第9章:読書の秋
肌寒さを感じる日曜日の朝、葵と瑠璃は珍しく遅めの起床だった。窓の外では小雨が静かに降り続いている。
「今日はどうする?」葵が寝ぼけ眼でつぶやいた。
瑠璃は窓の外を見やりながら答えた。「こんな日は、家で読書でも楽しみましょう」
葵は嬉しそうに頷いた。「そうだね。読書の秋、って言うしね」
二人は朝食を済ませると、それぞれお気に入りの本を選び始めた。葵は最近気になっていた歴史小説を、瑠璃は古典詩集を手に取った。
「こたつ、出そうか」葵が提案した。
「いいわね。今年初めてのこたつ、楽しみ」
二人で協力してこたつを出し、居間にセットした。瑠璃がこたつ布団をかけ、葵がみかんを洗って皿に盛る。
準備が整うと、二人はこたつに入り、それぞれの本を開いた。静かな雨音をBGMに、二人は読書の世界に没頭していった。
時折、印象的な一節を見つけると、互いに読み聞かせをする。
「ねえ、この一節聞いて」瑠璃が詩集から目を上げた。「『秋の夕暮れ しみじみと 君を想う』」
葵は優しく微笑んだ。「素敵だね。まるで今の僕たちみたいだ」
昼食時、二人は簡単なスープとサンドイッチを作ることにした。
「読書の合間の軽い食事って、格別だよね」葵がサンドイッチを頬張りながら言った。
「そうね。体も心も温まるわ」瑠璃が応じる。
午後、瑠璃は持ってきた詩集から朗読を始めた。葵は目を閉じて、瑠璃の柔らかな声に耳を傾ける。
「瑠璃の声で聞くと、詩がより美しく感じられるよ」
瑠璃は少し照れくさそうに微笑んだ。
夕方近く、二人は近所の図書館に出かけることにした。
「気分転換も兼ねて、新しい本を借りてこようか」葵が提案した。
図書館では、二人で別々の棚を見て回り、時々「これ、面白そう」と声を掛け合う。結局、葵は推理小説を、瑠璃はアートに関する本を借りることにした。
帰宅後、二人は温かい飲み物を入れ、再びこたつに潜り込んだ。新しく借りてきた本を読み始める前に、葵が瑠璃に尋ねた。
「今日読んだ本の中で、一番印象に残ったのは?」
瑠璃は少し考え込んでから答えた。「私は、古典詩集の中の『もののあはれ』について書かれた部分ね。儚さの中に美しさを見出す日本人の感性って、素敵だと思うの」
葵も頷いた。「僕は歴史小説の中で、主人公が困難を乗り越えていく姿に感銘を受けたよ。人間の強さって、本当に素晴らしいと思う」
二人はお互いの感想を聞き合いながら、文学観を深め合った。夜が更けていく中、葵と瑠璃は明日からの読書計画を立て始めた。
「週末には、近くの古書店に行ってみない?」瑠璃が提案した。
「いいね。きっと素敵な本と出会えるはず」葵が嬉しそうに応じた。
就寝前、二人は今日読んだ本について語り合いながら、ゆっくりとベッドに横たわった。
「今日は特別な一日だったね」葵がつぶやいた。
「うん、こんな風に二人で過ごす時間って、かけがえのないものね」瑠璃が応じる。
二人はそっと触れるだけのキスをする。
二人は互いの温もりを感じながら、静かに目を閉じた。窓の外では雨がやみ、月明かりが部屋を優しく照らしていた。明日への期待と、今日の穏やかな思い出を胸に、葵と瑠璃は深い眠りについた。
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