無口な彼
小中学校の班分けの時に、よく一緒の班になった男の子がいた。
席替えや遠足で、よく一緒の班になった。
彼は五年生の時に、街から引っ越してきた。
転校生は、みんなの前で自己紹介をするものだと思っていたが、彼はそれをしなかった。
照れているのだと思い、休み時間にウザ絡みしてしまった。
それでも彼は何も言わなかった。
彼と僕は、容姿がよく似ていた。
2人とも身長が160cmあっても、体重は40kgあるかどうかだった。
ただ、彼は無口で、当時の僕はおしゃべりだった。
ある日、やや強引に彼の家に遊びに行くと、彼は突然、高い声でしゃべり出した。
そして、自慢のギャグ漫画を読ませてくれた。
学校でたまに発する謎の言葉は、その漫画のギャグだった。
月日が経ったある日、僕は街へ行く用事があり、電車に乗った。
先頭車両に乗り込むと、席は空いていて、どこでも座り放題だった。
『あっあいつだ!』
少ない乗客の中に、無口な彼を見つけた。
彼と目が合ったと思ったが、何たる事か彼は目を背けたのである。
乗り口がひとつ違う離れた席にいたので、気づかなかったのかもしれない。
声を掛けるべく、近づくと彼はもうすでに、にやついていた。
「ウェイ、無視しようとしたら〜」
方言だろうか?今では絶対にやらない小中学時代のノリで、またウザ絡みをしてしまった。
彼は学び直しをしていて、街に向かうところだった。
僕は終点まで行き、彼はその2つ前の駅で降りると言った。
しかし、その駅に着いても彼は降りなかった。
定期券は終点まで買ってあるから、一緒に来てくれると言うのだ。
心臓が強く脈打ち、胸の奥が温かくなった。
過去の僕たちの繋がりが、再び確かなものになったように思えた。
どうしても会いたい、というのとは違う気がする。
それでも、偶然にでも出会えた時、また一声かけてみようと思った。
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