無口な彼女

小中学校の班分けの時に、よく一緒の班になった女の子がいた。


席替え、遠足、林間学校、そして園芸委員。


その子はいつも髪を、ふたつ結びにしていた。

いつも上目遣いで、比喩ではなく言葉の通り斜に構えて立っていた。

そして、いつも無口だった。


そんな彼女が、中学三年生の時の授業参観で言葉を発した。

教室内は、ざわめいた。


誰もが、彼女は授業参観では、しゃべらないと思っていたのだろう。

僕でも、彼女の声を数えるくらいしか聞いたことがなかったのだから。


人前が苦手な僕からしても、それはとても大きな一歩に思えた。

この頃、彼女は違う髪型にも挑戦していた。



月日が経ったある日、僕は母とスーパーに買い物に出かけた。

ドライブがてら、いつもは行かない地元のスーパーに寄ってみた。


商品を選び、レジに並んでいると、女性の店員さんが僕の横に並ぶように立っていた。

通路の邪魔だったかなと、僕は少し避け頭を下げた。

店員さんは僕の顔をしばらく見ていたが、やがて奥へ移動し、レジ打ちを始めた。


『あっあの子だ!』


彼女であることに気づいたが、僕は声を掛けなかった。

人違いかもしれないと、自分に言い訳をして。


それを知った母は、後日彼女のレジに並び、そのレシートを僕に渡してきた。

当時は、レジ担当者の名前が印字されていたからだ。


苗字は変わっていたが、彼女の名前が書かれていた。

名前の漢字も同じだった。

間違いない、彼女だ。


それで僕は、満足した。

同級生が、スーパーで働いている。

ただ、それだけだと思ってしまった。



あの時、僕の顔をジッと見ていた彼女は、「久しぶり」と思っていたのかもしれない。


僕の知っている彼女は、きっと自分から僕に声を掛けられないのだから、僕が彼女に声を掛けなければいけなかったのに。


僕は無口な彼女の想いを、踏みにじってしまったのかもしれない。



小中学時代、彼女と一緒に過ごした時間は長かったが、会話を交わすことは、ほとんどなかった。


僕は、別に彼女と何か話したいことがある訳ではない。


それでも僕は、あのとき彼女に声を掛けなかった後悔に、今でもさいなまれることがある。

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