第2章:春の衣替え

 穏やかな日曜の午後、葵と瑠璃の部屋に柔らかな陽光が差し込んでいた。二人は今日、春の衣替えをすることに決めていた。クローゼットの前に立ち、扉を開ける。


「結構な量ね……」瑠璃が少し圧倒されたように呟く。


「そうだね。でも二人でやれば、きっとすぐだよ」葵が励ますように言った。


 まずは冬服の整理から始める。セーターやコートを一枚ずつ手に取り、思い出話に花を咲かせる。


「あ、このセーター」葵が優しく微笑みながら一枚のセーターを取り出した。「瑠璃が編んでくれたやつだ」


 瑠璃の頬が少し赤くなる。「覚えていてくれたの?」


「もちろん。大切に着ていたんだ」葵は柔らかな表情でセーターを胸に抱く。


 瑠璃は感動したように葵を見つめた。「嬉しい……私も葵のために、何か作りたくなったわ」


「そうだな……」葵は少し考え込んでから言った。「今年は僕が瑠璃にセーターを編んであげようかな」


 瑠璃の目が輝く。「本当!? 楽しみだわ」


 二人は冬服を丁寧にたたみ、収納袋に入れていく。その作業をしながら、お互いのファッションの好みや、服にまつわる思い出話で盛り上がる。


「葵って、昔はもっとカジュアルな服が多かったよね」瑠璃が言う。


「そうだったかな? 瑠璃に影響されて、少しずつ洗練されてきたのかもしれないね」葵が照れくさそうに答える。


 春夏の服を取り出し、アイロンをかけながら整理していく。明るい色彩の服が増えていくにつれ、部屋の雰囲気も春らしく変わっていく。


「ねえ、葵」瑠璃が突然声をかけた。「この着なくなった服、寄付してみない?」


 葵は少し驚いた様子で瑠璃を見る。「それ、いいアイデアだね。誰かの役に立てるなら嬉しいよ」


 二人は使わなくなった服を丁寧に選び分け、寄付用の箱に入れていく。その作業をしながら、物の大切さや、誰かの役に立つことの喜びについて語り合った。


 衣替えが一段落すると、葵が提案した。「少し疲れたね。近所のカフェに行って、休憩しない?」


「いいわね。行きましょう」瑠璃は嬉しそうに頷いた。


 二人で近所のカフェへ向かう。春の陽気に包まれながら歩く道は、新しい季節の訪れを感じさせた。カフェに着くと、春限定のデザートメニューが目に入る。


「わあ、桜のパフェだって」瑠璃が目を輝かせる。


「じゃあ、それを頼もうか」葵が優しく微笑む。


 注文したパフェを前に、二人は新しい季節の訪れを祝した。淡いピンク色のパフェは、まるで春そのものを閉じ込めたかのよう。


「美味しい……」瑠璃がうっとりとした表情で言う。


「うん、本当に春を感じるね」葵も同意する。


 カフェでのひとときを楽しんだ後、二人は帰宅の途についた。家に戻ると、葵は本棚から編み物の本を取り出した。


「どんなデザインがいいかな?」葵が瑠璃に尋ねる。


 瑠璃は真剣な表情で本のページをめくる。「うーん、シンプルだけど、どこか個性的なのがいいな」


 二人で相談しながら、瑠璃のための新しいセーターのデザインを考えていく。その作業は、まるで二人の未来を紡ぐかのように感じられた。


 夜が更けていく中、葵と瑠璃はベッドに横たわった。一日の疲れが心地よく体に染み渡る。


「今日は充実した一日だったね」葵がつぶやく。


「うん、とても」瑠璃が答える。


 二人は自然と体を寄せ合い、互いの温もりを感じる。葵が優しく瑠璃の髪を撫で、瑠璃は葵の胸に顔をうずめる。言葉なく、ただ互いの存在を確かめ合うように。


 静かな夜の中、二人の寄り添う姿は、まるで春の訪れを祝福するかのようだった。新しい季節の始まりと共に、二人の絆もまた、少しずつ深まっていくのを感じられる夜だった。

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