【秋】

第7章:紅葉狩りのピクニック

 秋晴れの土曜日、葵と瑠璃は早朝から準備に忙しかった。今日は近郊の公園へ紅葉狩りに出かける予定だ。


「お弁当、できたよ」葵がキッチンから声をかけた。


 瑠璃はクローゼットから薄手の羽織を取り出しながら答えた。「ありがとう。私も準備ができたわ」


 二人は手作りのお弁当と羽織を持って、最寄りの駅へと向かった。電車の中で、瑠璃はスマートフォンで目的地の情報を調べていた。


「ねえ葵、この公園には珍しい樹木があるみたいよ」


「へえ、どんなの?」


「イロハモミジっていうのがあって、葉の形が特徴的なんだって」


 葵は興味深そうに瑠璃の画面を覗き込んだ。「面白いね。探してみよう」


 目的地に到着すると、二人は思わず息を呑んだ。辺り一面が赤や黄色に染まっており、まるで絵画の中に迷い込んだかのようだった。


「綺麗……」瑠璃がつぶやいた。


 葵は瑠璃の手を取り、「歩いてみよう」と優しく言った。


 二人は落ち葉を踏みしめながら、ゆっくりと歩を進めた。時折立ち止まっては、色とりどりの葉を見上げ、写真を撮り合う。


「あ、これがイロハモミジかな?」葵が一本の木を指さした。


 瑠璃は葉の形をじっくりと観察し、「そうみたい。葉が本当に『いろは』の形をしているわ」


 二人は感心しながら、その木の下で記念写真を撮った。


 昼頃、静かな池のほとりに辿り着いた。「ここでピクニックしよう」瑠璃が提案した。


 葵はレジャーシートを広げ、瑠璃は手作りのお弁当を取り出した。秋の味覚がたっぷり詰まったおにぎりや、色とりどりの野菜の天ぷらなど、目にも美しい料理の数々。


「いただきます」と二人で声を合わせ、ゆっくりと食事を楽しんだ。


 食後、葵は持参していた俳句集を取り出した。「秋にぴったりの句を見つけたんだ」


 瑠璃は興味深そうに耳を傾けた。


「『秋深き 隣は何を する人ぞ』芭蕉の句だよ」


「素敵ね。まるで今の私たちのようだわ」瑠璃が微笑んだ。


 その言葉に触発されて、二人は即興で俳句を作り始めた。拙い句もあれば、思いがけず上手な句も生まれ、笑いの絶えない時間となった。


 午後遅く、瑠璃はスケッチブックを取り出し、目の前の風景を描き始めた。葵はそんな瑠璃の横顔を静かに眺めていた。


 夕暮れ時、帰り際に紅葉のライトアップを観賞した。昼間とは違う幻想的な景色に、二人は見とれてしまった。


 家に戻ると、瑠璃は「ちょっと待って」と言って、どこかへ駆け出した。戻ってきた彼女の手には、公園で拾ってきた紅葉の葉が数枚あった。


「しおりを作りましょう」


 葵は嬉しそうに頷いた。二人で協力しながら、押し花のような技法で紅葉のしおりを作った。


 夜、二人は今日撮った写真を見返しながら、静かに寄り添っていた。


「素敵な一日だったね」葵がつぶやいた。


「うん、忘れられない思い出になったわ」瑠璃が答えた。


 二人は優しくキスを交わした。


 そしてお互いの温もりを感じながら、秋の夜長をゆっくりと過ごしていった。窓の外では、風に舞う紅葉が月明かりに照らされ、静かに舞い落ちていった。

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