、大人だからこそ分かる雪の美しさもあるわ」瑠璃が言った。


 お風呂から上がると、葵は暖炉の前にブランケットを広げた。二人でホットココアを飲みながら、暖炉の炎を眺める。


 午後、瑠璃は雪景色のスケッチを始めた。葵はその様子を見守りながら、雪をテーマにした短歌を詠み始めた。


「初雪や 二人寄り添う 暖炉前」葵が詠んだ。


「素敵ね」瑠璃が顔を上げて微笑んだ。


 夕方、二人でベランダの雪かきをしながら、明日の天気予報を確認した。


「明日は晴れるみたいだね」葵が言った。


「そう。この雪景色も一時のものなのね」瑠璃が少し寂しそうに言った。


「でも、また降るさ。そしてその度に、僕たちで楽しめばいい」


 瑠璃は葵の言葉に頷いた。


 夜、二人は再び暖炉の前に座り、今度は熱燗を楽しむことにした。窓の外では、月明かりに照らされた雪がきらきらと光っている。


「今日という日を、一生忘れないよ」葵がつぶやいた。


「私も」瑠璃が応じた。「こうして二人で過ごせる日々が、何よりの宝物ね」


 二人はゆっくりとキスをする。


 二人は静かに寄り添い、暖炉の炎と窓の外の雪景色を眺めながら、穏やかな冬の夜を過ごしていった。

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