【夏】

第4章:朝顔の目覚め

 真夏の早朝、まだ空が薄明るくなり始めた頃、瑠璃は静かに目を覚ました。隣で寝息を立てる葵の顔をそっと見つめ、微笑む。瑠璃は慎重にベッドを抜け出し、ベランダに向かった。


 ベランダに出ると、朝の涼しい空気が瑠璃の肌を撫でる。鉢植えの朝顔に目をやると、つぼみがいくつか膨らんでいるのが見えた。


「もうすぐね……」瑠璃は小声で呟きながら、水やりを始めた。


 朝顔の世話をしていると、背後でドアの開く音がした。


「あれ? 瑠璃、こんな早くから?」


 葵が寝ぼけ眼で瑠璃を見つめている。


「ごめんね、起こしちゃった?」瑠璃が申し訳なさそうに言う。


「ううん、気にしないで」葵は首を振る。「コーヒー淹れようか」


 葵が台所でコーヒーを準備している間、瑠璃は朝顔の観察を続けた。やがて香ばしい香りと共に、葵がコーヒーカップを持ってベランダに現れた。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」瑠璃は感謝の笑みを浮かべながらカップを受け取る。


 二人で並んで朝顔を見つめながら、コーヒーを啜る。


「成長が早いね」葵が感心したように言った。


「そうなの。毎日変化があって、見ていて飽きないわ」


 朝日が少しずつ昇り、辺りが明るくなっていく。二人は朝の静けさを楽しみながら、今日の予定を話し合い始めた。


「今日は家でゆっくり過ごそうか」葵が提案する。


「いいわね。私は絵でも描こうかしら」


「僕は積ん読していた本を片付けようかな」


 朝食は簡単なトーストとサラダ。食事を終えると、それぞれの活動を始めた。葵は本を手に取り、ソファに腰掛ける。瑠璃はイーゼルを窓際に設置し、キャンバスに向かった。


 時折、二人は顔を上げて視線を交わす。言葉を交わさなくても、お互いの存在を確かめ合うように。


 昼過ぎ、葵が立ち上がった。「お昼にしよう。冷やし中華はどう?」


「いいわね。手伝うわ」


 二人で協力して冷やし中華を作る。具材を切り、麺を茹で、タレを作る。完成した冷やし中華を、ベランダで食べることにした。


「外で食べるのっていいね」葵が満足げに言う。


「うん、風が気持ちいいわ」


 食事を終えると、葵が言った。「そういえば、近所のプールが今日からオープンするんだって」


「本当? じゃあ、今日の午後行ってみない?」瑠璃の目が輝く。


「いいね。準備しよう」


 二人は水着や日焼け止めを用意し始めた。その間も、夏の思い出話に花が咲く。


「去年の海水浴、楽しかったね」葵が懐かしそうに言う。


「そうね。今年はどこに行こうかしら」


 準備を終えると、二人は近所のプールへと向かった。涼しげな水音が聞こえてくると、自然と足取りが軽くなる。


 プールサイドに到着し、二人は水に足を浸した。


「冷たい!」瑠璃が小さな悲鳴を上げる。


「でも気持ちいいよ」葵が笑いながら言う。


 二人で泳いだり、浮き輪で遊んだり、水中ウォーキングをしたり。時間が経つのも忘れて楽しんだ。


 夕方、家に戻った二人は、ベランダで涼みながら、朝顔を眺めていた。


「明日は咲くかな」瑠璃が期待を込めて言う。


「きっと咲くよ。楽しみだね」葵が優しく答えた。


 その夜、二人はリビングでヨガをすることにした。互いのポーズを見合いながら、体を動かす。


「葵、そのポーズ、かっこいいわ。あたしは体かたいから無理だけど」


 瑠璃が微苦笑を浮かべながら感心したように言う。


 葵は少し照れくさそうに微笑んだ。ヨガを終えると、二人の視線が絡み合う。静かな空気が流れる中、自然と体が近づいていく。


 柔らかな唇が触れ合い、優しいキスを交わす。二人の体が寄り添い、互いの鼓動を感じ合う。


「愛してるよ、瑠璃」葵がささやく。


「私も、葵」瑠璃が答える。


 二人は抱き合ったまま、そっと眠りについた。明日の朝顔の開花を楽しみに、幸せな夜が更けていった。

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