第8章:栗拾いの思い出

 秋も深まりつつある日曜の朝、葵と瑠璃は早起きして車に乗り込んだ。今日の目的地は近郊の栗林だ。


「天気が良くてよかったね」葵がハンドルを握りながら言った。


「そうね。絶好の栗拾い日和よ」瑠璃は助手席で地図アプリを確認している。


 車窓から見える景色が、少しずつ都会的な雰囲気から田園風景へと変わっていく。瑠璃は窓を少し開け、秋の空気を楽しんでいた。


「ねえ葵、この歌知ってる?」瑠璃がラジオの音量を上げた。


「あ、懐かしい! 高校の文化祭で歌ったよね」


 二人は車内で秋の歌を口ずさみながら、楽しくドライブを続けた。


 栗林に到着すると、二人は準備してきた軍手と籠を手に取った。


「よーし、たくさん拾うぞ!」葵が意気込んだ。


「競争ね。負けないわよ」瑠璃が挑戦的な笑みを浮かべる。


 二人は別々の方向に歩き始めた。イガに包まれた栗を見つけては、慎重に拾い上げていく。時折、「いたた!」という声と共に笑い声が聞こえてきた。


 しばらくして、葵が瑠璃に声をかけた。「どう? 調子はいい?」


「まあまあよ。でも、イガが思ったより痛いわね」瑠璃が少し困ったように答える。


「ここで一休みしない?」葵が木陰を指さした。


 二人は持参したおにぎりを取り出し、木陰で昼食を取ることにした。


「ふうー、疲れたけど楽しいね」葵がおにぎりを頬張りながら言った。


「そうね。なんだか子供に戻ったみたい」瑠璃が微笑む。


 昼食後、再び栗拾いを再開した。午後の陽射しが栗林を黄金色に染め上げる中、二人は夢中で栗を拾い続けた。


 夕方近く、葵と瑠璃は満足げに籠を見つめていた。たっぷりの栗が収穫できたのだ。


「勝負はどうだった?」葵が尋ねた。


 瑠璃は自分の籠を見て、少し照れくさそうに答えた。「引き分けってことにしましょう」


 帰り道、車の中で二人は栗料理のアイデアを出し合った。


「栗ご飯はもちろんだけど、モンブランも作ってみたいな」瑠璃が言った。


「いいね。あと、栗きんとんはどう?」葵が提案する。


 家に着くと、二人で協力して栗の下処理を始めた。皮むきをしながら、今日の出来事を楽しく振り返る。


「ねえ葵、来年もまた来ようね」瑠璃が言った。


「うん、約束だ」葵は優しく微笑んだ。


 その夜の夕食は、さっそく簡単な栗ご飯を作ることにした。炊きあがった栗ご飯の香りが部屋中に広がる。


「いただきます」と声を揃えて、二人は今日の収穫を味わった。


 食後、葵と瑠璃は残りの栗の保存方法をインターネットで調べた。


「冷凍保存もできるみたいだね」葵が言う。


「そうね。そうすれば、冬でも栗料理が楽しめるわ」


 就寝前、二人はソファーに寄り添って座り、今後の栗料理の計画を立てていた。瑠璃がスマートフォンでレシピを探し、葵がそれをメモしていく。


「栗のスープも美味しそうだね」


「ケーキにも使えるわ。楽しみが増えたわね」


 やがて、瑠璃の頭が自然と葵の肩に寄りかかった。葵は静かに瑠璃を抱き寄せ、二人はそのまま穏やかな秋の夜の静けさに包まれていった。窓の外では、秋の風が優しく木々を揺らし、今日の楽しい思い出を歌っているかのようだった。

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